石坂浩二 松平武元役は「渡辺謙さんと相談しながら、お芝居を工夫しました」【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

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2025年04月13日 20:50  エンタメOVO

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(C)NHK

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。4月13日放送の第15回「死を呼ぶ手袋」では、次期将軍候補だった徳川家基(奥智哉)が急死するという幕府の一大事が発生。その真相を巡って、対立してきた老中・田沼意次(渡辺謙)と老中首座の松平武元が駆け引きを繰り広げた末、両者が和解するという驚きの決着を見た。ここまで松平武元を演じてきた石坂浩二が、その舞台裏に加え、数多くの作品を経験してきた大河ドラマへの思いを語ってくれた。




−第15回、徳川家基毒殺の証拠となる手袋が、武元の手に渡ったことを知った意次が「自分が疑われる」と焦って武元の屋敷を訪れたところ、実は…という展開は鮮やかでした。演じてみた感想はいかがでしたか。

 第15回あたりで武元が亡くなるとあらかじめ聞いていましたが、詳しいことは知りませんでした。台本をいただいて読んでみたら、意次との最後の対話が非常に見事な作劇で描かれていて。だから、台本にのっとって一生懸命演じました。ただ、撮影が近づいた頃、現場にいらっしゃった森下(佳子/脚本家)さんから、「第15回を楽しみにしています」と言われたのはプレッシャーでした(笑)。

−そんな森下さんの脚本の魅力をどのように感じていますか。

 森下さんの脚本は、何気ないせりふが、後々きちんと生きるように書かれているんです。後から「こうなっていたのか」と気付くことも多く、役者としてはそれを感じとることはなかなか難しいのですが、第15回も、森下さんの計算通りに皆さんの予想を裏切ることができたなら、頑張ったかいがありました。

−あのシーンでは、田沼意次役の渡辺謙さんとのお芝居も見事でした。

 最終的にあそこで武元は、「今回の件で、私とお前の志が同じであることがよくわかった」と言っているわけです。ただ、その裏にある思いまで詳しく語っているわけではないので、謙さんとはその辺をしっかり話し合った上で、撮影に臨みました。

−武元はどんな思いを秘めていたのでしょうか。

 あの時点で武元は、政治の表舞台を去るつもりだったと思うんです。次の将軍候補として支えてきた家基が亡くなり、自分の役目は終わってしまったわけですから。そこで、後を任せられる人間は誰かと考えてみたら、意次しかいない。政治を動かす力もあるし、世の中も彼の言うような方向に変わってきている様子を見ると。そういう思いで、意次を呼び出したんだと。謙さんとはそんな話をしました。

−渡辺謙さんとご一緒されるシーンが多かったですが、共演はいかがでしたか。

 謙さんとは対立するシーンが多かったので、単調にならないように毎回相談しながら、せりふの言い方やお芝居を工夫していました。中でも、第2回で意次が「もはやこの世はすべて『金』。何をするにも、金が入り用になりまする」と言いながら、長火鉢に火箸で「金」と書いたシーンは、僕と謙さんのお気に入りです。撮影の合間には、2人とも阪神タイガースのファンなので、阪神の話で盛り上がっていました(笑)。







−ここで改めて、松平武元を演じる上で心掛けたことを教えてください。

 武元は、3代の将軍に仕えた人物なので、“コテコテの徳川派”という雰囲気を出そうと考えていました。つまり、太平の世を守るため、江戸幕府を開いた徳川家康のやり方を継承していくことが自分の仕事だと信じている。それに対して、経済を貨幣本位に移行すべきだという新しい考えの持ち主が意次です。そんな意次と相対する古い人間であることを印象付けるため、手を動かす、刀や扇子を使う、といった軽々しい動きは控え、どっしりとした雰囲気を出すことを心がけました。せりふも、歯切れよくしゃべるのではなく、なんとなく流れていくような言い方で、古さを表現できればと。

−細かいところまで気を配られたわけですね。

 ただ、第15回で意次と対面する場面は、それまでと違って幕府という公の場ではなく、武元の屋敷だったので、手や体を使ってお芝居してみました。

−武元のトレードマークともいえる大きな眉毛は、どのようにして生まれたのでしょうか。

 台本を読んでみたら「あの白眉毛が」などと言われているわけです。ならば、それにふさわしいものをつける必要があるのでは、という話になり、チーフ演出の大原拓さんも、「大胆にやった方がいいです」とおっしゃるので、かつら担当の方に大きな眉毛を作っていただきました。ただ、最初にテストで着けてみたら、大きすぎて前が見えなかったんです(苦笑)。それを少しずつ調整しながら短く切っていき、出来上がりました。

−そのかいあって、強く印象に残りました。

 最初に現場で撮影した映像を見たときは、「やや大げさかな…?」と感じたのですが、不思議なもので、使っているうちにそういう違和感もなくなってくるんです。今となっては懐かしいくらいで、記念にいただいておこうと思います(笑)。

−その眉毛に関する撮影時のエピソードはありますか。

 第6回で日光社参を巡って話し合ったとき、武元が「田沼のご家中は、馬には乗れるのか?」と足軽上がりの田沼家をからかう場面がありました。このとき、「高家吉良様よろしく、ご指南願えればと存じまする」と忠臣蔵になぞらえてうまく返した意次に対して、武元は「これは一本取られたのう」と答えたのですが、実はあのとき、「一本」にかけて、眉毛を一本抜いたんです。監督が面白がってくれて、アップでも撮ったのですが、アップはカットされてしまい、一本損しました(笑)。

−松平武元は第15回で亡くなりましたが、これまで主演を含め、大河ドラマに何度も出演してきた石坂さんにとって、大河ドラマとはどんな存在でしょうか。

 僕が「天と地と」(69)で初めて大河ドラマに主演したとき、当時お世話になった作家の菊田一夫先生から「大河ドラマは大変だよ。1年やれるかね?」とさんざん脅されたことをよく覚えています(笑)。確かに大変でしたが、その分、お芝居について多くのことを勉強させていただきました。ほかではできない経験で、言ってみれば“大河学校”に留学したような気分でした。

−やはり大河ドラマは特別なのですね。

 ただ、大河ドラマで歴史上の人物を演じると、いくらテレビドラマとは言っても、責任が生じます。例えば、今回の田沼意次のように、今まで言われてきた“賄賂政治”の象徴のような悪役ではなかった、という描き方になれば、地元の方が喜んでくださるわけですから。そういう責任感を持って演じないといけないね、という話は謙さんともしていました。

−数多くの大河ドラマを経験した石坂さんならではのお話です。

 その一方で、今回うれしかったのは、松平武元が今までテレビドラマや映画に登場する機会が少なく、あまり知られていない人物だったことです。そこにやりがいを感じました。そんなふうに、歴史上の人物には、時代と共に新しい解釈が生まれ、新たな人物にスポットが当たっていきます。だから今後も機会があれば、歴史上の人物を演じてみたいですね。

(取材・文/井上健一)




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  • 観ました!!茶室での武元と意次のシーン。さすが石坂さん!セリフに重みがあって納得させらる圧巻のすばらしい演技でした。�Ԥ��Ԥ��ʿ�������
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