
ワタミは3月31日に「三代目 鳥メロ(以下、鳥メロ)」立川駅南口店を出店した。同チェーンはコロナ禍により居酒屋の出店を停止しており、5年9カ月ぶりの新規出店となった。
鳥メロの既存店売上高は2026年2月まで、何と51カ月連続で前年同月を上回っている。 しかも「既存店で見ると、コロナ前の売り上げを上回って、過去最高を更新する」(ワタミ執行役員外食営業推進本部・照内俊克本部長)好調ぶりだ。
決算発表で渡邉美樹会長兼社長がたびたび発言しているのは、他の宴会ができる大箱の居酒屋チェーンの店舗数が激減しているのに対して、鳥メロなどワタミの居酒屋が相対的に一定数を維持しているということ。宴会需要はコロナ前ほどではないものの回復してきており、見渡せば近くで宴会ができる店がワタミくらいしかなくなったため、結果的に順調に集客できているという。
酒や食材の仕入値、人件費、家賃などのコストが軒並み上昇する一方、顧客は節約志向を強めていて各チェーンは値上げが難しい状況だ。東京商工リサーチの調べによると、2026年上半期(1〜6月)の居酒屋の倒産件数は、1989年以降で過去最多の118件となった。 零細の個人店や中小のチェーンでは収益が悪化し、事業の継続が難しくなっているとみられる。
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居酒屋が不振と言われる中、鳥メロはなぜ出店を再開できるまで回復したのか。
●コロナ禍の戦略見直しが功を奏した
コロナ前には140店に達していた鳥メロだが、現在の店舗数は98店(6月時点)だ。 これは、ワタミが「コロナ後には若者をはじめとする酒離れがさらに進み、居酒屋の売り上げが7割程度にしか回復しないのではないか」と考えた結果でもある。コロナの最中に収益性が低い店を閉めるか、焼肉などの食事主体の業態に変更していった。
現状残っているのは、コロナ禍のような非常事態が起こっても、そのあと生き残っていけるであろう「厳選された店」ばかりになっている。 既存店の売り上げが過去最高になっているのは、鳥メロにとって最適な立地、営業形態の見極めが、しっかりできているからだろう。
そうした中、なぜ出店再開の1号店を立川に出したのか。前出の照内氏は次のように話す。
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「もともと立川には2020年6月まで店舗があった。どういう顧客がいて、ライバル店はどこというのも把握していたので、これなら成功できると思った」
つまり勝手知った場所で、店づくりが即座にイメージができた。 JR立川駅の1日の平均乗降客数は約30万人で、JR東日本では多摩地区最大。また、多摩都市モノレールの立川北駅と立川南駅を合わせて、約7万5000人が利用する。1日約37万5000人が利用するターミナル駅のすぐ近くという立地は、近隣住民やビジネスパーソン、買物客を取り込める点で非常に魅力的だ。
しかも、家賃が安めのビル3階で、居酒屋だった物件を居抜きで借りられた。4人席が中心で、テーブルを動かせることから多人数のグループにも対応し宴会需要に応えられる。
●鳥メロの強みはどこにある?
