原作にない究極のテーマ“出生前診断”に挑戦 『コウノドリ』最終回を見届けよ!

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2017年12月22日 06:02  リアルサウンド

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 『コウノドリ(第2シリーズ)』(TBS系)がいよいよ12月22日に最終回を迎える。ハイリスクな出産に対応する周産期医療センター、通称“ペルソナ”を舞台に、さまざまなリスクを抱えた妊婦と医師たちの奮闘を描くこのドラマ。これまでは原作コミックにかなり忠実な展開をしてきたが、最終回とその前の第10話は、原作にはないオリジナルストーリーで、「出生前診断」がテーマとなっている。


参考:綾野剛、“命の選別”に葛藤ーー『コウノドリ』第10話で向き合った現実


 出生前診断とは、妊娠中に胎児に障害がないかを調べる血液検査や羊水検査のこと。第10話で登場した妊婦2人がその検査を受け、ともに胎児はダウン症である可能性が高いという結果が出る。ひと組の夫婦は人工妊娠中絶を希望し、もうひと組の夫婦も同じ決断をするが、妊婦の透子(初音映莉子)は処置を始める寸前「やっぱり産みたい」と泣き崩れて出産を継続することに。透子が主人公の産婦人科医サクラ(綾野剛)のサポートを受けて無事に出産できるのか、そして障害のあるわが子を受け入れられるかが最終回のポイントになる。


 子どもが生まれる前に親が産むかどうかを決めるという重いテーマで、劇中でもサクラや四宮(星野源)ら医師たちの議論が紛糾した。「出生前診断を受けての中絶を批判する人が多いのはなぜか」、「出生前診断を受ける前にどうするか決めていないのは無責任」などの意見が出た。さらに、実際にダウン症児を育てている奥山佳恵が出演し、「(生まれてきてから他の障害が分かる場合もあるのに)なんで出生前診断で分かるこの子たち(ダウン症児)だけ弾かれるの?」というセリフを言ったのは、説得力があった。


 原作者の鈴ノ木ユウはTwitterで「僕にはまだ描けない話。(中略)だからこそ脚本の坪田さん、監督、役者さん、スタッフさんの踏み出した一歩の勇気に大きさを感じました」と発言している。ドラマ公式サイトに掲載されている峠田浩プロデューサーのブログでも、このテーマについて「脚本家の坪田さんは、本当に悩まれていました。どうしても自分の思いや感情が入ってしまうテーマなので。『自分がフラットでいれているのかどうか』。何度もそんなことを自分に問いかけている姿を見ました。僕たちも何度も問いかけながら作りました」と明かしている。


 海外ドラマでいうところの“ショーランナー”である企画の鈴木早苗と脚本の坪田文。この女性コンビがリードしたのではないかと推測するが、ついにドラマ『コウノドリ』は原作の一歩先まで踏み込んだ。それができたのも、これまで綿密な取材と医師の協力のもと、出産をめぐる実情を丁寧に描いてきたという積み重ねがあるから。特に今回の第2シリーズは見事だった。2年前に放送された第1シリーズは女性を聖母視する傾向があったし、医師たちのキャラクターも感情に流されすぎていた。サクラがピアニストのBABYとして活動するときにかぶるウィッグも『のだめカンタービレ』の竹中直人か!?とツッコミたくなるほど現実離れしていたのだが、そこを含め、シーズン2ではリアリティがある方向にきっちり調整してきた。サクラたちが妊婦を最大限バックアップしようとする『医は仁術』のスタンスを貫いていたのも、見ていて心地よかった。


 ところで、筆者の周囲の女性に『コウノドリ』の感想を聞いてみると、経産婦は自分が出産したときなんのトラブルもなかったとしても、ママ友などからたいへんだった出産の話を聞いたことがあり、「ドラマのとおり、妊娠中や出産後はいろいろあるよね」と共感する声が多い。しかし、まだ出産をしていない若い世代の一部は「妊娠ってあんなにたいへんなことがあるの? 妊婦や赤ちゃんが死んじゃったりするの? ドラマを見ると子どもを産むのが怖くなってくる」と恐怖感が先に立ってしまうようだ。


 実は筆者も持病があり、周産期医療センターで出産をした。妊娠中は二度入院して、自分も含め同室の妊婦たちがいろんなリスクを抱えている様子をそこで初めて知った。ただ、全体から見れば周産期医療センターに運ばれてくる妊婦はごくわずか。妊婦が亡くなる確率を見てみると、概算で年間の出産数100万に対して死亡は50人。2万人に1人で、0.005%のリスクにすぎない。たしかに「お産は命がけ」なのだが、0.005%のリスクを怖れずに妊婦健診をきちんと受けるなどすれば、トラブルの確率はさらに減らせるはずである。原作も含め『コウノドリ』にはそういった啓蒙的な役割がある。特に、少子化で若い女性が母親や姉などから出産の経験を聞くことが少なくなっている現在、疑似体験のような形でドラマを見ることには意味があるのではないだろうか。


 妊娠・出産・産後のリアルを知るだけではなく、キャラクタードラマとしても楽しめた本作。若手の下屋(松岡茉優)と白川(坂口健太郎)が修業のため周産期医療センターを離れる決断をし、サクラの相棒である四宮も郷里で産婦人科医をしていた父親を亡くし、その跡を継ぐのでは?と思われる展開に。助産師の小松(吉田羊)もサクラに相談したいことがあると言い出すなど怪しい雰囲気。もしかするとメインキャストでペルソナの産科に残るのはサクラだけになるのか? 涙、涙の最終回になりそうだ。(小田慶子)


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  • 出生前診断=障がい児即中絶 ではなく、中絶の選択肢もあった上で「障がい児への支援がどれだけできるのか?」の「早めの対策」という選択肢もあってほしいと願います。
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