東日本大震災、熊本地震、能登半島地震ーー震災のたびに被災地で炊き出しを続けるオレンジ色を基調にしたキッチンカーがあります。牛丼チェーン「吉野家」(本社、東京都中央区)が運行するオレンジドリーム号。移動先で看板商品の牛丼が提供できる「動く吉野家」について、同社に話を聞きました。
運行開始は2008年11月、全国で17台が活躍中
オレンジドリーム号の運行開始は2008年11月。出店がないエリアでも吉野家の味を広く楽しんでもらいたいと導入しました。車内には店舗と変わらぬ厨房設備があり、「都心のオフィス街から店舗のないエリア、離島にまで出向いて営業を行っています」(同社担当者)。現在では関東12台、関西2台、九州2台、北日本1台の計17台が稼働中です。
災害が起こると被災地に駆けつけ、牛丼と白米をセットにした牛丼弁当の炊き出しを行います。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、約2カ月間にわたり宮城県と岩手県を中心に活動。1台で約1000食分の調理ができ、1日最大3000食を継続的に提供しました。2016年4月の熊本地震では、自社の公式Xに「炊き出しのお知らせ」として日時や場所を投稿したことも。2024年の能登半島地震では合計8189食を配りました。
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熊本や能登半島地震発生後のSNS投稿を調べると、被災地で他県ナンバーのオレンジドリーム号を見たという驚きの声や、実際に提供を受けたという感謝の声が並んでいます。「なんと避難所に吉野家さんが来てる」「〇〇ナンバー。そんな遠くからありがとうございます」「吉野家のキッチンカー初めて見た。感動」など。
導入前…阪神・淡路大震災でも炊き出し
オレンジドリーム号の導入前、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の避難所でも同社の炊き出しは行われていました。社員有志らは避難所のテントの下に大鍋や食材を持ち込み、温かい牛丼を振る舞いました。
「1月18日から兵庫県警本部へ牛丼弁当1000食を無料で提供しました。また1月26日からは神戸市長田区の中学校で牛丼弁当、お新香、みそ汁、各1500食を作り、被災者の皆さまに配布しました」(同社担当者)
被災直後に口にした味は、30年経った今でも被災者らの記憶に残っているようで、ネット上には「吉野家、炊き出しに来てくれたなあ」「温かい食事にお腹も心も満たされた」「吉野家は動きが早かった」「でっかい鍋と炊飯器を見た」「被災した店でも炊き出ししてた」「近所の店で牛丼を無料でもらった」など、当時の記憶を書き込むユーザーが多数います。
賞味期限3年…常温保存できる缶入り牛丼を開発
同社では被災地での炊き出しの経験や、25年以上にわたり販売する「冷凍 牛丼の具」の技術を生かし、常温の防災備蓄食料品を開発。2019年5月、温めずに食べられるご飯缶詰「缶飯(かんめし)」シリーズを発売しました。年々、備蓄品として注目が高まり、累計販売個数は220万食を超えています(2024年7月末)。
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根底にあるのは「緊急時だからこそ、おいしくて栄養価の高いお食事を召し上がっていただきたい」という思いだといいます。
「当社には震災支援に赴いて、被災の様子を目の当たりにしたことを心に深く刻んでいる従業員も多くいます。今後も吉野家は日常食の担い手として、緊急時であっても日常慣れ親しんだ味わいをお届けできるよう、オレンジドリーム号に限らず、常温商品の開発提供などにも尽力してまいります」(同社担当者)
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缶飯シリーズは高機能玄米「金のいぶき」の上に具が盛り付けられており、味は牛丼、豚丼、焼鶏丼、焼塩さば丼の全4種。1缶160g。賞味期限は3年。公式通販ショップで販売中。6缶セット4860円(税込み)。
(まいどなニュース・金井 かおる)
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