ワタミは10年前に、総合居酒屋から専門居酒屋へという流れの中で、串料理を中心とした総合居酒屋「わたみん家」を、鳥料理を専門とした鳥メロにブランド変更した。鳥メロでは鶏肉の品質を高めるため、国産化やチルド化を進めている。
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当初から看板のブランド鶏「清流若どり」は、水のきれいなロケーションで自然の豊かな飼料を与えられて育った鶏だ。「清流若どりもも一本焼き」(878円)は、3人分くらいのサイズがあり、シェアして食べるのが一般的。実際目にすると非常に迫力がある。
焼鳥や串揚げは1本88円からあり、6つのメニューで冷凍からチルドに変更した。 その他にも、ワタミファームの野菜を使った「農家のサラダ」や揚げ物、創作串焼きなどが充実している。締めの釜めしやラーメン、デザートまで、鳥居酒屋であっても、さまざまなニーズに応える総合性を合わせ持っている。
もちろん、宴会に選ばれやすい大衆性も強みだ。宴会に強い総合居酒屋を運営してきたワタミのノウハウが生かされている。コースメニューでは、霧島黒豚を使った4500円のコースを設定するなど、高級食材をリーズナブルに味わえるようにした。酒も生ビール218円はかなり安い。他にもメガジョッキのハイボールやフルーツカクテル、飲めない人にはノンアルカクテルと、ドリンクのバリエーションも豊富だ。顧客層は30〜40代が中心で、男女比は6:4となっている。
「和民」「坐・和民」から業態変更した「ミライザカ」も同じく鳥居酒屋であるが、こちらは唐揚げが中心になっている。
名物は「清流若どり 骨付きモモ一本 グローブ揚げ」(1098円)。その他にも、サラダに肉料理、海鮮、締めのラーメンや釜めし、デザートまでそろえ、こちらも総合居酒屋的な要素を備えている。 ドリンクメニューも安い。
店舗数は87店。コロナ前は154店だったが、鳥メロと同様に店舗を絞った。ミライザカも鳥メロと同様に業績は好調だが、やや顧客単価が高い。店舗も広いので、出店する場所選びに苦戦しているという。
●今後は出店戦略がより難しくなる?
東京・大井町にある「和民のこだわりのれん街」(2023年10月オープン)は、2026年3月に駅前の商業施設「大井町トラックス」が開業して以来、波及効果で前年より3割ほど売り上げが伸びており絶好調だ。 しかし、この店も手作りにこだわるので単価が上がり、さまざまな業態を集めているため広いスペースが必要になる点が悩ましい。多店舗化は現実的でないだろう。 むしろ、新商品の開発や商品の改良をこの店で行い、顧客の反応を確認して鳥メロやミライザカに出す「実験店」の役割を担っている。
ワタミの居酒屋では、食材をメーカーから購入していたものを、手作りにどんどん戻しており、調理のスキルが上がっている。それが好調の理由の1つでもある。
居酒屋以外の外食では「サブウェイ」が相変わらず好調。既存店売上高が68カ月連続で前年同月を超えている(6月時点)。 5月に発売した期間限定の「メキシカンミートタコス」など3種のタコスが、発売1カ月で50万食に達するヒットを見せた。現在は、夏の暑さを辛さで乗り越える趣旨で「タンドリーチキン」と「シラチャーグリチキチーズ」をシーズンの新商品として販売している。
アメリカンカジュアルダイニングの「TGIフライデーズ」では、7月31日に新宿歌舞伎町で新しい旗艦店をオープンした。105席の大箱だ。 現状、国内14店を展開しているが、2034年までに30店を一等地に出していく方針だ。
ワタミの居酒屋は若者や高齢者の酒離れ、企業などの大規模な宴会が縮小気味にもかかわらず、ニーズをうまく捉えて堅調であり、十分に伸ばしていける潜在力を持っている。 しかし、出店したい場所の物件が塞がっていて、なかなか店舗数を伸ばせないジレンマを抱えている。
そうした中でも、鳥メロは出店が最もしやすく、顧客単価も2500円ほどと手頃。今回の立川の新店が成功すれば、同様な乗降客数30万人ほどの駅前への出店の目途がつく。
今後、ワタミではワタミファームの有機野菜を活かしたサブウェイを事業の柱として考えている。外食ではTGIフライデーズなど他にも好調な業態があり、社員が独立したマスターフランチャイズを中心に、フランチャイズでの出店も積極化していく方針だ。
祖業である居酒屋も順調であり、まず鳥メロの店舗数回復に着手。急がず慎重に適地を見極めていく方針だ。居酒屋事業のV字回復への試金石である、立川駅南口店の今後の動向が注目される。
(長浜淳之介)
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