限定公開( 3 )

焼肉チェーンとして知られる「牛角」が、じわじわと、ある業態を広げている。
「牛角焼肉食堂」だ。2025年12月時点で、国内80店舗に到達している。2025年は新規で30店舗を出店しており、2026年中には100店舗を超える勢いだ。出店の中心はフードコートである。
なぜ、牛角は牛角焼肉食堂を広げるのか? その動きから、焼肉業界の構造を考えてみたい。
●気軽に焼肉を食べるための「牛角焼肉食堂」
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牛角焼肉食堂は、ショッピングモールのフードコート向けに設計された「牛角」発の業態だ。カウンターで注文し、呼び出し後に受け取って共用席で食べる。
主役は秘伝ダレの鉄板焼肉定食や焼肉丼で、タン・ハラミ・ホルモンなど「焼肉らしい部位」もそろう。冷麺や豆冨チゲといったサイドメニューもあり、手軽に焼肉の満足感を得られる。価格帯は700〜1000円台で、丼は700円台、定食は800〜900円台が中心である(店舗により価格は異なる)。
牛角を展開するコロワイドの資料によると、牛角は「日常の気軽な焼肉」をテーマに、来店頻度を高める取り組みを進めているという。その流れの中で、「牛角焼肉食堂」の出店を加速させている。焼肉を「特別な外食」として扱うのではなく、普段の選択肢へ寄せていく。その受け皿として、フードコート向けの業態を増やしているわけだ。
おそらく、ここに「焼肉屋」ではなく「焼肉食堂」という命名の妙が効いてくる。牛角焼肉食堂は、フードコート専門店として「焼きたての焼肉を定食スタイルで」提供することを前面に出し、鉄板焼肉定食や焼肉丼を核に据えている。
食堂という言葉が呼び起こすのは、宴会やハレの日の外食ではなく、日常の食事だ。焼肉の魅力は残す一方、「特別な焼肉」という感覚は残さない。その名前に、一般の人が抱く「焼肉感」を変えていこうという意図が読み取れる。
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●2つに分かれる焼肉チェーンのあり方
牛角が「気軽な焼肉」を目指す背景には、焼肉業界をめぐる状況がある。
焼肉は、物価高の局面で「割が合いにくくなる」外食の一つだ。東京商工リサーチによると、2025年は焼肉店倒産が59件で過去最高を更新した。前年の45件から30%以上も増加し、外食産業の中でも苦境にある。東京商工リサーチは、その原因として原材料高を指摘している。
肉の原価が上がるだけではない。人件費も上昇している。特にフルサービスの焼肉店の場合、人件費や設備費などがかかり、客席・換気・清掃といった「肉以外」のコストも大きい。つまり、店を維持するための固定費が全体として上がっている。
その結果として、特に焼肉チェーンは2つの方向に割れているのだ。
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1つは、工夫を重ね、焼肉を「ある程度特別感のある食事」として守る方向だ。例えば、「焼肉きんぐ」(運営:物語コーポレーション)。食べ放題を基本として郊外に多く立地し、週末にはファミリー層が多く訪れる。物価高の時代、外食の怖さは「いくらになるか分からない」点にある。食べ放題は、その不安を最初に消せる。家族連れならなおさらだ。その意味でも食べ放題は強い。
物語コーポレーションの2025年6月期決算を見ると、「焼肉きんぐ」は同期に27店舗を出店し、351店舗となった。売上高は616億円で、前年比11%増、物語コーポレーション全体の売上高の約半分を占めている。 焼肉を「ハレの日の食事」として成立させ、規模を伸ばしているわけだ。
もう1つの方向が、焼肉を「日常に降ろす」方向だ。商品単価を下げて来店頻度を高め、結果として焼肉店で使われる金額の総量を増やす。これを実現するためにフルサービスをやめ、作業工程を標準化したり、客の回転速度を上げたりする。
代表的な店には「焼肉ライク」があるだろう。「ひとり焼肉」というスタイルを生み出し、極限まで運営コストを抑え、それをなるべく価格に反映させる。
要するに、物価高の時代、焼肉業界は2つに分かれている。1つは、イベントとしての焼肉を守ること。もう1つは、日常としての焼肉を訴求することだ。
そして、いま話題にしている「牛角焼肉定食」は、後者の選択肢を取っている。
●フードコートとの相性の良さ
牛角焼肉定食が「フードコート」を中心に出店していることは述べた通りだが、焼肉定食がフードコートに集まる最大の理由は、焼肉が苦手とする「席」と「時間」のコストを、施設側に外注できるからだ。
フルサービスの焼肉店は、設備費や人件費などが重くのしかかる。ところがフードコートでは席は共有で、店は客席を抱えない。また、通常の焼肉店では客はどうしても長居になりやすく、回転率が落ちる。しかし、フードコートでは回転率はほとんど問題にならず、厨房の効率化がより重要になる。コストを下げて日常食を目指す焼肉定食と、フードコートへの出店はよく噛(か)み合うのだ。
ショッピングモールには、もう1つ大きな特性がある。そこに集まるのは「好みが割れた集団」だということだ。家族で買い物に来る。子どもは甘いものが食べたいが、大人はしっかり食べたい。こうした場面はよく目にするところだが、フードコートの場合はそれぞれの好みで食べ物を選べるので、焼肉も選ばれやすい。家族全員で焼肉店に行くにはちょっと……という人々の一部でも、焼肉を食べる機会を増やすことができるのだ。
また、個人的に焼肉はフードコートにおいて「広告」になれるとも思う。匂いが強く、目立つからだ。看板や写真より先に、匂いが届く。フードコートにふらっとやってきたお客さんが、「ちょっと焼肉でも食べるか」という気分になりやすくなるのではないだろうか。結果として、「焼肉を食べる」ことが選択肢として浮上しやすくなる。
●牛角焼肉食堂は日常の風景になじんでいくか
物価高において、焼肉はコスト高に弱い。その現実が、焼肉業界を2つに分けている。特別感を守る方向か、日常食として焼肉を食べる機会を増やす方向か、である。
そして、日常食として焼肉が自然に成立する場所が、ショッピングモールのフードコートだった。席は共有されておりコストが抑えられ、その分、低コストで出店できる。それだけでなく、好みが分かれがちな現代の消費行動とも相性がよく、フードコートの中で「匂い」という広告効果もある。牛角が「日常の気軽な焼肉」を掲げ、焼肉食堂の出店を加速しているのは、この構造の上で見れば合理的だ。
もちろん、不安な点がないわけではない。
フードコートへの進出が進んでいる点は述べた通りだが、フードコートを多く有するショッピングモールは2018年を境に減少傾向にあり、各地を見渡すと、いわゆる「廃墟モール」と呼ばれる施設も増えてきた。
フードコートについても「ガラガラ」の状態で、空きテナントが目立つところも増えてきた。いくら焼肉食堂とフードコートの相性が良くても、元となるフードコート自体の先行きが不透明な面もある。
今後は、牛角焼肉食堂を見かける機会も増えるだろう。それは、日常の光景として定着していくのか。店舗数が100店舗に到達する2026年は、その成否が占われる時期だともいえるだろう。
(谷頭和希)
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