坂口志文 大阪大特任教授 今年のノーベル生理学・医学賞に選ばれた大阪大の坂口志文特任教授らの研究チームは、受賞理由となった免疫の過剰な働きを抑制する「制御性T細胞」の人工的な作製技術を開発したと発表した。炎症や自己免疫疾患などの原因となるT細胞を基に作製することで、その疾患に対しより高い治療効果が期待できるという。論文は今月、米科学誌サイエンス・トランスレーショナル・メディシンに掲載された。
免疫細胞の一種であるT細胞の中には、誤って正常な細胞や組織まで攻撃し、炎症や自己免疫疾患を引き起こすものが一定の割合で存在する。こうしたT細胞の活動を制御性T細胞で抑える治療法の研究が進められているが、安定した細胞を人工的に作ることは難しかったという。
研究チームは、自己免疫疾患を発症させたマウスから採取した炎症原因となるT細胞を特殊な方法で培養し、安定的な制御性T細胞に変化させることに成功した。
また、作製した細胞の遺伝子を調べたところ、体内のT細胞とほぼ同じ性質だった。
さらに大腸炎などを発症させたマウスに投与し、体重減少の抑制や生存率の上昇などの有効性が確認できた。
一方、クローン病や全身性エリテマトーデスといった自己免疫疾患の患者の血液から採取したT細胞を使って、制御性T細胞が作製できることも確認したという。
研究を主導した大阪大の三上統久特任准教授は「抑えたい炎症に反応する制御性T細胞を作ることが理想だ。自己免疫疾患などの治療につながることを期待したい」と話した。