二大看板「朝ドラ」と「大河」以外でも高いクオリティ保持 意欲作が続く近年のNHKドラマを探る

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2019年04月03日 06:11  リアルサウンド

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 NHKドラマというと、丁寧に作られた優等生的な文芸作品という印象が強く、民放で放送されている娯楽性の高いドラマとは良くも悪くも別枠と思われていたが、近年は状況が大きく変化している。


【参考】『なつぞら』広瀬すずが語る、朝ドラヒロインへのアプローチ


 一番大きいのは、化石のような存在だった朝ドラ(連続テレビ小説)の復権だろう。2010年の『ゲゲゲの女房』以降、一話15分6日連続で半年間放送という形態がSNS時代にマッチしたことで生まれ代わり、今や朝ドラを中心にテレビドラマは動いていると言っても過言ではない。現在放送中の『なつぞら』も高い支持を得ている。


 作品自体は『カーネーション』や『あまちゃん』といった朝ドラの歴史を更新するような傑作が続出した10年代前半に比べると、良くも悪くも安定期に入ったが、そんな当時の朝ドラを彷彿とさせる地殻変動が起きているのが、『真田丸』以降の大河ドラマである。


 現在放送中の『いだてん〜東京オリムピック噺〜』は脚本家・宮藤官九郎を中心とする『あまちゃん』チームが再結集した意欲作で、オリンピックを題材に近現代史を描くという、かつてない大河ドラマとなっている。


 おそらく今年を代表する作品となることは間違いないだろう。この、朝ドラと大河が、NHKドラマの二大看板だが、それ以外の連続ドラマも高いクオリティを保持した現代的な作品が多い。


 中でももっとも勢いがあるのは、ドラマ10(金曜夜10時枠)だ。昨年はトランスジェンダーをモチーフにした『女子的生活』と、産婦人科を舞台に、出産や中絶の現実をシリアスな視点で描いた『透明なゆりかご』といった意欲作を生み出し、ドラマ関連の賞を総なめした。


 今クール放送された『トクサツガガガ』はコミカルなテイストの笑える作品だったが、特オタ(特撮オタク)のヒロインを通して現代社会の生きづらさを追求しており、本作もまた、女性の困難を丁寧に描いた社会派ドラマの傑作となっている。おそらく今のドラマファンがもっとも注目している放送枠だと言えよう。


 よるドラに比べると、存在感が薄くなってきているが、土曜ドラマも見逃せない。


 2000年代末には大友啓史演出の『ハゲタカ』を筆頭とする社会派ドラマの傑作を生み出してきた。今では日曜劇場のイメージが強くなっているが『鉄の骨』や『七つの会議』といった池井戸潤の原作小説のドラマ化もいち早く手がけたのも土曜ドラマである。


 現在は方向性に迷いを感じるが、今期放送された『みかづき』は久々に土曜ドラマらしい作品だった。演出や音楽はコミカルだが、学習塾の歴史を通して戦後日本を見せていく構えの大きさは見応えがあり、もっと長い尺で見たかったと感じさせた。


 同じ土曜に放送されている土曜時代劇(土曜18時5分放送)は、ライトな時代劇を放送しており、今期はBSプレミアムで放送された『幕末グルメ ブシメシ!2』を再放送していた。


 時間帯が早いためか若者向けテイストも強く、最近では女子高生が戦国時代にタイムスリップする『アシガール』がおもしろかった。


 1970年代に放送された『なぞの転校生』等の少年ドラマシリーズや、『六番目の小夜子』のようなSFジュブナイル作品がNHKドラマにはポツポツと存在するが、『アシガール』は同じエッセンスを感じた。


 若者向けドラマ枠として今もっとも注目なのは、よるドラ(土曜23時30分放送)だろう。2018年から始まったこの枠は、昨年はBSプレミアムで放送された『植物男子ベランダー』を再放送していたが、今年に入ってオリジナルドラマに着手。今クール放送された『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』は、タイトルのとおり、何とゾンビモノ! 


 ある地方都市でゾンビが発生する中、そこで暮らすタウン誌のライター・小池みずほ(石橋菜津美)を中心とした家族や友人の人間関係が描かれたのだが、ホラーというよりは、地方で暮らす人々の鬱屈がゾンビ発生と共に露わになるという展開で、終始どんよりとした空気が流れていた。


 脚本を担当したのが劇団MCRの櫻井智也。閉鎖空間で登場人物が気の利いた会話を延々としている姿は舞台作品のテイストが強く出ており、「テレビ東京の深夜ドラマでやっているようなことを、あえてNHKでやってみました」という印象だった。


 閉塞感のある鬱屈した物語や、まとめサイト的なタイトルから漏れ出るSNS受けを狙ったスタイルにはハマれなかったが、それでも新しい才能を起用して若者向けドラマを作ろうという志は高く評価する。


 次回作は『腐女子、うっかりゲイに告る。』。タイトルだけみると、SNS受けを狙っている今どきの作品に見えるが、脚本が『デートまで』や『それでも告白するみどりちゃん』等のWEBドラマで注目される劇団「ロロ」の三浦直之であるため、一筋縄ではいかないドラマになるだろうと期待している。


 作家性の強い脚本家と、クオリティの高い映像を作るNHKのディレクターとのコラボによって名作を作ってきたのがNHKドラマだ。よるドラには新しい才能を発掘する実験場となってほしい。


(成馬零一)


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  • 最近のNHKドラマだと、「透明なゆりかご」が最も素晴らしいかった。テーマ云々は脇に置いて、是非見て欲しい作品。なお、次点は「トクサツガガガ」かな。
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