『有吉ぃぃeeeee!』作家チームが語る“引き算の演出”のつくり方 「テレビマン的な発想を入れすぎないように」

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2019年03月31日 14:11  リアルサウンド

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 毎週日曜日の22時より放送中のバラエティ番組 『有吉ぃぃeeeee!そうだ!今からお前んチでゲームしない?』(テレビ東京系)。芸能界きってのゲーマー・有吉弘行が、タカアンドトシ、アンガールズの田中卓志らと共に毎回様々なタレントの自宅を訪れ、eスポーツゲームで対戦するもので、ゲーム番組とバラエティ番組の両軸で視聴者を楽しませている。演者たちのゲームの腕前も成長し続けるうえ、プレイ動画をTwitchやYouTubeで公開するという、かつてない形の番組であることから、ゲームファン・お笑いファンからも高い評価を得ている番組だ。


 これまで番組の仕掛け人であるプロデューサー・平山大吾氏と総合演出を務める岩下裕一郎氏を取材してきたが、今回は『ナカイの窓』『ぐるナイ』『有吉ベース』などを手がけてきたカツオ、『さんまの東大方程式』『笑神様は突然に』『スクール革命』などを担当する丸山コウジ、『ナカイの窓』『エンタの神様』『気になるお客サマ』などに携わる池谷勇太が登場。多くの人気バラエティ番組に作家として関わる彼らが、番組を作る上で工夫したポイントとは? 番組のチャレンジングな姿勢や、回を追うごとに広がっていく面白さ、ネットとの親和性など、様々な方向へ話が広がった。(編集部)


・「青春というか、これはもう部活ですよね」(カツオ)


――人気番組を多数手がけているお三方ですが、まず、『有吉ぃぃeeeee!』にはどんなタイミングからかかわっているのでしょうか?


カツオ:本当に当初からですね。テレビ東京でeスポーツの番組を立ち上げる、というところで、まずは僕がプロデューサーの平山(大吾)さんに呼ばれて、こういう企画に強そうな2人に声をかけた、という感じです。


池谷:最初は本当に「eスポーツを取り上げる」ということ以外、何も決まっていなくて、日本代表が世界と戦う、みたいな方向も検討していたんですよね。


丸山:そして、気づけば家でゲームをしていたという(笑)。


ーーなるほど。「家でゲーム」という、ゆったりしつつもゲームの本質的な楽しさを伝えてくれる構成になったのは、有吉さんのキャスティングも大きかったですか?


カツオ:そうですね。僕らがいろいろネタ出しをしているなかで、平山さんが「有吉さんがゲーム番組に関心を持っている」という話を持ってきて、放送時間が有吉さんのラジオ(『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』)と5分間かぶっていることもあって、どうなるかわからない状況だったんですが、ダメ元でオファーしてみたらなんとOKだと。


池谷:テレビ的に言うと、有吉さんが出ているだけである程度、引きになっちゃうから、それこそ「家でゲーム」という一見ゆるい企画性でも、十分に持つんですよね。


丸山:ただ、すごいと思ったのは、平山さんをはじめとするテレビ東京の思い切りで(笑)。というのも、「家でオンライン対戦」となると、対戦相手にどんな人が来るかわからないし、回線のトラブルがあればそもそも対戦できなくなる可能性もあるし、他の局だったらもっとネガティブな判断になっておかしくないんですよ。


――当初はゲームメーカーの人からも懸念の声があったとか。


丸山:それでも「面白い番組にするためにはやったほうがいい」と判断できるのがスゴいなと思いました。


池谷:いまのゲームシーンを考えると、ネット対戦がわりと普通だし、それこそスタジオでワイワイやるほうが違和感があったりもするので。


カツオ:平山さんがそこを大事にしていた感じはありますね。あくまでも自然な形で、ゲームの楽しさをそのまま伝えようと。ただ、それってゲーム番組としては実は新しくて、それだけに怖さもあったんです。


ーーその怖さを乗り越えたきっかけはあったのでしょうか?


