限定公開( 2 )

「飲食業界が逆風の中でも勝ち組」「コロナ禍の優等生」ともてはやされていた「焼肉店」が、ここにきて窮地に立たされている。
東京商工リサーチによれば、倒産件数は2024年、2025年と2年連続で過去最多を更新。2026年1〜6月も26件となり、2009年の統計開始以降、上半期として最多となった。
なぜ、ここにきて「淘汰(とうた)」が始まってしまったのか。よく言われるのは、輸入肉の価格高騰に加えて、人手不足や物価高によって個人経営の焼肉店が営業継続を断念するケースが増えていることだ。
加えて、焼肉チェーンのフランチャイジーの場合、「食べ放題」競争の激化を指摘する声もある。肉をはじめとする食材の仕入れ価格が高騰する中で「食べ放題」という薄利多売モデルで収益を確保するには、これまで以上に多くの客を集める必要がある。
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しかし、今や多くの焼肉チェーンが「食べ放題」を打ち出し、サービスの差別化が難しくなっているので、肉の種類で個性を出したり、魅力的なキャンペーンなどで集客しなくてはいけない。多くの客を受け入れられる店舗の広さも必要だ。そういう投資ができない焼肉チェーンは、客足も伸びないので食べ放題を続ければ続けるほど、採算が悪化するという悪循環に陥る。
ロードサイド型の大型店舗を展開し、トミカのプレゼントやハワイフェアなど、客を飽きさせない仕掛けを打ち出す「焼肉きんぐ」が、大手チェーンの中で「ひとり勝ち」となっている理由の一つだ。
ただ、個人的には「焼肉店の淘汰」を引き起こした大きな理由がもう一つあると思っている。それは「焼肉店キラー」ともいえるプレーヤーの急成長だ。
●10年で売り上げ7倍になった「焼肉店キラー」
直近10年間で売り上げを約7倍に伸ばしたロピアは、2年ほど前から全国出店を加速させている。ちょうど焼肉店の倒産が増え始めた時期と重なる。実際、ロピアがオープンすると長蛇の列ができるほどの人気となり、ほどなくすると近隣の焼肉店が閉店したケースも見られる。
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「そんな勢いのある焼肉チェーンがあったっけ?」と、首をかしげている人も多いだろうが、このプレーヤーは外食ではない。「コスパ最強スーパー」として知られる「ロピア」だ。
ロピアを展開するOICグループの2024年2月期売上高は4126億円で、直近10年間で約7倍に伸びている。1店舗当たりの売上高は約40億円で、一般的なスーパーの2倍強に当たるという。
・ロピア急成長の秘密 「食のテーマパーク」「食のSPA」が生む競争力(日経ビジネス 2026年6月29日)
この成長を支えているのが、徹底したコスパの訴求と、看板部門である「精肉市場」だ。ロピアを利用している人ならば分かるだろうが、このスーパーは肉の品ぞろえが豊富で、ボリューム感のある商品が多い。
さまざまな部位がセットになった「焼肉セット」や、味付け肉がお得な価格で売られており、毎月29日の「肉の日」には特売が行われ、オープン前から行列ができる。また、オリジナルの「焼肉のタレ」も人気で、2025年時点で累計100万本を突破している。
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「焼肉といえばロピア」というイメージが定着しつつあり、SNSでは「焼肉屋に行くよりもロピアで肉買って家で焼いたほうがいい」と話題になっているのだ。
●グループ会社で焼肉店も運営
「でもしょせんはスーパーの肉じゃん、お店の焼肉と比べたら食えたもんじゃないよ」と感じる人も多いかもしれない。しかし、それはロピアを見誤っている。
ロピアは1971年、神奈川県藤沢市で創業した精肉店「肉の宝屋」がルーツで、牛を一頭丸ごと仕入れる「一頭買い」や、自社加工を強みに現在の成長を遂げてきた。精肉は祖業であり、その品質やコストパフォーマンスは他の激安スーパーと一線を画しているのだ。実際、ロピアを運営するOICグループは肉の仕入れや加工のノウハウを生かし、焼肉店など肉料理を提供する店舗も複数展開している。福岡県ではヨドバシカメラの屋上に都市型バーベキュー「グリルピア ヨドバシ博多」を運営、グループ会社のeatopiaホールディングスは「焼肉ギュウトピア」「肉匠みちば」などを展開している。
そんな「肉のコングロマリット」ともいえるロピアが今、全国で次々と店舗を増やしている。
もともとは関東の1都3県で40店舗ほどで展開していたが、2020年ごろから全国に進出。2024年以降は、閉店したイトーヨーカドーの跡地などへの出店を足掛かりに、北海道、東北、関西、九州など幅広い地域に積極的に出店するようになった。店舗数は約90店舗に拡大した。
そう聞くと、ピンときた人もいるだろう。そう、ロピアの出店攻勢が加速した2年前は、冒頭で触れた「焼肉店淘汰」が深刻になったタイミングと見事に重なるのだ。
実際、ロピアの出店が地域の競争環境に影響を与えた可能性を感じさせる事例もある。例えば、ロピアは2025年5月23日に北陸初進出となる「ロピア ムサシ新潟店」をオープンした。地元スーパーと業務提携し、新潟市中央区に出店。オープン時には最大1800人が行列をつくった。
