◆ 球団と指揮官に感謝の言葉
オリックスの杉本裕太郎が16日、大阪市内の球団施設で契約更改交渉を行い、1400万円から5倍増の7000万円で更改した。初めて本塁打王、ベストナインに輝いた4番打者は「上がりすぎて、昇天ポーズでハンコを押した」と、本塁打を放った後の「昇天ポーズ」を再現するなど、終始、笑顔だった。
実直な、杉本らしい交渉の一場面だった。
6年目の今季、134試合に出場。打率.301、32本塁打、83打点を記録し、初の本塁打王を獲得して25年ぶりのリーグ優勝に貢献した。球団からの「すごく頑張ってくれた。ラオウ(杉本)がいなかったら優勝することが出来なかった」という感謝の言葉に、「今年30歳。社会人からドラフト10位で入って、過去5年間、一軍でなかなか結果が出せなかったが、それでも契約してもらえ、リベンジの機会を与えてもらったことはすごく感謝している」と、逆に謝意を伝えた。
昨季までのオフは、掛かってくる電話に怯える毎日だったようだ。「戦力外通告の時期になると、ずっと電話を気にしていた。たまたま非通知の電話が掛かってびっくりすることがあった。今年は初めてそういう心配がなかった。来年もそうなれるようにしたい」。
6年目の打撃開眼。過去5年間に通算9本塁打から一躍、32本の秘密を「本塁打を狙わなくなってから、本塁打が打てるようになった」と明かす。「僕のような三振も多い粗削りな打者は、自分が監督になったとしても使いづらい。確実性をどうにかしないとプロでは通用しないと考え、飛ばすことよりどうすれば率を残せるかをやってきた」と、欠点を見つめ直すことで長所を引き出したという。
昨年8月、当時の中嶋聡二軍監督が一軍監督代行になった際、「一緒に行こう」と声を掛けられて一軍に昇格。「打てなかった時もアドバイスをいただき、打てるようになった。恩師です」と、開幕から使い続けてくれた指揮官に感謝する。
今季、最も印象に残る場面に挙げたのも、中嶋監督からの一言だった。今季最終戦となった10月25日の楽天戦(楽天生命パーク)。打率3割が掛かった試合で、いい当たりが野手の正面を突く不運もあり3打数無安打。9回、4打席目を迎える前に中嶋監督が近づき、「後悔しないように行ってこいよ」と声を掛けてくれた。結果は、右前打で3割台に乗せ、「よし、やってやろう、という気持ちになった」と振り返る。
来季の目標は、「まだ、1年出ただけ。右翼にたくさんのライバルはいるが、誰にも渡さないつもりで全試合に出場したい」。目指す数字はない。「数字を意識すると力んでしまう。今年1年間、力まないようにと思って、いい感じだったので数字は設定しない」という。
謙虚に足元を見つめ、おごることなく更なる飛躍を誓う。
文・写真=北野正樹(きたの・まさき)