ローソン「マチの本屋さん」は何を変えたか 書店空白地に本棚をつくった

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2025年05月19日 08:30  ITmedia ビジネスオンライン

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本が並ぶローソンってどんな感じ?

 ローソンがトーハンと連携して展開する書店併設型店舗「LAWSONマチの本屋さん」(以下、マチの本屋さん)がじわじわ増えている。


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 2021年6月に埼玉県狭山市に1号店をオープンし、2025年5月初旬時点で14店舗まで拡大。北は青森から南は愛媛まで、さまざまな地域に点在する。市町村に書店がない「書店空白地」や書店が少ないエリアを狙って出店している。


 「マチの本屋さん」では、通常のローソンの品ぞろえに加えて、約20坪の面積に約7000タイトルの書籍を販売している(一般的なモデルケース)。一般的な店舗では、常時100タイトルほどで雑誌が中心。一方、「マチの本屋さん」では文庫本、小説、ビジネス書、児童書なども幅広くそろえ、各地域ごとの「ご当地本コーナー」も設けている。


 全国の書店数がどんどん縮小するなか、コンビニに書店を併設することで、どのような効果が生まれているのか。ローソンで「マチの本屋さん」を担当するエンタテインメントカンパニー マーチャンダイザー 日下部昇平氏に取材した。


●コンビニ内に約7000タイトルを品ぞろえ


 「マチの本屋さん」は、ローソンとトーハンが連携して展開する書店併設型店舗のブランドだ。以前は日本出版販売が取次を担当していたが、現在はトーハンが行っている。


 弁当やデザート、飲料など通常のローソンの品ぞろえに加え、約20坪の面積に約7000タイトルの書籍が並ぶ。2021年6月に埼玉県狭山市に1号店をオープンし、全国に14店舗を展開している(2025年5月初旬時点)。


 少しややこしいが、ローソンでは「マチの本屋さん」とは別に、スリーエフとの協業店舗「ローソン・スリーエフ」などでも、地域の書店と連携した「書店併設型店舗(2014年〜)」を展開している。この店舗はスリーエフ発のビジネスモデルで、30年ほど前から続いている。


 スリーエフが蓄積してきたコンビニ併設書店のノウハウをローソンに共有し、「マチの本屋さん」の出店に至った。2025年5月初旬時点で、この書店併設型は17店舗(埼玉1、神奈川11、広島5、そのうちローソン・スリーエフは神奈川の9店舗)を展開している。


 ローソンの方針として、積極的な新規出店よりも既存店の利益増に注力したい意向があり、その一つの施策が「マチの本屋さん」だ。


 「全国的に書店数が縮小しており、書店単独では事業として成立しづらいエリアが多くあると予想します。一方で、本を手に取って、その場で購入したいお客さまのニーズはあるだろうと。コンビニに書店を併設すれば、そういったエリアでもビジネスチャンスがあると考えました。通常のコンビニよりも商圏が広がりやすく、相乗効果で売上増が期待できます」


 「マチの本屋さん」における選書や売り場の企画は、日下部氏が所属するエンタテインメントカンパニーが担当する。文庫本、小説、ビジネス書など幅広くそろえるが、戦略的に児童書や女性向けの書籍を増やしている。各地域の特色を生かした「ご当地本コーナー」も展開する。


●どんな場所に出店しているのか


 「マチの本屋さん」の出店場所は、市町村内に書店が1つもない「書店空白地」や書店が少ない地域となる。


 例えば、2023年1月に「マチの本屋さん」としてリニューアルオープンした「ローソン向ヶ丘遊園南店」(神奈川県川崎市)は、店舗のある向ヶ丘遊園駅周辺に書店がない。また、川崎市の人口1000人当たりの書店坪数は約2.9坪で、全国平均の約9.7坪に比べて大幅に少ない(※)。


 2025年4月に新規オープンした「ローソン内子五十崎インター店」(愛媛県内子町)は、町内に書店がないエリアだ。2024年9月に閉店した書店の跡地に出店した。


 「出店基準の最優先事項は、コンビニとして事業が成り立つかどうか。商圏人口や来店客数の見込み、人流、アクセスなどさまざまな条件を加味して総合的に判断します。そのうえで、より商圏を広げるための施策として、『マチの本屋さん』のビジネスモデルがマッチするかを検討します」