池谷:会議のなかで、実際にネット対戦をしてみたんですよ。番組の中で、タレントさんでも手が震えたりするような独特の緊張感をプロデューサー自ら体験して、この感覚を番組の落とし込みたい、と。みんなで一丸となって応援できるのも、やっぱりスポーツ的で楽しいなと実感しました。


――そうして枠組みが決まったなかで、作家の皆さんとしては、どんなことを重視して企画を立てていきましたか?


カツオ:僕らが意識したのは、有吉さんたちにとにかく本気になってもらうことです。番組を見ていただくとわかると思うんですけど、有吉さん、他の番組では絶対に見ない顔をしているんですよ(笑)。


池谷:アンガールズの田中さんなんて、一回の収録のために、30時間とか練習してきますからね。そういうランクの人たちじゃないのに、ものすごく高いモチベーションを持ってくれていて。


カツオ:有吉さんもかなり練習していて、負けたときは本当に悔しそうで。ロケ時間がタイトなので、それだけ練習してきても、プレイする順番が回ってくるのは1〜2回。そこにすべてをかけるから、手も震えるんです。青春というか、これはもう部活ですよね。


池谷:そういう空気感を崩さないように、ある種、引き算の演出になっていますよね。こちらがいろいろ考えすぎて、想定外のことが生まれづらくなって、演者さんの温度が冷めてしまうこともある。もちろん、まったく無計画ではないんですが、テレビマン的な発想を入れすぎないように、というのは考えていますね。


カツオ:そう、普通のテレビ的発想だと「負けたら罰ゲーム」なんてやりがちですけど、そういうものも一切ナシで。


――なるほど、ただ悔しさだけが残るみたいな(笑)。


丸山:それがリアルなんですよね。本当に忙しいなかで必死で練習して、「悔しい」で終わる。それが何よりの罰というか。


池谷:本当にスポーツというか。勝っても負けても、何があるわけじゃないけど、それでも勝ちたい。


丸山:そういうリアリティが出るように、台本もセリフっぽくするというより、こちらが考えている仕掛けや展開を案として提示しているような感覚ですね。


池谷:こういう遊びや展開を考えておくけど、採用するかどうかは実際にゲームをする皆さんにおまかせします、と。


――回を重ねるごとに楽しくなっているこの番組ならではのグルーヴは、「決め込めすぎない」ところから生まれているのかもしれないですね。


カツオ:そうですね。実はタカアンドトシさんと有吉さんって、あまり共演経験がなくて、最初はちょっと壁もあったんです。それが、ゲームを比較的自由に楽しんでもらうなかでチーム感が生まれて、いまや有吉さんがトシさんのツッコミを信頼してボケまくっていますから(笑)。この構図も、他の番組ではなかなか見られないもので。


丸山:もう、何年一緒にやっているんだ、という感じですよね。


池谷:これもゲームが持つ魅力というか、あらためて発見したことです。インフルエンザでタカさんが休んでしまったときなんか、すごく物足りない感があって。チーム感はかなりできてきていると思います。


――ゲストや準レギュラーの方々も、そこにうまくハマっていて。


カツオ:そうですね。みちょぱさんなんて、有吉さんに臆せずツッコめますし、河北麻友子さんの煽りも最高で(笑)。


――有吉さんやトシさんの“マジギレ”も話題になりました。


丸山:みんな「よーいドン」で始めているなかで、負けると本当に悔しいんですよね。やっぱり罰ゲームはいらない(笑)。


カツオ:今後もいろんなゲーマーに登場してもらいたいですね。


池谷:ゲーム番組としてもっと有名になっていけば、ゲーム好きの有名な俳優さんとか、思いもよらない人が名乗り出てくるんじゃないかと。


カツオ:僕らからはなかなか言えることではないですけど、例えば人気の俳優さん、女優にもゲーム好きを公言されている方もいますから、いつか出てもらえたらと。


・「他の番組では、作ろうと思ってもなかなか作れない流れ」(丸山)


