なぜ? 女児向け本、社会人から大反響で10万部突破  編集者が明かす、意外なヒットの理由

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2024年05月10日 07:10  リアルサウンド

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自分をもっと好きになる 【ハピかわ】かわいいのルール (池田書店)

■ 異例の10万部突破へ


  2019年に発売された女児向け書籍『自分をもっと好きになる 【ハピかわ】かわいいのルール』(池田書店)が、「大人のコミュニケーション指南本」として今SNSで幅広い年代から注目を集め、同分野では異例の10万部を突破。ネット書店でも品薄状態となっている。


(参考:大人に共感と反響続々!10万部突破しベストセラーとなっている女児向け本『かわいいのルール』の気になる紙面


  同書は、「すてき女子の新常識」をキャッチコピーに、マナーや言葉遣い、身だしなみやファッション、人間関係をスムーズに築く方法に至るまでを、かわいらしいマンガ&イラストで紹介している女子小学生向けの実用書だ。それが今、20代から40代の単身世帯での購入も増えているという。


  実は2021年にもSNSがきっかけで話題を集めた同書。他社からも同ジャンルの書籍は多く発売されている中、なぜ同書がこれほどの人気を誇るのか、その企画意図や話題となった理由や背景などについて、池田書店の担当編集・老沼友美氏に話を聞いた。


大人が「子供の頃に欲しかった」と思える本をテーマに


――女子小学生が読者層である『自分をもっと好きになる【ハピかわ】かわいいのルール』(以下、『かわいいのルール』)ですが、社会人からの反響がすごいですね。


老沼友美氏(以下、老沼):発売から5年が経っているにも関わらず、話題にしていただき本当にありがたく思っています。実は「かわいいのルール」は、2021年にも当時のTwitter(現:X)で話題になり、品薄状態になったことがありました。


  そのときは本書を読んだことで、お子さんから気遣いを感じるようになったという成長を綴ったものでした。投稿内で「この本の影響かも」と紹介してくださり、情報番組などでも取り上げられ大変多くの反響をいただきました。


――SNSでは「人間付き合いの基礎が書かれている」と、大人のコミュニケーション指南書としてもおすすめされているようです。


老沼:子供の頃からの悩みをずっと持ち続ける人が多いのか、と感じます。制作前のリサーチでも、傷ついた経験やモヤッとした気持ちを何年経っても抱えているという声を多く聞きました。子供の頃って、よく理解しないまま残酷なことをしてしまいがちです。そんな子供時代を経た親が「当時、これを誰かに教えてほしかった」と思えるようなものを作りたい、というのが当初の目標のひとつです。


主体的に考え、心を育てる手助けを
『自分をもっと好きになる 【ハピかわ】かわいいのルール』の中面より


――当初、女子小学生向けとして企画した際の意図を詳しくお聞かせください。


老沼:小学校4〜6年生の女子を想定読者に、今の時代、彼女たちに“本当に必要な情報は何だろう”というところから考えました。ほかの出版社からも類書がたくさん出ていて、どう差別化しようかと悩みました。


  企画立案当時は「外見をかわいくして、みんなと差をつけよう」という趣旨の書籍が多かったので、弊社では「中身を大切にする」ということをテーマに作ろうという方針になりました。そこには、今の時代に合わせたいという思いも強くあります。


  外見も大切ですが「人から愛されるために〇〇しよう」という考え方にはしたくなかったんです。それよりも内面を知って自己肯定感を高めたり、他者に興味を持てるようになってほしくて。それが「かわいい」に繋がっていくのではないかと思っています。


――自己肯定感は近年、頻出するテーマでもありますが「他者に興味を持つ」は珍しいかもしれません。


老沼:自分と向き合うと何をしたいのか、どういう人間になりたいのかという目標を立てやすくなります。小学生ってコミュニティも狭いですし、学校がすべてと考えてしまうのですが、そうじゃないよと。他者の軸に乗るのではなく、自分を通して他者に興味を持つことにより、いろんな扉があることを示唆したいという想いもありました。


  そういった“自分づくり”の手助けができればと企画しており、その願いは後に続く「ハピかわ」シリーズでも一貫しています。


押し付けにならず、自らが考えられる誌面に
『自分をもっと好きになる 【ハピかわ】かわいいのルール』の中面より


――制作するうえで意識したポイントはありますか?


