黒木華が選んだカッコ悪い自分に直面すること 『凪のお暇』が示す、人生を切り拓く勇気

2

2019年08月17日 14:11  リアルサウンド

  • 限定公開( 2 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

『凪のお暇』(c)TBS

 「カッコいい! 自分の足で立ってるうららちゃんママも、自分の意思でお友だち選んでるうららちゃんとお友だちも! 超、超カッコいい!」


 金曜ドラマ『凪のお暇』(TBS系)第5話。描かれたのは、自分の意思で人生を切り拓いていく大切さ。


 「一緒にいると空気が美味しい」右隣に住む・ゴンへの恋の沼に溺れた凪(黒木華)は、心をすり減らしてゾンビ化していた。それを見た、モラハラ気味な元カレ・慎二(高橋一生)に土砂降りの雨の中「スベってんだよ」と攻められるも、目を覚ますどころかますます心を閉ざしていく。


【写真】慎二の新しい恋人? 市川円


 そこに、現れたのが凪の左隣に住む母娘、みすず(吉田羊)と、うらら(白鳥玉季)だ。冷たい雨の中で諭そうとした慎二に対して、温かいお風呂と茶碗蒸しで凪を包み込む。まるで童話『北風と太陽』のごとく、凪はみるみる心のコートを脱いでいく。自分らしく生きようと人生をリセットしたはずなのに、またもや自分を見失っていたと反省するのだった。


 さらに凪は、みすずがママ友たちからサンドバッグ状態になっているランチに遭遇。うららも、そのママ友たちの娘に「話しちゃダメ」と言われているのだと明かす。ママ友は凪にまでみすずの「仕事や子育てが不安だ」とこぼす始末。


 だが、うららは毅然として、ママ友とその娘たち、そして凪をみすずの職場に案内する。そこには大型クレーンを凛々しく操作し、屈強な男性スタッフからも頼りにされるみすずの姿が。なよなよと男に頼って生きていると決め込んでいたママ友たちの鼻をあかす結果に。


 悔しそうに立ち去るママ友の目を盗んで手を触り合う友だちとうらら。その手首には、凪から教わった毛糸のポンポン飾りも。「大人が考えているよりも、私たち子どもじゃない」と、確固たる信念を見せるうらら。この母娘の芯の強さに、凪も感化されて自らの足で海に向かうことを決意する。


 ゴンにバイクで連れて行ってもらった甘い思い出が漂う海に、今度は自分の足で向かい、自分の意思で合鍵を捨ててやろう! そう意気込んだのだが、そうはうまくいかないのが人生。自転車で向かうにはあまりに遠く、ガラケーでは地図アプリも当てにならず、気づけば当たりは真っ暗に。挙げ句の果てには転んで膝からは血がダラダラ……。


 だが、それでも一歩踏み出せば、日常とは違う人や風景と出会える、それが人生だ。藁にもすがる勢いで1件のスナックに入った凪。そこは、いつも慎二が涙ながらに凪のことを相談していたママ(武田真治)が営むスナック『バブル』の2号店。


 「帰りな」と冷たい言葉を投げかけながらも、怪我を手当し、海までの道のりを丁寧に示した地図、そして幸せの青いトリをもじったおいしそうな丼までごちそうしてくれた。そして自分の意思で行きたいと思ったところなんだから、とことん行けと背中を押す。その出会いがキッカケで、凪がそこで働くことになるなんて、やはり人生は何があるかわからないから面白い。


 さらに、そこに凪との思い出や「復縁バイブル」を捨て、新たなオフィスラブと手をつないだ慎二がやってくるとは。加えて、合鍵を返されたゴンに凪への初めての恋心が芽生えるとは。その胸に手を当てた指に、凪からもらったちぎりパンのヒモをクルクルと結びつけてるところからも、愛しい想いが伝わってくる。


 インターネットの発達によって、私たちはその場所に行かなくても、行ったような気分を味わうことができる。自分が選択しなくても、誰かが選択して行動した結果に、高みの見物を決め込むことも。だが、それを本当にしたことがある人の経験値までは、得ることはできない。


 冷たい雨に打たれた後の、温かなおもてなしのありがたさ。転んだ痛みと、手当をしてくれた人との心の距離の近づき方。人生を切り拓くとき、誰もが傷つきたくないし、失敗したくないと思う。しかし、きっとその痛みだけでなく、新しい何かと出会うキッカケにもなる。怖がって何も変わらない毎日に息苦しさを感じるのなら、エイッと一歩踏み出してみるのも、また人生の楽しみ方。カッコよく生きるとは、そんなカッコ悪い自分に直面することから始まるのかもしれない。


(佐藤結衣)


    ニュース設定