――グルーヴが出てきたなかで、後ろからみんなでプレイヤーを応援するのも、スポーツ的な熱さがあっていいですね。


カツオ:そうですね。最初は演者さん同士の対戦もいいんじゃないか、という話もあったし、実際にやるときもあるんですけど、そうすると応援する声が散ってしまうんですよね。やっぱりひとりのプレイヤーを応援していたほうが、圧倒的に盛り上がるんです。


池谷:先ほども「部活」という話をしましたけど、応援する側も含めて、演者のみなさんの表情がーー例えば90年代後半から一世を風靡した『ウリナリ芸能人社交ダンス部』みたいな、本気のテレビ企画を思わせる真剣さになっていて。最近はあれほどガチな企画がなかったなかで、ゲームでそれが実現するというのは、面白いなと思います。


カツオ:自然とガチになるから、表情のアップを使いましょう、という話はよくしますね。


――子供のように喜んだり、悔しがったりする有吉さんの姿は本当に新鮮です。自分もゲームをしたくなる、親近感がありますね。


丸山:うれしいですね。ツイッターとかで「自分もやりたくなった」という声を聞くことも増えていて。


カツオ:実際、放送後に『スプラトゥーン2』や『ぷよぷよ eスポーツ』の売上が少し上がった、と聞いてうれしかったです。


池谷:自分も対戦したい、というふうに、視聴者の人たちが積極的に参加してくれるのもありがたいことで。実はこれって、昔のテレビ的でもあるんですよね。


カツオ:そうそう。昔は生放送で「どこどこに集まれ!」みたいな企画があって、多くの人が集まりましたからね。いまはみんな家にいながら、オンライン上で集まることができる。昔のテレビ番組のような熱気もあり、やり方はいまっぽくて面白いですね。


丸山:他の番組では、作ろうと思ってもなかなか作れない流れだと思います。


――演者のみなさんも、意図せず素の部分が出ていると思いますし、視聴者とのインタラクションも含めて、ラジオ的な魅力もあると思いました。


池谷:確かに、そういう「近さ」は感じますね。


丸山:それこそ、昔はテレビにもハガキを送ってくれる人がいましたからね。募集もしていないのにハガキが来るって、すごい視聴熱だと思うんです。『有吉ぃぃeeeee!』も、取り上げるタイトルを発表すれば、ツイッターでポイントを教えてくれる人が出てきますし、視聴者と番組がつながっている感が素晴らしいなと。


――視聴者とのつながりという意味では、外伝的にネットで行なわれているアンガールズ田中さんのゲーム配信『卓志ぃぃeeeee!』も大きいですね。視聴者コメントとのやり取りも、テレビとはまた違ったノリがあって。


カツオ:あれもオッケーできてしまうテレ東がスゴい(笑)。


丸山:思いつきというか、会議のなかで「こういうことをやったら面白いよね」という提案をすると、その場で終わらせずに、何日後かには実現しているんですよ。


池谷:平山P、また総合演出の岩下(裕一郎)さんもそうなんですけど、未知の領域でも面白そうなことはガンガンやろう、という発想なんです。テレビマンって、わりと見えないことはやりたがらない傾向があるのに、本当に仕事がしやすいですね。


カツオ:そもそも僕らは新しいことをやりたい、物好きな作家なんです。テレビ外に目を移すと、いまは流れがめちゃくちゃ早い。『有吉ぃぃeeeee!』の番組公式ツイッターはいま、フォロワーが6万人に届こうかというところまで来ていますが、テレビ番組のツイッターとしてはものすごく早いんです。これを考えても、やっぱり他にはない番組作りができていると思いますし、フォロワー10万人でひとつのメディアになると思うので、まずはそこを目指して頑張ろうと言っています。


池谷:ネットの速度感ですよね。例えばYouTuberは、思いついたことをすぐコンテンツにしてしまう。僕らもテレビの感覚でモタモタしていないで、ガンガン仕掛けていくほうが、ゲームユーザーとの親和性も高いと思うんです。


