1月19日放送の「特報首都圏」(NHK総合)で、現代の子どもたちを取り巻く深刻な環境を浮き彫りにしていた。
「広がる子どもの"生活格差"〜最新調査が明かす実態〜」と題された特集。番組では、衣服や本だけでなく習い事や、家族そろっての旅行など、これまで当たり前とされてきた生活を送れない子どもたちの実態がクローズアップされた。(文:松本ミゾレ)
800万円の借金を抱え、働きづめのシングルマザー
東京都大田区役所。子どもたちの生活水準をしっかりと見極めるため、区は「生活困難層」という分類を作った。定義は3つ。「家賃・公共料金などの滞納」「基準を下回る収入」「子どもの生活困難」。この3つの要素が複合していればいるだけ、いわゆる生活困難層の世帯ということになる。
中でも、この放送が主眼を置いているのが「子どもの生活困難」だ。大田区での生活困難層世帯は、およそ2割。大田区福祉課の担当者は取材に対して「お子さんの成長に必要なものが与えられない。親御さんもとっても苦労している」と話している。
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取材に答えたシングルマザーの女性は、月収28万円。生活に必要な収入はあるように思えるが、奨学金、生活費などあわせて800万円の借金を返済中だ。朝は6時から出勤し、夜は21時過ぎに家に帰ってくる生活を送っている。
「子どもとの時間が圧倒的に少ないので、どんな形であれもっと時間が確保できれば」と話している。
この女性の息子は小学5年生。家で一人過ごすのは、もう慣れたと話しているが、「(母親が)洗濯物を畳み終わった後で、ため息をついている」と話しているのが切ない。
子どもは大人の、そういう一瞬垣間見せる日常の疲弊の露出を見逃さない。こういう姿を見るたびに、子どもは自分の日々の生活や、将来についても、あまり良いビジョンを描きにくくなる。
「集中力が持たない。どんだけ寝ても、眠気がとれない」
食の格差も深刻だ。教育関係者が小学生1500人を対象に行ったアンケート調査によると。収入が、国の貧困基準以下の世帯と、基準以上の世帯とで比較してみたところ、大きな違いがあった。
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「野菜を食べる頻度が週3日以下」という項目に対し、収入が多い世帯が11.6%。しかし貧困世帯の場合は、これが21.5%に上っていたことが分かっている。
一方で「インスタント麺を週1日以上食べる」という設問に対しては、収入が多い世帯は15.9%止まりだったのに対し、貧困世帯は26.1%と回答をしていた。
保存が利かず、調理する必要のある野菜よりも、お湯を注げばすぐに食べられる上に保存も利くインスタント麺の方が貧困世帯にしてみれば優先して手を伸ばせる食品であるということだ。
さらに、世帯収入による栄養摂取量を分析してみたところ、炭水化物と脂質は差がなかったのに対し、たんぱく質、カルシウム、カリウムなどでは大きな差が。成長期の子どもに必須の栄養素ばかりだ。世帯収入は、栄養面一つとっても格差を生むということになる。
川崎市に住む母子家庭に取材をしたVTRも無視できない。高校2年生の息子と、その母親。生活に余裕はなくこの日の夕食はうどんだけ。具は油揚げとかまぼこ、そして三つ葉が乗っている。高校2年生の男の子に、これはキツい。しかもうどんだけの夕食は、これで3日目になるという。
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肉や魚、野菜は高くて手が出ないという母親。足りない分はNPOから支援される冷凍のパンでしのぐということだ。息子は、体の不調を感じることが多いという。「集中力が持たない。どんだけ寝ても、眠気がとれない」など、聞いていて切なくなってしまった。
「肉や魚、野菜の必要性は分かるので、それらを提供できない自分が親として情けない」と、力なく話す母親の声が、なんとも切ない。
貧困によるデメリットは、生涯を通じて自分の身に降りかかってくる。スタジオでは、東京医科歯科大学の藤原武男教授が、必要な栄養を子ども時代に十分に摂取しないことで、成人して以降の心臓病、うつ、そして老年期に入っては痴呆症のリスクが上昇すると警鐘を鳴らしている。
こういったデメリットをできる限り減らすため、番組では給食の無償化のほか、保育園からの調理実習で、インスタントに頼らず、自炊のできる子どもを増やすなどの対策を挙げている。しかしいずれも根本的な貧困世帯においての栄養価の十分な摂取にはつながらないだけに、なんとも虚しい気分にさせられる放送となってしまった。