変わりゆくテレビの音楽番組 トーク中心からライブパート重視の流れへ

122

2014年02月11日 11:10  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

『saku saku』公式サイト

 テレビ神奈川(tvk)の人気番組『saku saku』が今年の3月28日放送分をもって現体制での放映を終了、13年間の歴史に幕を下ろすことが発表された。『saku saku』はゲストトークとPVコーナーを中心に構成された音楽情報番組。ローカル局制作の番組としては異例の人気を誇り、無名時代の木村カエラを見出したことでも有名な同番組の区切りは、音楽番組「冬の時代」を象徴する出来事のひとつとして記憶されるだろう。そこで今回はテレビの音楽番組にフォーカスを当ててみたい。

(参考:SMAP中居正広が音楽番組を変える——司会者としての「成熟」と「進化」を検証



『saku saku』の放送が始まった2000年前後はまだCD不況が叫ばれる前、シーンにもまだ牧歌的な空気が漂っていた(日本のCD販売枚数ピークは1998年)。テレビをつければどこもかしこも音楽番組で溢れ、毎日なにがしかの番組が放送されていた。思いつくままに列挙すると『ミュージックステーション』『ミュージックフェア』『ポップジャム』『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』『うたばん』『COUNT DOWN TV』『速報!歌の大辞テン』『THE夜もヒッパレ』『MUSIC JAPAN』『LOVE LOVEあいしてる』等々。このうち現在も放送が続いているものは半数にも満たない。

 現存、あるいは過去に存在した音楽番組は大きく分けて3種類に分類される。ひとつは「トーク+ライブ(PV)番組」。『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』や『うたばん』、あるいは『saku saku』などもこれにあたる。最もポピュラーな形態の音楽番組だ。ふたつめは「カウントダウン番組」。『COUNT DOWN TV』やCS局の音楽番組でよく見られる、PVをチャート順に流すスタイルの音楽番組。ちなみに前述のtvkが視聴率を伸ばしたのも、いち早くこの手の「カウントダウン番組」を放送するようになったのがきっかけと言われている。最後に「カラオケ番組」。『THE夜もヒッパレ』のような芸能人が歌うものから視聴者参加型まで存在する。

 上に挙げた3つのスタイルのうち、現在も元気なのは「カラオケ番組」のみ。逆に言うと残りのふたつは番組の大小を問わず多くが終了、あるいは「数字が取れない」と喘いでいるのが現状だ。その理由はもちろん「音楽不況」であったり「リスナーの好みの多様化」みたいな話と切っても切れない、卵が先か鶏が先かといった類の話になる。たとえば「トーク+ライブ(PV)番組」の場合、制作側はできるだけメジャーなミュージシャンをブッキングしようとする。編成を納得させるには「オリコン1位」「ミリオンセラー」といったキャッチが必要で、ゲストが「何を話すか(その内容が面白いか)」よりも「誰が出演するか」の方が重要だ(ここら辺は音楽誌の売上が内容よりも表紙に左右されることに似ている)。しかしこのご時世、チャートの上位を占めるのはジャニーズとAKB48、アニソンが大半で、以前のように毎週入れ替わりにニューカマーが登場することはほとんどない。そもそもある程度の知名度、編成的にゴーサインの出せるミュージシャンの数が極端に減った。ブッキング対象が限られると、自然に番組自体が硬直化していく。結果、視聴者離れが起き、音楽番組からヒット曲が生まれない、ヒット曲がないから番組が広がらない……という悪循環が見られるのだ。



 テレビから音楽番組が消えていく中、その代わりとなる場所をミュージシャンはYoutubeやニコニコ動画などの動画サイトに作った。特にニコニコ動画の公式チャンネルは安価でファンに確実にリーチできる媒体として若手ミュージシャンのみならず、これまでテレビを主戦場としてきた大御所ミュージシャンまで幅広く人気を集めている。ニコニコ動画の公式チャンネルにも様々な種類があり、ラジオのようにバンドメンバーが語り合う様子を流すものもあれば、スタジオライブを中継するもの、過去から現在に至るPVをミュージシャン本人が振り返るものまで実に多彩だ。また制作スタッフにかつて(あるいは現在も)テレビで番組作りを担ってきた人間が関わっているのも見逃せない。動画サイト普及初期のような「ダダ漏れ」番組はほとんどなく、今やテレビとも比較しても遜色ないクオリティのものが並ぶようになってきている。テレビの音楽番組、特に「トーク+ライブ(PV)番組」のようなゲストトークを売りにした番組は今後もネットに代替されていくものと思われる(ゲスト扱いではなく本人たちが語る、という形で)。

 では今後、テレビの音楽番組はどのようになっていくのだろうか。ひとつのトレンドとして浮かび上がるのがライブパートを重視した番組作りである。昨年の『FNS歌謡祭』は大変に盛り上がったし、『僕らの音楽』や『ミュージックフェア』は相変わらず好調だ。また年末の『ミュージックステーション スーパーライブ』も好視聴率を記録している。日テレの『LIVE MONSTER』も「ライブでしか味わえないMONSTER達による極上のパフォーマンスを届ける」をコンセプトに良質なライブを放送している。TBSの『ライブB♪』に関しても同様だ。CDというモノの代わりにライブという体験を提供する、ミュージシャンの間で一般化した手法と同様のことが音楽番組にも言えるようになってきている。

 またトークを主体とした番組に関しても、これまでにはない新しい切り口のものが徐々に登場してきている。中居正広とリリー・フランキーがMCを務める『Sound Room』や坂本龍一による音楽の学校『スコラ』、音楽プロデューサー亀田誠治がJ-POPのヒット曲に隠された音楽の秘密を解き明かす『亀田音楽専門学校』など、以前の音楽トーク番組に比べ、より「音楽を深堀り」した番組が増え始めているのも最近の特徴といえる。ゴールデンでマスに向けた華やかな音楽番組というのは確かに減ったが、深夜枠を中心に新しい試みの音楽番組が徐々に増えつつあるのは嬉しい兆しだ。

 おそらく将来的には「テレビにしかできないこと」と「ネットでも代替できること」が今以上に分離され、テレビの音楽番組は前者に特化していくものと思われる。きっとそこでは対象がマスかニッチかということではなく、たとえばテレビのもつ技術力や取材力など、彼らの強みを活かせるコンテンツのみ生き残っていくはずだ。今後どのような番組が生み出され、あるいは進化を遂げていくのか。音楽ファンかつテレビ好きのひとりとして、各局の取り組みに期待したい。(北濱信哉)



このニュースに関するつぶやき

  • 今のアーティストには魅了を感じる人やグループが少ない。だから音楽番組もつまらなくなるのでは?全盛期と呼ばれた頃は高校生で、15年位経つから物の見方も変わるんだろうけど。
    • イイネ!10
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(50件)

ニュース設定