・【開店】最大1800人が行列 スーパー「ロピア」が新潟市にオープン “食のテーマパーク”掲げ県内初出店《新潟》(テレビ新潟のニュースサイト「TeNY NEWS NNN」 2025年5月23日)
その約8カ月後の2026年1月24日、「ロピア ムサシ新潟店」から車で約20分の場所にある「焼肉や善山」という焼肉店が閉店した。運営会社の企画二十一は6月5日に新潟地裁から破産開始決定を受けた。
また、「ロピア ムサシ新潟店」から車で10分ほどのところにある「焼肉ロッヂ 東新潟店」も2026年5月9日に閉店した。「焼肉1時間30分食べ放題」を看板メニューとしていた焼肉店だった。
●有名チェーンにも影響
「焼肉店キラー」ともいえるロピアの影響を受けるのは、有名チェーンも例外ではない。
2025年7月9日、ロピアは群馬県初の店舗「ロピア 伊勢崎店」をオープンしたが、その約半年後の2026年1月31日、「ロピア 伊勢崎店」から車で8分ほどの商業施設「ガーデン前橋」に入っている「すたみな太郎 ガーデン前橋店」が閉店した。1970年創業で、バイキング形式の焼肉食べ放題チェーンの草分け的存在だ。
さて、こういう話をすると「そんなもん全てこじつけだ! ロピアじゃなくて、人気の焼肉チェーンが周辺にできたんだろ」という声があちこちから聞こえてきそうだが、「焼肉店の競合は焼肉店」という先入観こそが、一般庶民の生活感を分かっていない人による「思い込み」に過ぎない。
外食ビジネスに関わっている評論家やコンサルタントは、どこかの外食チェーンが閉店すると、競合チェーンより値上げしたため客離れが起きた、コストパフォーマンスで見劣りした、タッチパネルを導入しておらず利便性で劣った――という競合分析をしがちだ。
もちろん、ビジネスパーソンの「仕事」としてはそれでいいが、庶民の現実とは乖離(かいり)している。物価だけが上がり、給料が据え置かれている庶民の食生活は、評論家やコンサルタントが思っているほど「外食」を中心にまわっていないからだ。
しかし、庶民は「外食」ばかりで生きているわけではない。
物価が高騰する中、外食ばかりをしていたら家計がパンクしてしまう。そのため、自炊や冷凍食品、スーパーやコンビニの総菜で食事を済ませることのほうが多く、外食をするのは、家計に余裕があるときや祝い事などの「ハレの日」に限るという人も少なくない。
その最たるものが「焼肉店」だ。
●自宅で焼肉を食べる頻度
マイボイスコムが2025年6月に実施し、1万1734人から回答を得た「焼肉に関するアンケート調査」(第5回)によれば、直近1年間に自宅で焼肉を調理して食べた人は7割弱。一方で「自宅ではほとんど食べない」は3割強だった。
この「焼肉は絶対に店で食べる派」だけを見れば、「小規模の焼肉店の倒産が増えているのは、焼肉きんぐのような食べ放題チェーンが客を奪っているからだ」という競合分析も正しいのかもしれない。
しかし、それはあくまで一部の消費者に限られ、焼肉を食べる人の多くは「自宅で焼肉を楽しみつつ、ときどき焼肉店にも足を運ぶ人たち」なのだ。
こうしたマジョリティの動きを踏まえれば、焼肉店の倒産増加とロピアの出店拡大には、一定の関連性がある可能性も考えられる。生活圏内にテレビやSNSで話題の焼肉セットを扱うロピアがオープンすれば、自宅焼肉の頻度は増える。つまり、近隣の焼肉店へ足を運ぶ機会が減る。芸能人やインフルエンサーのように、頻繁に焼肉を食べ歩ける人ばかりではない。家計を考えれば、自宅焼肉の機会が増えれば増えるほど、焼肉店に対する節約志向は強まっていくものなのだ。
これこそが、「肉のコングロマリット」であるロピアの全国への出店攻勢が、2024年に急増した焼肉店の倒産に影響しているのではないか、という筆者の仮説の根拠である。
ロピアを展開するOICグループは、「食のSPA」(製造小売業)ともいうべき体制を構築している。スーパーなどの小売だけでなく、焼肉店などの外食にも進出し、農産・水産を手掛ける会社を買収。さらに、養豚場などの畜産関連会社やしょうゆ・酢の製造会社まで傘下に収めているのだ。
●焼肉店淘汰は序章に過ぎない
先ほど、福岡市の「ヨドバシ博多」屋上で都市型バーベキューを運営していると述べたが、そのうちロピアの屋上でも、店で買った焼肉セットをすぐ焼けるバーベキューを始めるかもしれない。そこで提供される肉だけでなく、野菜や海鮮までOICグループ内で調達できる。
外食事業者の中には「ロピアって激安スーパーでしょ? 味で勝負しているうちの店とは客層が全然違うよ」などと軽視しているかもしれないが、ここまで「食のSPA」を構築したグループ力は目を見張るものがある。
焼肉店の淘汰は、序章に過ぎない。仮に食料品の消費税率が1%になれば、自宅焼肉や宅飲みなど、家庭内消費の需要はさらに増えるので、ロピアはさらに勢いを増すだろう。全国への出店もさらに加速する可能性がある。
外食業界は、ロピアを単なるスーパーと考えないほうがいいのではないか。
(窪田順生)
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