サンド伊達「ブルジョア障害者は差別用語じゃない」はなぜ間違っているのか? 「新しいレイシズム」は差別じゃないフリを装う

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2018年11月04日 15:01  リテラ

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 10月30日放送『バイキング』(フジテレビ)にて、さいたま市議会における「ブルジョア障害者」発言を扱った際、坂上忍と伊達みきお(サンドウィッチマン)の間でなされたやり取りが話題を呼んでいる。



「ブルジョア障害者」は、10月19日に障害者の医療費助成に所得制限をかける条例改正案について話し合われた本会議の席で、吉田一郎市議から傳田ひろみ市議に向けてかけられた言葉。



 傳田市議は足の障害で車椅子を使用しているが、吉田市議は傳田市議を示しながら「障害で働けない。収入が少ない。だから医療費を安くしましょう。タダにしましょう。これはわかります。でも障害者でもですね、なかにはうち(さいたま市議会)にもいますけど、年収1354万5000円の車イスに乗った障害者がいるわけですよ。こういった高収入のブルジョア障害者の方は負担していただいても構わないわけですよ」と発言したのだ。ちなみに、傳田市議は今回議論された所得制限の条例改正案に賛成している。



 この許しがたい発言の問題について、司会の坂上忍から話を振られた伊達みきおはこのように答えた。



「これ、“ブルジョア”っていうのは“裕福な”とかそういう意味なんですよね? 誰がこれを聞いて怒ってるのかな? とちょっと思って。全然差別的な用語ではないような気がするんですけどね。差別的な用語ではないですよね?」



 これに対し、スタジオは凍りつく。坂上は「ん?」「VTR見ましたよね? 言い方も含めて」と返した後、「ブルジョアという単語自体は悪い言葉ではないですけれども、ブルジョアと障害者という言葉をくっつけて、ブルジョアをも揶揄したようなニュアンスで、とても不適切なワードだと僕は思いますけれども」と主張。



 坂上の反応を受けた伊達はすっかり萎縮してしまい、そのまま会話から引っ込んでしまった。



 これに対し、ネット上では「また坂上忍が圧力で議論を踏みつぶした」との声が殺到した。ネトウヨと親和性の高いJ-CASTニュースをはじめとする、この件を取り上げたネットニュースも、坂上の司会ぶりを非難して、伊達を擁護する論調が多く、実際、ツイッターを見ると、こんな意見が投稿されている。



〈伊達は間違ってないって言いたい〉

〈「ブルジョア障害者」という言葉自体に差別感は全然感じない どこが差別用語なん?〉

〈差別って騒いでる方が差別してるんでは〉



 いまさら言うまでもないが、「ブルジョア」という言葉は、単にお金をもっている人というだけでなく、「贅沢」「働きもせず搾取している」といった侮蔑・批判のニュアンスを込めて使われるケースが多い。



 吉田市議は「高所得の意味でブルジョアという言葉を使ったが、気を悪くしたなら申し訳ない」(2018年10 月24日付朝日新聞デジタル)と話しているが、苦しい言い訳だろう。



 またそもそも、これが「金持ち障害者」や「セレブ障害者」という言い方であったとしても、問題があることに変わりはない。



 傳田市議は今回の問題について「議員報酬は同額なのに、なぜ私だけブルジョアなのか。ブルジョアと言われたことに対して不快な思いをしたのではない。その言葉の根底にある彼の意識について問いたい」と、吉田市議の発言そのものでなく、発言の背景にある意識のほうを厳しく批判している。



 もらっている報酬は同じなのに、吉田市議が「ブルジョア」という言葉を使ったのは、その背景に、「“障害者なのに”、裕福であったり、地位や名誉を得ているのはおかしい」という障害者を下に見る意識があるからだろう。



●ありもしない「弱者の特権」を攻撃し差別を正当化する“新しいレイシズム”



 そして、「ブルジョア障害者」なる差別発言が出てきた背景には、もうひとつ、「弱者が優遇されている」との意識がある。



 こういった差別のあり方は近年とみに増えてきた傾向のものだ。



『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房)に寄せた論文で社会心理学者の高史明氏は、日本における在日差別を分析するなかで、ここ最近アメリカの研究で明らかになってきた「古いレイシズム」と「新しいレイシズム」という考え方を紹介している。



