「いきなり!ステーキ」はどこへ向かうのか 焼き台をなくした新店舗に、創業者ポスターがなかった理由

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2026年01月11日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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「いきなり!ステーキ」はどうなる? 新店舗を取材

 タピオカ、から揚げ、高級食パン――。この3つに共通することは? 答えは「ジェットコースター経営」だ。


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 売り上げがぐーんと伸びたと思ったら急降下し、しばらくすると再び急上昇する。まるでジェットコースターのように、浮き沈みが激しい経営のことを意味する。


 実際に、売り上げが急拡大した後にブレーキがかかり、最近になって再び上向きつつある飲食チェーンがある。「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービス(東京都墨田区)だ。


 「そういえば、10年ほど前には、店の前で長い行列ができていたような。最近は行かなくなったから、よく分かんないや」といった人も多いかもしれないので、簡単に“歴史”を振り返ってみよう。


 「いきなり!ステーキ」が登場したのは、2013年のこと。肉の塊をその場でカットして、焼き台で焼く。食べた肉の総グラム数に応じて会員ランクが上がるといった仕組み(現在は異なる仕組み)が受け、熱狂的なブームを巻き起こした。


 「チェーン店史上最速」と呼ばれるペースで全国に広がり、最盛期には500店ほどを展開。しかし、である。2019年以降は過剰出店やコロナの影響を受け、業績は低迷。店舗数は170店(2025年12月現在)まで減少したが、明るい兆しも見えつつある。2024年12月期には、6期ぶりに黒字を達成したのだ。


 さて、そんなチェーン店の「いま」はどうなっているのか。12月末、新しい店舗(東京の神田北口店)がオープンしたので、足を運んでみたところ、個人的に驚いたことが3つあった。(1)焼き台ではなく、オーブンで肉を焼いていること(2)ボックス席があって、広さの割に席が少ないこと(3)創業者(一瀬邦夫氏)のポスターを貼っていないこと。


 ご存じの人も多いと思うが、「いきなり!ステーキ」の店舗では、創業者のポスターが掲げられてきた。しかし、新店にその姿がない。業績の低迷を受け、創業者は2022年8月に退任したわけだが、「ポスターを貼っていない=変化」と受け止めていいのだろうか。


 その真意や、従来型店舗との違いについて、一瀬健作社長に話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。


●座席数を減らした


土肥: 「いきなり!ステーキ」の次世代型をうたった店舗がオープンしました。東京・神田から徒歩5分ほどのところにありますが、人がたくさん歩いている、いわゆる“一等地”ではないですよね。


 店内を見ると、カウンター席は隣席との距離を確保していて、対面の視線をさえぎる仕切りを設置している。2〜6人のグループ利用にも対応できるよう、テーブル席やボックス席がある。外壁をガラス張りにしたことで、一見客や女性でも抵抗感なく利用できるようにしていますよね。


 あと、気になったのは、従来の店舗には「焼き台」があって、そこで肉をジュージュー焼いていましたが、それがない。その代わりに「オーブン」を導入したわけですが、なぜこのような店舗を出店したのでしょうか?


一瀬: 「いきなり!ステーキ」の1号店は、東京・銀座に出店しました(現在は閉店)。「できれば、再び銀座で」という思いはあるのですが、物価高などの影響で、こちらが希望する条件の物件がなかなか見つからなかったんですよね。小さなスペースであれば出店は可能でしたが、それでは「自分たちが挑戦したい店」を実現できない。こうした背景があって、神田に出店しました。


 新店舗では厨房スペースを広くして、客席もゆったりとした設計にしました。従来型の店舗であれば、50席ほどを確保できますが、この店では38席。なぜこのような店をオープンしたのかというと、物価高などの影響で、お客さまが注文する量が減っているんですよね。以前は300グラムでしたが、いまは200グラムほど。しかし、平均客単価はそのまま。


 以前と同じ金額を使っているにもかかわらず、食べる量が減っている。こうした背景を踏まえると、店舗の空間を重視する必要があるのではないか。満足度を高めるためにも、新店舗では「ゆとりのある席の設計」を採用しました。


●課題はピーク時


土肥: 座席数が50→38席になったということは、15%ほど減っているわけですよね。ということは、売り上げも15%ほど減少することになる。このへんのことは、どのように考えていますか?