老沼:なるべく上から目線にならないようにという点と、答えを与えすぎないようにという点です。偏った思考の押し付けにならないよう、読者自らも考えられるようにしたいなと。答えを提示する場合は、どうしてそうなるのかという理由を明確に入れるようにしています。自分自身の子ども時代を振り返ったとき、強制されても「なんで?」と思った記憶があって。疑問にしっかり答えられる内容を意識しました。


――押し付けられた価値観を受け入れにくいのは、大人も同じかもしれません。他、構成でこだわった点は。


老沼:抑揚や緩急を大切にして、じっくり読んでもらう部分とサラッと読んでもらう部分を作り、最後まで飽きずに読んでもらう工夫をしました。女の子の少し背伸びしたい気持ちにも応えられるよう、女性誌などを参考にして、ものの言い回しをあえて簡単にしすぎないようにもしています。


  また、漫画部分を双葉陽先生に引き受けていただけたことも大きかったです。編集部側でプロットのようなものを考えるのですが、細かい流れに関しては双葉先生が全部考えてくださって。感度の高いマンガ家さんがわかりやすく描くという点は、多くの人の手に取ってもらうきっかけになったと思います。


コロナ禍の影響で「人間関係」への不安が加速


――ムダ毛や生理など体の悩みから、言葉や仕草のマナー、友達関係やSNSの使い方まで踏み込んだ内容も印象的でした。項目やお悩みはどのようにピックアップしたのですか?


老沼:20代の若手から子育てがひと段落した50代まで、制作スタッフ内で「どんなことで悩んでいたか」「子どもの頃、どんなことを知っておきたかったか」を話し合いました。それに基づいて女子小学生にアンケートを取り、今の小学生がどんなことで悩んでいるのか、何を知りたいと思っているのかを調査したんです。結果として、一番多かった悩みは人間関係でしたね。友達関係の悩みが多く、時代を経ても、悩んでいることに変わりはないんだなと感じました。


――学校を卒業しても人間関係の構築からは逃れないですからね。


老沼:あれから約3年が経ちましたが、今回反響をいただいているのはコロナ禍が関係しているのかなとも感じています。大学時代はリモート授業がほとんどで、人付き合いがなかなかなく、そのまま社会人になってしまった人も多いと思います。コミュニケーション力に不安を持つ20代からコメントをもらうこともありました。


――意外な層からの支持もあるのですね。


老沼:今回のバズりに関しては、私たちの想定外の層で起こりました。実は親世代だけではなく、20〜40代の独身男性が買ってくれていて。さらに、より心の問題に寄り添った同シリーズの『こころのルール』は20〜30代の男性購入者の比率が『かわいいのルール』より若干多くなっています。


  部下とのコミュニケーションに悩んだり、もしかしたら婚活などに利用している方もいらっしゃるかもしれません。親世代は書籍で購入するのに対し、その方たちは電子書籍で購入いただいているのが特徴ですね。書店員さんからも、「書店でもビジネス書の棚に置いた方がいいのでは?」なんていうご意見もありました。


 「ハピかわ」シリーズはどの本も、『かわいいのルール』に通じる、自分の内面と向き合い、自分のことを考えるきっかけになるキーワードが入っています。ぜひ世代や性別を限定せず、自分に自信を持てるきっかけづくりのお手伝いができたらうれしいです。


(文=田代祐子)


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  • 敢えて言おう、同時期のクソ男子こそ読めよ。
    • イイネ!11
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