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6月、国内ホテル各社がオンライン旅行代理店(OTA)「Agoda」を名指しして注意喚起を行った。Agoda経由での予約がホテル側に反映されていなかったほか、異なる部屋タイプで予約されるなどのトラブルがあったという。
【画像】わざわざ赤字で注意喚起を行った星野リゾート、Agoda自身も展開している仲介サービス(全2枚)
その他、そもそもAgodaと契約していないことを公表している星野リゾートについて、Agodaは現在も星野リゾートを自社サイト上に掲載している。何故このような事態が起きているのか、オンライン旅行代理店のビジネスモデルから探っていく。
●星野リゾート社長も名指しで苦言
東横インは6月15日、「Agoda等」と名指しし、海外予約サイトを通じた予約について注意喚起を行った。Agodaを通じた予約が反映されていないなどのトラブルが起きているという。部屋タイプや日付が間違って予約されたほか、ホテルの設定宿泊料金よりも大幅に高い料金で販売されているなどの現象もあったとしている。
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星野リゾートは「星野リゾートの国内宿泊施設ではAgoda社と直接契約はございません」と赤字で注意喚起した。東横インと同様、Agodaを通じた予約がそもそも反映されていない、間違った日付・部屋タイプで予約される、実在しない宿泊条件で予約されるなどの事例があったとしている。代表の星野佳路氏も自身のXで「(前略)AGODAのシステムには何らかの問題がある。(原文ママ)」と投稿した。
大手ホテルチェーン以外も注意喚起している。茨城県つくば市のホテルベストランドは6月23日にAgodaとは直接契約しておらず、部屋も提供していないと発表。東横インや星野リゾートと同様のトラブルがあったことも明らかにした。正規の予約ルートとして、楽天トラベル、じゃらん、Expedia、Booking.comなどを挙げた。
●実は「Booking.com」と兄弟企業
そもそもAgodaとはどのような会社なのか。同社は米Booking Holdings傘下のOTAであり、本社はシンガポールにある。同じホールディングス傘下のBooking.comはオランダに本社を置く。Agodaはアジアに強く、Booking.comは欧州に強いとされる。ちなみに国内勢のOTAとしては楽天トラベルやじゃらんなどが該当する。
ビジネスモデルで分類すると、OTAには「エージェンシーモデル」と「マーチャントモデル」の2種類がある。エージェンシーモデルはホテルの空室情報を掲載し、予約成立時に一定の手数料をホテルから得る仕組みだ。マーチャントモデルでは、OTAが宿泊施設から部屋を仕入れ、上乗せして客に販売する。
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OTAから予約した客は一般的に、現地支払いとサイト上での支払いを選べるため、自身の予約がどちらのモデルによるか判別はできない。じゃらんなどの国内OTAはほとんどがエージェンシーモデルとされる。一方、Agodaなどの海外OTAは両方を併用している。
いずれのモデルでも宿泊費の数十%程度がOTA業者の収入となる。そのため客から見た場合、一般的には宿泊施設のサイトで直接予約した方が安くなる。
●いったい何がマズかったのか
Agodaのトラブルに関しては、ビジネスモデルに問題はなく流通経路が関係している。Agodaに掲載されている空室情報のうち、約8割はホテルとの直接契約によるもので、残りの2割は仲介業者を介したものだ。
例えば、AgodaはJTBと業務提携しており、JTBが保有する空室枠への優先アクセス権を有する。この場合、JTBが仲介業者となる。前述の通り、星野リゾートやホテルベストランドはAgodaとの直接契約を否定しているにもかかわらず、現在でもAgodaのサイトから両施設を予約できる。そのため、今回のトラブルは仲介業者を通じたやり取りに問題があったと考えられるわけだ。
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むろん、今回の騒動にJTBが関係したと言っているわけではない。仲介業者側のシステム関係のトラブルや、人為的ミスがあれば、Agoda上に誤った情報が掲載されるのは容易に想像できる。東横インは、提携サイトに提供している空室枠が一部のエージェントによってAgodaに“転売”されている可能性を指摘している。
重層化もトラブルの一因だ。宿泊業者とOTA間の仲介業者は1社だけではなく、何社にも重なっている場合が多い。Agoda自身も「Beds Network」というサービスを展開し、宿泊施設から仕入れた空室を他社に卸売りしている。つまりAgodaもOTAであると同時に仲介業者なのだ。各社がミスをする確率が低くても、仲介業者が重層化することで、結果として全体のミス発生率は高まる。
●それでもAgodaはなくならない
ホテル各社が注意喚起を発したとはいえ、業界にとってAgodaは重要な存在だ。海外OTAの関係者は次のように語る。
「海外OTA利用者の多くがインバウンドであり、日本人利用者は少数派です。インバウンドは言語の問題でホテルサイトでの直接予約ができず、日本のOTAも利用しません。ホテル側は外国人客との直接的なつながりを持たないので、Agodaのような海外OTAに頼るしかないでしょう。なお、予約トラブルの問題は以前からたびたび発生しており、6月に表面化したに過ぎません」
インバウンドの増加で客室単価の高騰が続く昨今、海外OTAを通じた予約客はホテルにとって太客だ。関係者が話すように外国人が主であり、日本人利用者が減ったところで、Agoda騒動が彼らの耳に入る可能性は低い。転売や仲介業者の重層化と多くの問題を抱えつつも、Agodaの体質改善は進まない可能性は高い、と言えるかもしれない。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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