一瀬: 従来の焼き台をなくして、オーブンを導入しました。その結果、1時間当たりの調理効率が向上するんですよね。


 焼き台の場合、1枚焼くごとに温度が下がって、再び温度を上げるまでに時間がかかってしまう。温度計やタイマーを使って管理していたものの、最終的にはスタッフの感覚に頼る部分がありました。


 こうした課題を解決するために、新店舗ではオーブンを導入しました。最大の特徴は「260度を常に保てる」こと。肉の厚みをそろえれば、あとは時間を管理するだけ。1食当たり3〜4分なので、効率よく調理できるんですよね。


 あと、DXにも注力しました。お客さまは入店して、パネルで注文する。食事をして、セルフレジで会計を済ませるので、ピーク時の店内滞留を削減できると思っています。


 空いた席に、次のお客さまをいかに早く案内できるか――。ここに大きな課題があって、従来の店舗では、ピークタイム時の稼働率が60〜70%に落ち込んでいるんですよね。


土肥: お客の立場からすると「あそこの席は空いているのに、なぜ案内してくれないのか」とイライラしちゃいますよね。


一瀬: 50席あっても、稼働率が70%であれば、35席ですよね。60%であれば、30席にまで落ち込んでしまう。繰り返しになりますが、新店舗ではオーブンを設置して、DXを導入しました。効率を高めることで、稼働率を100%にできれば、どうなるか。38席なので、従来店と変わらない収益を見込めるのではないかと思っています。


●「怖さ」を感じている


土肥: 「いきなり!ステーキ」といえば、焼き台のイメージが強いんですよね。肉のグラム数を注文すると、その場でカットしてくれる。そして、焼き台でステーキを焼いてくれる。いわばショーを見ているように楽しめることも、店のウリだと思うのですが、新店舗ではそれを見れない。


 オーブンに肉を入れて、数分待てば「はい、できあがり」となる。効率を考えれば、このやり方のほうがいいのかもしれませんが、効率を追求することで、これまでの「いきなり!ステーキ」らしさが失われるのではないでしょうか?


一瀬: 正直に言うと、焼き台をなくすることに「怖さ」を感じています。「いきなり!ステーキ」の特徴といえば、街の肉店のような楽しさもある。「300グラムください」と注文しても、295グラムのときもあれば、305グラムのこともある。このようなやりとりも、店内で味わう体験価値の一部になっているのではないか。


 また、自分で選んだ肉をカットしてもらって、目の前で焼いてくれる。こうした演出も、お客さまに楽しんでもらえるのではないか。いまのところ、新店舗のカタチを全店に導入することは考えていなくて、まずはテストを重ねていきます。


 オーブンを導入することで、実際にはどのくらい効率よく運営できるのか。エンタメ要素は薄れてしまうが、それでもお客さまは満足するのか。トータルで検証して、次の店をどうするか考えていきたいです。


土肥: 従来型の店舗は、創業者の一瀬邦夫氏が築き上げたスタイルですよね。今回、新店舗をオープンしたのは、その路線を見直す、いわば“軌道修正”という意味なのでしょうか?


一瀬: 創業者の思いは、大切にしなければいけません。その一方で、新しいことにもチャレンジしていかなければいけません。創業者はブランドの象徴でもありますので、軽視するつもりは全くないですね。


 創業者が守ってきたクオリティーを落とさず、従業員をきちんと教育して、ブランドを大切に育てていく。その姿勢は、これからも変わりません。


●その予定はなし


土肥: 創業者の邦夫氏は、お父さまにあたりますよね。現在は、店舗運営に携わっていませんが、経営について相談することはあるのでしょうか?


一瀬: すでに経営から退いているので「店の運営は、こうしなければいけない」といった会話は全くないですね。ただ、こちらから質問することはあって、そのときにアドバイスをもらうことはあります。あ、たまに親子としての会話もありますよ。


土肥: 「いきなり!ステーキ」といえば、店の内外に創業者のポスターをドーンと掲げていますよね。経営から退いても、写真が飾られている。しかし、神田の新店舗に写真がないわけですが、従来店も創業者の写真を外していくのでしょうか?


一瀬: いえ、その予定はありません。


土肥: では、ご自身の写真を掲載する予定は?


一瀬: え、わたし? その予定もありません(笑)。いま、ドイさんから取材を受けているように、必要であれば発信者としてメディアに対応させていただきます。ただ、個人のチカラではなく、組織として動ける会社にしていきたいんですよね。というわけで、自分が広告塔になるのではなく、従業員や商品が広告塔になるべきだと思っています。


 ……あ、いまの発言って、創業者を否定するように聞こえていませんか? 大丈夫でしょうか?


土肥: だ、大丈夫だと思います(笑)。もし“いきなり”ポスターが増えていたら、そのときはまた取材に来ます。本日はありがとうございました。


(おわり)


※下記の関連記事にある『【完全版】「いきなり!ステーキ」はどこへ向かうのか 焼き台をなくした新店舗に、創業者ポスターがなかった理由』では、配信していない図表や写真とともに記事を閲覧できます。



このニュースに関するつぶやき

  • 開店費用は最低限にして話題性と流行りで一気に稼いで廃れたらさっさとやめる飲食店に多いビジネススタイルでしょうに。
    • イイネ!3
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