『アンナチュラル』『グッド・ドクター』『ぎぼむす』……人々が“化学反応”を起こした今年のドラマ

1

2018年12月26日 06:02  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真

 2018年のテレビドラマも豊作であった。今回はその中でも特に完成度の高かったものを紹介しよう。良質なドラマはいつの時代も、人と人が出会ったとき、組織やグループの中で意見がぶつかりあうとき、あるいは大切な者同士が愛し合うときなどに生まれる“化学反応”をないがしろにしない。医者が主人公の作品であれ、ホームドラマであれ、カリスマが活躍する作品であれ、同じことが言える。筆者が選んだのは、以下の作品である。作風はどれも全然違うが、それぞれの“反応”に惹きつけられたものばかりだった。


参考:野木亜紀子が振り返る、『アンナチュラル』の成功 「自分が面白いと思うものをつくっていくしかない」


●『アンナチュラル』(TBS系)
 本作の主演は石原さとみである。各話の解剖を通して紡がれる物語には幾度となく心を打たれたものだ。ただ、同様に井浦新演じる中堂の物語も観る者に訴えかけるものがたくさんあった。というより、彼の話を描くことにこそ、本作の意義の一つがあったように思える。


 恋人の死に関わる事実を追い続ける彼は、随所でどこか影のある一面を見せてきた。悲哀、憎悪、あるときには諦念といったように、顔に浮かぶ感情はシーンごとに変化する。ある意味では邪悪なときもある己の感情との葛藤の中で、中堂は自分なりにその感情と共存してきた。怒りという形をとって気持ちが溢れるときもあった。


 しかし、彼はミコト(石原さとみ)との関わりがあったからこそ、恋人をひたむきに愛し続ける自分こそが、本来の自分であることを忘れずにいられたのかもしれない。『アンナチュラル』は主題歌の「Lemon」(米津玄師)との“地続き”が何となく感じられた。それは、多くの視聴者が考えたように、中堂の物語があったことが理由の一つなのかもしれない。


●『グッド・ドクター』(フジテレビ系)
 自閉症スペクトラム障害、サヴァン症候群を抱えている主人公の医師・新堂湊(山崎賢人)。そんな湊と、様々な病を抱える患者や家族との交流を丹念に描いた作品である。


 湊という主人公はまさしく“博愛”の体現者だった。藤木直人演じる高山医師からは、当初辛辣な言葉を浴びせられることが何度もあった。それでも湊は高山に怯えることはあっても、高山という人間を理解しようとした。虐待を受けた父親と再開したときも、湊は父親から認められ、ただ好きでいてくれることを望んだ。どんな相手であっても、心のドアをなるべく開け続けようとする彼のスタンスはまさに“博愛”と呼ぶに相応しかった。


 患者であれ、同僚であれ、そうしたスタンスで人に接する湊の姿に惹きつけられた。彼がサヴァン症候群を持つ医者であるということ以前に、ただ純粋に一人の医者としての姿勢が光っていた。


●『義母と娘のブルース』(TBS系)
 「私が笑ったら、自分が笑った気になる」「私が傷つけられたら、自分のことみたいに怒る」「自分が欲しかったものを、全部あげたい(と思う)」。みゆき(上白石萌歌)はこれらを「世間じゃ“愛”って言う」のだとぶつけた。


 本作の重要なメッセージの一つは、みゆきのこの台詞にある。亜希子(綾瀬はるか)はビジネスの世界では何でもこなすスーパーウーマン。しかし、そんな亜希子もみゆきとの関係構築はすぐには上手くいかなかった。私たちもまた「“愛”とは何か」と聞かれると、とかく難しく考えてしまうもの。しかし、答えは案外とてもシンプルだった。シンプルなのに上手く言い表せない。そんな“愛”のシンプルにして正鵠を得た定義を、『ぎぼむす』から教わった気がした。“愛”に限らず、当たり前のように存在するものとみなしていて、実ははっきりとそのことを説明できないことが沢山ある。本作で何度も示された日常の“奇跡”もその一つである。


●『ドラマBiz』枠3作品(テレビ東京系)
 2018年のドラマを語るにあたり、この放送枠に触れないわけにはいかない。今年4月から始まった『ドラマBiz』枠は、江口洋介主演の『ヘッドハンター』に始まり、仲村トオル主演の『ラストチャンス 再生請負人』、唐沢寿明主演の『ハラスメントゲーム』と続き、3作すべてが良作だった。


 例えば、直近の『ハラスメントゲーム』では主演の唐沢に加え、広瀬アリス、古川雄輝、市川由衣、滝藤賢一、石野真子、佐野史郎、高嶋政宏などがレギュラー出演したほか、余貴美子、斎藤工、八嶋智人、杉本哲太、石井正則、松下由樹、加藤雅也等々、超豪華ゲストの登場も話題に。井上由美子が原作・脚本を、コブクロが主題歌をそれぞれ務め、まさしく“全員野球”感がみなぎる作品であった。


 『ヘッドハンター』『ラストチャンス』も同様に、熟練のキャスト布陣に加えて、良質な脚本・演出のもとに制作されたものであり、テレ東ドラマの“プライド”が存分に伝わってきた。(西森路代)


ランキングエンタメ

前日のランキングへ

ニュース設定