警視庁犯罪被害者支援室の日比野悟郎・前犯罪被害者支援官(右)と菅原卓人係長=2月4日、東京都千代田区 事件や事故で家族を亡くした子どもたちをスポーツ観戦などに招待する警視庁の取り組みが今年で10年目を迎える。これまでに子どもや家族ら延べ1000人超が参加し、「子どもはもちろん親も元気をもらった」などの声が上がる。同庁は支援継続に向け、企業や団体のさらなる協力を呼び掛けている。
同庁犯罪被害者支援室は2015年10月、全国で初めて被害者遺族のJリーグ観戦を企画した。以来、企業などの協賛を受け、スポーツ観戦や音楽ライブへの招待を45回実施。参加者は延べ377家族の1014人に上る。
同室によると、家族が犯罪に巻き込まれると、遺族となった人の生活は一変する。「亡くなった家族に申し訳ない」と笑えなくなったり、行楽地などの家族連れを見て疎外感を感じたりするケースは多い。特に子どもは葛藤を抱えても、自分の気持ちを我慢する傾向にあるという。
同室の菅原卓人係長(49)は取り組みのきっかけについて、当時は子ども向けの被害者対応策が確立されておらず、「支援からこぼれ落ちてしまう感覚があった」と振り返る。子どもたちに楽しんでもらえる場をつくりたいとプロバスケットボールチームに協力を依頼したところ、「われわれの社会的使命でもある。チケットを提供したい」と申し出があり、実現にこぎ着けた。
こうした支援は参加者からも好評だ。昨年12月、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」のライブに招待された10代の女性は「歌や歌詞から元気をもらえた」と笑顔を見せた。付き添いの母親も「呼んでもらうようになって8年。いつもライブの1〜2カ月前から楽しみに過ごしていた。全国にこのような支援が行き届くことを願っている」と話した。
同様の取り組みは他県にも広がっている。神奈川県警では昨年8月、横浜マリノスが遺児らを試合に招待。県警の担当者は「また行きたいとの声が多く上がった。サッカー以外にも広げたい」と意欲を見せる。同様の支援は埼玉、佐賀両県警でも行われている。
「ご遺族の心の傷すべてを取り除くことはできないが、少しでも前に進めるよう、取り組みを続けていきたい」。警視庁の日比野悟郎・前犯罪被害者支援官(52)はこう語り、「より多くの企業や団体にご協力いただき、支援の輪を広げていきたい」と訴えた。

ルヴァン杯サッカー決勝が開催された国立競技場のピッチサイドを見学する犯罪被害者遺族=2024年11月2日、東京都新宿区