――確かに、何週間か前に収録された番組の放送だけでなく、同時進行で対戦募集があり、ネット配信があって、というリアルタイム感があります。


丸山:例えば、田中さんの配信で、箱根駅伝の山の神・柏原竜二さんを招いて『スプラトゥーン2』をプレイしてもらったんですけど、これも柏原さんが番組についてツイートしてくれているのをカツオさんが見つけて、声をかけてみたんです。僕ら作家陣と岩下さんのLINEグループで「面白いね」ってなって。


カツオ:それで、裏側で連絡するのではなく、ネット上で声をかけるという(笑)。アイデアが実現するまで、本当に速いんですよ。


丸山:この前も、「対戦した人の相手の名前をエンドロールに出したら面白いんじゃないか」というアイデアを出したら、その週の放送ですぐに実現したり。


池谷:それを本人が喜んでくれて、スクリーンショットを拡散してくれたり。そういう遊びをどんどん増やしていきたいですね。


カツオ:ラジオでハガキ読まれた感じというか。


・「テレビって、ネット配信やSNSをひとつ下に考えがち」 (池谷)


――田中さんの配信のゲストで言えば、当サイトでも連載を持っているゴールデンボンバーの歌広場淳さんも出演していました。


カツオ:歌広場さんも、ネットを番組のことをつぶやいてくれている人を探してパトロールしていて、「出てもらえるんじゃないか!」と(笑)。


池谷:歌広場さんはゲーム業界で名前が知られていますし、田中さんもかなり勉強していますから、噛み合って面白い配信になりましたね。田中さん、今後ゲーム配信でさらに人気が出るんじゃないかと思います。


カツオ:テレビからネットに広がっていくだけでなく、ネットの盛り上がりが番組を活性化してくれる、という面もあると思っていて。例えば、『卓志ぃぃeeeee!』で盛り上がったゲストに、逆輸入的に番組に来てもらうとか。


――なるほど、必ずしもテレビを補完するためのネット配信ではなく、相乗効果が出すためのものだと。


池谷:そうですね。テレビって、ネット配信やSNSをひとつ下に考えがちだと思うんですけど、僕らはすべて並列で、もっと言えばイベントなんかも含めて、『有吉ぃぃeeeee!』という一つのコンテンツにしたくて。それがきちんと実現したら、テレビ業界的には新しいスタンスですよね。


カツオ:うん、そこは目指しているところです。


丸山:いま、テレビって一定の視聴率のパイを取り合っているような感じなのに、『有吉ぃぃeeeee!』には普段テレビを見ていない層も入ってきてくれている、というのがスゴいなと思います。業界的なテーマで、しかしうまく実現できていないところを、この番組は自然にできているというか。


――今後もさまざまな展開がありそうですね。最後に、番組を楽しみにしている視聴者に一言ずつ、お願いします。


池谷:僕は個人的にゲームをする方なので、ゲームファンをがっかりさせない番組作りをしていきたいと考えています。あまりテレビに寄せすぎず、その上で、テレビの視聴者にも納得してもらえる、というバランスも大事で。あとは、対戦募集にもお子さんが参加してくれていて、これもいまのテレビ業界的には新しいことかなと。子どもを主役にしたイベントもできたら面白いな、と思っています。


丸山:僕はいま38歳で、テレビ的にいうと「M2」の世代です。この前、高校の同級生に会ったら、あまりテレビは見ていないけど、『有吉ぃぃeeeee!』は面白い、と言ってくれたんですよね。「昔、友だちの家に行ってこんな感じでゲームしたよね」という感覚で面白がられる番組にもなっていると思うので、子どもたちももちろんですが、子どもの心を忘れないおじさんたちにもぜひ、見てもらえればと。


カツオ:今日もお話ししましたが、有吉さん、タカさん、トシさん、田中さんという、キャリアのある人たちが自然と本気になって、思いっきりプレッシャーを感じてプレイしている表情を見てほしいなと思います。ゲーム番組というより、男のプライドをかけたーー女性もそうですけど、とにかく戦う人間の物語だというのが面白くて。個性派ぞろいの弱小野球チームが成長していく『がんばれ!ベアーズ』のような感覚で見守ってもらえたらうれしいですね。(橋川良寛)


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