〈「古いレイシズム」というのは、「マイノリティは(能力的・道徳的に)劣っている」といった信念(belief)にもとづく、露骨なレイシズムである。一方、「新しいレイシズム」というのは、「差別は既に存在していないのだから、現存する格差はマイノリティの努力不足によるものだ、にもかかわらずマイノリティは「差別」に抗議し不当な特権を得ている」という信念にもとづく、表面的には隠微なレイシズムである。アメリカでの研究では、公民権運動などを経て「古いレイシズム」が社会的に容認されなくなるにしたがって、「新しいレイシズム」が広まってきたことが指摘されている〉



〈こうした「新しいレイシズム」が、単なる政治的意見であるかのように装いながら紛れもなく「偏見」であることは、国内外の研究で指摘されてきた〉



 これは、アメリカにおける黒人差別問題だけに限らず、日本で起きている差別問題にも共通している。



 いわゆる「在日特権」デマや女性専用車両への男性乗り込み問題、そして、先日の杉田水脈議員による性的マイノリティ差別論文などの例を見ても明らかなように、実際には特権でもなんでもない偽の「特権性」をあげつらうのは、近年マイノリティへの差別と排除を正当化しようとするレイシストの常套手段となっている。今回問題となっている障害者差別もこの構造と共通している。



 このように、現代における差別の構造は巧妙になっている。だから、差別的表現も放送禁止用語のように単語ひとつで差別用語とわかるようなわかりやすいかたちを必ずしもとらない。それが差別となるかどうかは「文脈」で理解しなければならないのである。



 坂上が指摘したように、「ブルジョア」という言葉自体は差別語ではない。使われる場面によってはお金を持っている人間に対する揶揄のニュアンスも込められるとはいえ、辞書的には「資本家階級」という意味に過ぎない言葉だ。だから、伊達も「差別的な用語ではないですよね?」と言ったのだろう。



 ただ、先に述べた通り、言葉は使われた文脈で判断するべきである。その単語のみで問題なくとも、使われ方によって差別的な意味合いをもつことは多々ある。



 しかし、現在のメディアでは、そういった個別のケースで差別問題やコンプライアンスについて考えるのを忌避して思考停止する傾向がある。差別表現についての一面的なルールブックを要請した松本人志の発言がその典型だろう。



●「何が差別かわからない」という思考停止は、差別を温存・再生産する



 昨年大晦日に放送された『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日年越しスペシャル!絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時!』(日本テレビ)にて、浜田雅功が『ビバリーヒルズ・コップ』のエディ・マーフィーのコスプレという設定で顔を黒塗りにし、そのことが日本のみならず、国際的な問題となったのは記憶に新しい。



 2018年1月14日放送『ワイドナショー』(フジテレビ)で、このブラックフェイス問題について説明した松本人志はこのように語った。



「じゃあ、今後どうすんのかなって。僕らはモノマネタレントではないので、別にもういいんですけど、この後、モノマネとかいろいろバラエティ(番組)で、じゃあ、今後黒塗りはなしでいくんですね。はっきりルールブックを設けてほしい」



 浜田のブラックフェイスが批判されたのは、「ただ黒塗りにしただけで“エディ・マーフィーのモノマネ”と称して笑いにしようとした」点にある。もし浜田が『ビバリーヒルズ・コップ』の名シーンを完璧に再現してみせたうえで笑いをとっていたのなら、ブラックフェイスは必要なかっただろう。あるいはそこまで黒塗りにこだわるというのであれば、「なぜ黒塗りがNGなのか」その差別の歴史も踏まえたうえで、それをも突破するような新しいお笑い表現をつくり出すこともできるかもしれない。



 そこを単純に「はっきりルールブックを設けてほしい」などと言って考えることを放棄するから問題が繰り返されるのだ。このような短絡的な発想こそが、現在お笑いの表現し得る範囲を狭めている大きな要因のひとつである。



 たとえば、放送禁止用語とされているものだって、文脈や使い方によっては差別的な笑いでなくむしろ差別を批判するような笑いにすることもできるかもしれないのに、そういった文脈を踏まえることを放棄して一律でNG項目のリストに加えてしまうから、自分で自分の首を締める事態につながっている。



 そして何より、こうした思考停止が差別を温存させていることは言うまでもない。



 今回の伊達も、差別を肯定するような意図はなかったかもしれない。しかし、「ブルジョア」という言葉や「障害者」という言葉が、それ単体でいわゆる差別用語や放送禁止用語ではないというだけで、それらの言葉の使われ方で問題が生じていることに思い至らなかったのだとするなら、差別問題に対して無神経すぎる反応だろう。



 しかし、それは現在メディアが抱えている問題を象徴する出来事と言えるし、差別表現に関してはもはやそんな短絡的な考えでは通用しない時代になっているということを認識しなければならないのである。

(編集部)


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