画像:TBSテレビ『クジャクのダンス、誰が見た?』公式サイトより この冬クール、事件が絡む“男女バディ”のドラマがなんと5作品もあります。うち3作品が、リーガル系ドラマをはじめ弁護士がバディを組む内容です。
もちろん男女バディ×事件モノのドラマは決して珍しくはありません。しかし、この冬クールのラインナップを観ていると、描き方に“時代の変化”が訪れたように感じます。
どんなジャンルでも常に“恋愛要素”を盛り込む時代は終わったのかもしれません。
◆男女バディの事件モノは鉄板?! 男女が組むことの魅力
今クールで注目すべきは“男女バディ”がとにかく多数登場していること。
弁護士が男女バディを組んでいる3作品が、『法廷のドラゴン』上白石萌音×高杉真宙、『アンサンブル』川口春奈×松村北斗、『クジャクのダンス、誰が見た?』広瀬すず(彼女は事件関係者)×松山ケンイチ。
他にも刑事×通訳者の『東京サラダボウル』奈緒×松田龍平、探偵×不動産会社社員の『問題物件』上川隆也×内田理央も男女バディの作品として放送中です。
過去のドラマでも、『トリック』仲間由紀恵×阿部寛、『ガリレオ』福山雅治×柴咲コウ・吉高由里子、『SPEC』戸田恵梨香×加瀬亮、『リーガル・ハイ』堺雅人×新垣結衣などなど、数多くの男女バディ×事件モノドラマが制作され大ヒット。
続編や映画化された作品が多く並びます。男女バディは、事件を解決するために必要な能力や長所(ときに短所)、そして役割を分担しやすいという面でも描きやすいのかもしれません。
タイプの違う視点で事件を見つめたり、違う意見をぶつけ合ったりすることで、事件や人間をより深く描くこともできるでしょう。
また一昔前は、それ以上に“恋愛要素”を追加しやすいという側面もあったように思います。
◆平成の男女バディは「くっつきそうで、くっつかない」
“恋愛要素”を感じさせながら大ヒットした男女バディの作品といえば、なんといっても『HERO』ではないでしょうか。
木村拓哉演じる型破りな検察官と、松たか子演じる生真面目な検察事務官(2015年劇場版では検事)が、東京地検城西支部を舞台に数々の事件と向き合うリーガルドラマ(2014年ドラマ、2015年劇場版は北川景子が検察事務官)。
大筋は検察官と検察事務官が反発し合いながらも仲間とともに、担当する事件を解決していきます。
一方で、ふたりが事件を通してお互いの価値観や想い、個性に触れて絆を深めていく描写も。
そして犯人から守ったり、距離がぐっと近づいたり、お互いを男女として意識する“胸キュンシーン”も散りばめられていました。
「くっつきそうで、くっつかない」。
そのもどかしさに、本筋の事件と同じくらいハラハラドキドキしたことを覚えています。
前述した過去の男女バディ作品においても、そういった描写は多かれ少なかれありました。
トレンディドラマの名残なのか、人気俳優同士の胸キュンシーンを求める視聴者が多かったからか。平成当時、“恋愛要素”は男女バディにおいて必須だったのかもしれません。
◆令和は一転、もう恋愛要素は必要ない?
しかし、令和に放送されたある男女バディのリーガルドラマによって、“恋愛要素”はなくても作品は面白いことが証明されます。
それは、ドラマ『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』の石羽コンビです。
有村架純×中村倫也のW主演ということで、観る前から「くっつきそうで、くっつかない」いつものパターン! と筆者は決めつけてしまっていました。
しかし、そんな展開はありません。凝り固まっていた自分の価値観を、一気にアップデートされた気分。その描き方こそが現実的だと感じました。
もちろん仕事で協力しあった男女が恋に落ちることはあるでしょう。ただ現実では大半の場合、仕事仲間としてのリスペクトはあっても恋愛感情に発展するケースは稀なように思います。
実際、石羽コンビもお互いを理解しあったり、尊重したり、優しくしたり、守ったりするシーンはありますが、それはあくまで仕事仲間として。
その描き方にはリアリティがあり、多くの共感を呼んだのではないでしょうか。
◆無理に恋愛要素を入れ、ファンの反感を買った例も
同じ2022年に放送されたドラマ『ミステリと言う勿(なか)れ』(原作:田村由美氏による同名漫画)で、“恋愛要素”を追加したことが物議を醸したことも、時代を象徴しているかもしれません。
菅田将暉演じる主人公に対して、刑事役の伊藤沙莉が恋心を抱いているかのような描写があったのです。そのようなエピソードやふたりの関係性は原作には一切ないことから、「このふたりに恋愛要素は不要」「原作を無視している」「不必要な改悪」といった意見が多くみられました。
確かに! 菅田×伊藤の恋愛シーンが観たい視聴者もいたかもしれませんが、それはぜひ、元から恋愛をテーマにした作品で観たいものです。
男女バディだからといって“恋愛要素”を無理やりにでも入れる時代は、とっくに終焉を迎えたのかもしれません。
◆必須ではない“恋愛要素”だけど、完全に不要なのか
今クールで放送されているリーガルドラマの男女バディはどうでしょうか。
『クジャクのダンス、誰が見た?』広瀬すず×松山ケンイチには、全く“恋愛要素”はありません。
父の死だけではなく父が刑事として犯した罪にも向き合わなくてはならない主人公・心麦(広瀬)と、22年前の冤罪を追いながら死刑囚の息子を弁護しなくてはならない弁護士(松山)。圧倒的ミステリー要素しかない展開に、“恋愛要素”を追加する余白は一切ないでしょう。
『法廷のドラゴン』上白石萌音×高杉真宙は、今のところ当人同士に恋の予感を感じることはできません。
上白石×高杉のコンビが、ビジュアル・キャラともに愛らしくて尊いのが本作の魅力です。
筆者の個人的な好みとしては不要かと思いますが、周囲(特に上白石の父・田辺誠一)が「ふたりが恋愛関係に発展するのではないか?!」とやきもきするシーンもちらほら。今後の展開次第ではありなのかもしれません。
逆に『アンサンブル』川口春奈×松村北斗は、恋愛がど真ん中にあります。
初回から田中圭が川口の元カレとして登場して、明らかに三角関係に発展するフラグ。恋愛テーマ好きの視聴者のために制作されたようなドラマで、存分に胸キュンシーンが楽しめます。
◆自然な流れなら、“恋愛要素”はあってもなくてもいい
男女バディであっても、もしくは同性同士のバディであっても、自然な流れであれば“恋愛要素”はあってもなくてもいい。テーマや登場人物のキャラクターによって、様々な描き方があっていいということではないでしょうか。
結局、私たちドラマ好きは恋愛要素があろうとなかろうと、そこに納得感があれば良い。ただ面白いドラマが観たいのです! 今クールの男女バディ×事件モノも、それぞれに楽しみたいと思います。
<文/鈴木まこと>
【鈴木まこと】
日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間でドラマ・映画を各100本以上鑑賞するアラフォーエンタメライター。雑誌・広告制作会社を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとしても活動。X:@makoto12130201