 店舗面積はコンビニ部分が約50坪、書店部分が約20坪が平均的で、既存店を「マチの本屋さん」にリニューアルする場合は、書店部分の増床改築工事をすることが多い。ただ、必ずしも工事が必要ではなく、スペースやコストを抑えて導入することも可能だという。


 例えば、店舗面積が約35坪の「ローソン石巻相野谷店」(宮城県石巻市)は、書店部分の増床改築工事をせず、店内のレイアウト変更によって「書店スペース」を確保。書店スペースは約5.6坪と標準的な店舗の約4分の1程度で、約2000タイトルを扱っている。


●「併売」や「目的来店」が生まれ、売上増に貢献


 書店が不足している地域に「マチの本屋さん」を出店して、どんな効果が出ているのか。


 これまでの実績では、通常のコンビニの来店層と比較して女性客数が約1〜2割増えるほか、家族連れやシニア層の来店が増える傾向がある。そのため、児童書や女性向けの書籍などを充実させており、売れ行きも良いそうだ。


 「お客さまからは、『思った以上に書店部分が広い』『こんなにたくさんの本を取り扱っていると思わなかった』『近隣に書店がなくて困っていたから助かっている』などの前向きなコメントを多数いただいています。通常のコンビニで売れ行きがいい雑誌カテゴリーとその他の書籍の併売が進み、リピーターも生まれていると思います」


 書店併設により「目的来店」を促すことにつながり、売上向上に貢献しているようだ。コンビニに来店する目的の多くは、「のどが渇いた」「デザートが食べたい」などで、近くにあるコンビニならどこでもいいという人が少なくない。だが、「マチの本屋さん」は書店があるからという理由で、やや遠方から“わざわざ買いに来る”人が増えているという。


 書籍と食料品などを一緒に購入する人も多い。飲料やお菓子、からあげクンなどを書籍と一緒に買っていく人が目立ち、コンビニで扱う食料品類と書籍は親和性が高いようだ。


 さらに、ローソンのPBとして書籍コーナーで販売している雑貨類も好調だ。出版社の宝島社と協業して開発している商品のほか、アニメなどのIP(知的財産)とコラボしたアクリルキーホルダーなどのグッズも精力的に展開している。


 「これらのPB商品は、『マチの本屋さん』だけでなく、通常のローソンでも販売しています。宝島社さんとのコラボ商品は、毎月3〜4点を発売しています」


●課題は「売り場づくり」や「接客」


 このように書店とコンビニの相乗効果が見えてきており、ローソンでは、引き続き「マチの本屋さん」を拡大していく方針だ。それを実現するには、どんな問題があるのか。


 「『従業員の育成』が一番の課題と言えます。『マチの本屋さん』は、直営もフランチャイズもどちらもありますが、いずれにしても、書店運営に十分なスキルを持つオーナーや従業員は多くいません」


 「マチの本屋さん」をオープンする際は、該当店舗のフランチャイズオーナーや従業員に対して書店運営に関する研修を実施している。しかし、得られるのは基本的な情報のみになるため、「接客」や「売り場づくり」のスキルアップには相応の経験を積むことが求められる。


 「売り場づくりに関しては、定期的にトーハンの担当者の方に巡回いただき、当社からの意向も踏まえながら各店にアドバイスをしています。本来であれば、各店の売り上げに応じて棚の構成を変更できればベストですが、まだそこまでは手を加えられていません」


 小規模な書店では、来店層に合わせた売り場構成やレイアウトの工夫、販促ツールのPOP活用、効率的な情報発信などの施策が、売上向上に寄与するとされている。「マチの本屋さん」でも、自主的にPOPを作るなどして積極的に売上増を狙う店舗もあるが、まだ少数のようだ。


 ただでさえ業務が多岐にわたるコンビニに書店を併設することは、大きな負担となる。しかし、経験を積み重ねることで書店運営スキルが向上すれば、売上増につながる可能性はありそうだ。


(小林香織、フリーランスライター)



このニュースに関するつぶやき

  • 本に興味のないバイトから本を買う。それがメディアに推奨される社会。中身をきちんと見てほしくないメディアと同様。バカみたいだな
    • イイネ!4
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