MCU10年の歴史に寄り添うアイアンマン 『インフィニティ・ウォー』に見るリーダーとしての成長

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2018年05月19日 10:02  リアルサウンド

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 4月27日に日本で封切りされた『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が大ヒット上映中だ。マーベルの人気キャラクターが一堂に会し、巨悪に立ち向かう『アベンジャーズ』シリーズ最新作である本作は、内容の衝撃ぶりから各所で大きな話題を呼んでいる。


 すでにさまざまな考察がなされている本作だが、『アイアンマン』(2008)から始まったマーベル・シネマティック・ユニバースの集大成として、10年に及ぶトニー・スターク/アイアンマンの立ち位置が非常に特長づけられている。


 正直な話をすると、私はトニー・スタークという人物像について、これまであまり共感できずにいた。というのも、彼が世界の命運を託されたスーパーヒーロ―集団のリーダーとして、あまりにも器が小さいと感じていたからだ。


 そもそもなぜ世界随一の技術者かつ資産家のスタークが、世界を守るアベンジャーズ計画の中心人物となったのか。彼を突き動かす信念の原体験は、2008年に公開された『アイアンマン』にて語られる。アメリカで兵器開発のトップをひた走るスタークは、実験のため中東を訪れる。そこで彼はテロリストに誘拐されてしまい、自分の作った兵器がテロリストに濫用されている事実を目の当たりにする。脱出のために、捕虜仲間のインセン博士とともにパワード・スーツを開発し、インセン博士の犠牲によって命からがら脱出に成功した彼は、兵器製造を止め、自らがアイアンマンとなり紛争への抑止力となることを誓うといった具合だ。


 実際に『アイアンマン』公開当時のアメリカは、イラク戦争の真っ最中で、作品の持つメッセージ性が時事的なテーマとも重なり、名実ともにアイアンマンを人気ヒーローに押し上げる一因ともなった。


 ここで、彼は“兵器に平和を任せることはできない”と学ぶが、今後数々の過ちを繰り返すことになる。『アイアンマン3』(2013)では、『アベンジャーズ』(2012)でのロキの襲撃による恐怖からアーマー依存症となり、大量のアーマー製作に勤しむ。また『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)においては、大規模な平和維持プログラムの副産物として、邪悪な人工知能ウルトロンを生み出してしまい人類を危険に晒すことになる。彼の原体験の教訓とは裏腹に、システムに平和を委ねる試みによる失敗を何度も繰り返してしまう。アイアンマンが紛争抑止の装置になるという行為そのものが、さまざまな危機を地球に招いてしまうのだ。


 この“兵器に平和を任せることはできないが、自身がアイアンマンという兵器であるジレンマ”というのが、『アイアンマン』シリーズをはじめとした、トニー・スタークの抱える一つの命題であり面白いところでもあるのだが、彼自身の傲岸不遜な性格も相まって、自己矛盾した印象を観客に与える一因になっていた。


 アベンジャーズのもう1人のリーダーにキャプテン・アメリカがいるが、彼の行動原理は“母国アメリカ、そして平和のためにその身を捧げる”といったものであり、一本筋が通っている。リーダーとしてこの2人を比較した際、どうしてもスタークの複雑性が浮き彫りになってしまい、どうにも共感しづらいというのが『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)にて描かれる。同作は、国際社会から、アベンジャーズを国連の保護下にとの声が強まり、協定の批准を巡ってチームが2つに分裂する。スタークを筆頭に協定に賛成の派閥ができあがるのだが、キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースは、「自身の判断で活動することが難しくなる」との懸念から署名に反対の立場を明らかにする。この後さまざまな陰謀が絡み合い、アベンジャーズ分裂という道へとつながっていくのだが、このときスタークは、ソコヴィアで息子を失った遺族にひどくなじられたことをきっかけに協定賛成の立場を明らかにするという、ここでも直情的な動機によってチームを導いてしまう。


 以上の背景を踏まえて、本作を観てみよう。今回のスタークは、ブルース・バナーとドクター・ストレンジが語るサノスの危険性にいち早く真剣に耳を傾け、仲たがいしてしまったロジャースに連絡を取ることを思案する。このシーンに過去の作品にあったスタークの自家撞着な一面は一切感じられない。彼は、自身の行動をしっかりと省みて、前へと一歩踏み出す意思を提示している。


 また本作では、スタークの魅力の一つであった、ウィットに富んだ軽口が極力抑えられている。観客のサーカズム的な笑いを引き出す会話劇にスタークが参加することがほとんどないのだ。ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーやスパイダーマンという新しい面々にこの役割を任せ、ここ10年間MCUを引導し物語のメインストリームに深く関わり続けたスタークがシリアスに振り切ることで、本作のトーンを乱すことなく作品全体に重厚感をまとわせている。


 また、ピーター・パーカー/スパイダーマンとのやり取りも、前作『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)と比べ大人びた印象を受ける。『ホームカミング』の最後にて、パーカーを一人前と認めたスタークは、今作ではしっかりと保護者的な立ち位置を守っている。ニューヨークの乱戦の最中、駆け付けたスパイダーマンを戦力と認め加勢を許可、いよいよという場面で新しいスーツを授け離脱を促す。しかし、パーカーが独断で宇宙船に乗り込んでしまった際は真剣に彼の行動をいさめるという、理想的な父親像を見事に披露する。このシーンにも、かつてパーカーを子供扱いし適当にあしらっていたときの無責任さは全く感じない。


 劇中最後に映し出されるスタークの表情もまた象徴的だ。喪失を噛み締めたロバート・ダウニー・Jr.の渾身のワンカットにおもわず涙があふれ出てしまった。


 今作にて、想像がつかないほど多くのものを失ったトニー・スタークとアベンジャーズ。衝撃のラストにて語られた大きな試練が、いったい彼らをどのように成長させるのか。来年5月に公開が予定される『アベンジャーズ4(仮題)』が今から楽しみでならない。(安田周平)


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  • どちらかというとリーダーというよりシビルウォー以降は、スパイダーマンの父親になってきている
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