【特集:いま、F1に求められる大改革(2)】大胆変更の予選システム案をシミュレーション

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2017年03月20日 08:11  AUTOSPORT web

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2016年F1オーストラリアGP予選 ピットレーンで並ぶセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)
F1では、この10年超で多くの変更があったが、レースそのもののフォーマットは手付かずのままだ。F1が近代の波に飲み込まれて沈むことなく、進み続けたいと願うのならば、この姿勢を変える必要がある。英AUTOSPORTの特集担当者スコット・ミッチェルは、F1はリバースグリッド、あるいは1グランプリ3レース制といった大胆な変更を取り入れるべきであると考え、その場合、大幅に変わる予選システムをシミュレートした。

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■リバースグリッド制導入でも、予選に大きな価値をもたせる

 F1にリバースグリッドを導入し、ドライバーズランキングの下から順にグリッドに並べるようなレギュレーションに変更すべきであると考える理由は前回説明した。それが実現した場合、予選はどうなるのか。もちろん廃止するわけではない。最速のパッケージを持っているがためにポールポジションを得られない者には、何かしらの埋め合わせが必要だ。でなければ、グランプリは日曜日に向けたチームの準備と決勝の2日間だけになってしまい、先々において参加するだけの価値を失うことになる。

 代わりに予選でもポイントを与えるという案はどうだろうか。それでも、リバースグリッド導入により、最速のパッケージが毎週末、必ず最高得点を持ち帰れるという状況ではなくなる。

 たとえば2015年-16年シーズンのフォーミュラEでは、セバスチャン・ブエミとルーカス・ディ・グラッシが最終戦まで僅差でタイトルを争ったが、最終的にチャンピオンになるブエミの得点にはポール獲得とファステストラップ達成によって手にした14ポイントが含まれており、対するディ・グラッシにはそれがなかった。

 この場合、ボーナスポイントがチャンピオンシップに、不公平な混乱をもたらしたことになる。ひとりのドライバーはレースでのポイントをより多く獲得しており(重要なのはレースであるはずだ)、もうひとりは本来の速さを発揮したことによるポイントに頼ることになった。

 つまり、レースと予選を切り離したとしても、チームは最速のマシンを作ることに、またドライバーはそのマシンで最高の走りをすることに対しての報酬を得られるが、それでもそれはレースそのものへのアドバンテージには直結しない。それが、チャンピオンシップの状況における新しい要素となる。

■予選のポイント制度

 予選でどうポイントを与えるかというのが、難しいところだ。最も速く走るために、できるだけ多くのマシンがコースを走るような状況を作り出す必要がある。これを念頭に置きつつ、トップ10ドライバーに与えられるポイントは10、8、6、5、4、3、2、1、1、1としよう。これによって中位グループの上位陣には、1〜2点のボーナスポイントを得るチャンスができる。小規模チームが、ポイントが付与されるQ3に進出できる可能性はないという理由で走らないことを選ぶとしても、大きな損失にはならない。観客はトップから3秒遅れのペースで走るマシンを予選で見たいと思うだろうか? 答えは否だ。

 ファステストタイムを叩き出すためのセッションとして30分間の時間と、各ドライバーに3セットの最も柔らかいコンパウンドのタイヤを用意する。これによって観戦者は限界で走る最速マシンを目にすることができる。このように、リバースグリッド導入後でも、予選に役割を持たせることは可能だろう。

 リバースグリッドによって、優勝の価値は落ちるかもしれない。ザウバーのドライバーが楽に勝つシナリオは考えにくいとはいえ、多くの人々が「勝利に値しない」と見なすドライバーが勝つことも、ときにはあり得る。それでも、そんなドライバーがたまに優勝してしまうリスクを冒すことは、F1全体の価値を向上させる上での小さな犠牲にすぎない。

■1グランプリ3レース開催という案も

 リバースグリッドの他にも機能するであろうフォーマット変更の案はある。ただしF1のDNAを大幅に変える必要が出てくる。カートや他のレースでは一般的になっている、2ヒート制だ。

 たとえば、土曜日にはランダムに決められたグリッドで、30分間のスプリントを2回行う。参加台数が22台であれば、各ドライバーの2レースのグリッドは合計23になるものとする。たとえば、1番グリッド+22番グリッド、2番グリッド+21番グリッドといった具合だ。そしてトップから25、23、22、21というようにスライド制で全員にポイントが与えられる(勝者と2位の差のみ2ポイント)。2ヒートでの合計得点によって、日曜日のグランプリ(この場合はファイナル)でのグリッド順位が決定する流れだ。

 コースサイドのファンも、TV視聴者も土曜日に注目するようになり、ときにはグリッドに混乱が生じることも考えられる。スピードにもレース運びにも価値が見出されるうえ、前のマシンにぴったりついて走ることができ、接近戦が可能なマシンにするようなルールブックが奨励されるはずだ。

 上記は確かに大きな改革であり、比較するとリバースグリッド案がおとなしく見えるほどだ。しかし結局のところ、同じ問題を解決するための案に、バリエーションがあるというだけのこと。F1は大いに進化し、現状ではいつもと違ったことが起きることがほとんどない。ならば、そういうことが起きるよう、手を加えてみてもいいではないか。

■F1の凋落を防ぐために大胆な改革を

 インターネットの発展によって反対論者の声がより大きく聞こえてくるのかもしれないが、F1にとって今は最強の時代ではないという思いを否定するのは難しい。F1は世界戦であり、巨額の資金が絡んでいる。しかしそれはオーナーたちや、フェラーリのような守られたチームが吸い取ってしまう。歴史ある開催地や小規模チームにとっては、F1という聖域の一員であり続けることすら困難だ。

 いつか、何かをやらねばならない。時代はただ過ぎゆくだけではなく、変わったのだ。F1に救済するだけの価値があると思うのであれば、変化に適応する必要があるということを、上層部は受け入れてほしい。そうでなければ行き詰まるばかりだ。前進を始めなければ、F1はただ水中の石ころのように沈みゆくことになる。
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