接近戦実現向けた次世代車両の進化を「ものすごい」と評価するJRP。一方チーム側は「いまじゃない」とコストに戸惑いも

1

2022年08月24日 17:10  AUTOSPORT web

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AUTOSPORT web

富士スピードウェイでの次世代車両開発テストで追従走行を行う“赤寅”と“白寅”
日本レースプロモーション(JRP)は8月20日、2022年スーパーフォーミュラ第7・8戦モビリティリゾートもてぎでの定例会見『サタデーミーティング』において、今季開幕前から進めている次世代車両開発について現時点での総括を報告するとともに、10月26・27日に鈴鹿サーキットで予定されている開発テストに投入する、新たな空力パッケージなどについて説明した。

 この開発テストは「エンターテインメントとしてこのレースを面白くすることと、社会課題であるカーボンニュートラルに立ち向かうこと」(JRP上野禎久社長)というふたつの根幹となるコンセプトのもと、今季のレース本戦前後に各サーキットで行われてきた(もてぎは11月に単独でテストを予定)。

 SFNext50テクニカルアドバイザーの永井洋治氏の統括のもと、トヨタ(TCD)とホンダ(HRC)が互いに協力し、トヨタエンジン搭載の通称“赤寅”、ホンダエンジン搭載の“白寅”の2台のオペレーションは参戦各チームが持ち回りで担当。開発ドライバーの石浦宏明と塚越広大がこれまで44レース分にあたる、8076kmという距離を走破してきた。

 一連のテストでは、燃料、カウル、タイヤなどに環境負荷低減を図る新素材を投入してきたほか、より魅力的なサウンドを目指した排気音変更のテスト、さらには“オーバーテイクしやすい”空力パッケージを目指した試験も実施してきた。

 今回の会見でJRPは、この空力パッケージについてとくに重点を置いて説明。さらに次世代車両のスケッチが初めて公開され、この新仕様による初走行を、最終戦直前となる10月の鈴鹿で実施することも明らかにされた。

 周知のとおり、現行のダラーラSF19は「(前車の)後ろにつくとダウンフォースが抜けるので、なかなかバトルがしたくても難しい」(永井氏)という性格がある。これに関し、これまでの開発テストではウイングの角度を寝かせることにより、マシン後方に発生する乱気流を抑え、接近・追従が可能かどうかを確認する走行が、繰り返し行われてきた。

 ダウンフォースレベルを変えて、そしてサーキットを変えて追従走行することで、事前に考えていたのとは別の問題も見えてきた、と永井氏。これについて開発ドライバーを務める石浦は、次のように説明する。

「追従できる距離や、ドライバーが感じる『この辺だったら大丈夫だけど、この辺だとキツいな』という感覚が、結構コース特性によって影響を受けたりもしますし、ダウンフォースも減らせば減らすだけいいってわけでもなかったり……」

「やはりタイヤに対して必要な荷重というのがあるので、どの程度減らすと、ドライバーが乗りにくくならずに、かついままでに比べたら近づいて走ることができるか、といった面で、CFDとかのデータだけでは分からないことが、実際に走ってみることで得られました。1世代先だけなくて、もっと先の世代のクルマにも使っていけるような知見がどんどん溜まっていると思います」

■データとドライバーのフィーリングが一致
 ここまではウイングの角度調整によって試験が行われてきたが、10月の鈴鹿テストではいよいよ空力パッケージ自体を一新、“新たなルックス”をまとったテスト車両が走行を開始する。

 この新パッケージについては、「エンジニアの方が見たら、シビれるデータ」(永井氏)というCFD画像をもとにした説明がなされた。

「(接近戦を実現するためには)ウイングの角度だけでは限界があり、フロントウイングからアンダーフロアからリヤウイングから見直したのが、(側面視で比較した)下の絵です」と永井氏。

 データ上、「赤になればなるほどダウンフォースが抜ける、黒だとほとんど影響がない」ということで、実質的に新空力パッケージを指している下の絵では、「ここまで近づいても、ダウンフォースが抜けない。とくにクロスライン(S字など、左右に切り返していく状態)で良くなる」と永井氏は説明する。

「このパッケージで、次の鈴鹿を走ります。そのときに、いまと同じような追走をふたりにやってもらう。数字でいくと、半分くらいになるんですね、影響度が。ものすごいです(笑)。たぶん……見たことがないくらい、いいのではないでしょうか。期待しています。期待してください」

 ただし鈴鹿で投入される空力パッケージは、『来年以降の最終仕様ではない』のだという。

「今回良かったと思っているのは、すべてのサーキットでテストでき、サーキットごとの特性をしっかり把握したこと」と上野社長は総括する。

「ふたりのドライバーにしっかりと評価していただき、データと彼らのフィーリングが一致したことに手応えを感じていまして、エンターテインメント性の向上という面においては、意義のあるテストができたと思っています。10月の鈴鹿のテストでは、そういったプロトタイプを使って……まだこのあともいろいろと課題があると思いますので、しっかりと導入に向けたテストをしていきたいと思います」

 関係者によれば、2023シーズンに導入するとなればその確定期限は12月とのことで、JRPとしては今後10月の鈴鹿、11月のもてぎでのテストを経て、仕様を固めていくつもりのようだ。なお、テストが重ねられている燃料やタイヤについても、最終仕様は「検討中」(上野社長)であるとしている。

 一方、参戦するエントラント側は、この新型空力パッケージ導入について、必ずしも諸手を挙げて賛成、というわけではないのが現状のようだ。主にネックとなっているのは、1台あたりおよそ1500万円とされる導入費用にある。

■「1〜2年、様子を見て決めてもいいのでは?」
 あるチームの首脳は、「お金がかかること自体、いまはやる時期じゃない」と話す。

「コロナがなくて、徐々にお客さんが増えていれば違ったかもしれないけど、いまはコロナでバンって(動員・収入が)下がって、それを戻そうとなんとか歯を食いしばってやっているところ。それが戻ってからそっち(改革)を目指そうとするなら分かるけど……。いまはスポンサーフィーも下がってきて、チームもやりくりがすごく大変な時期。何年とは決めなくても、たとえば1〜2年、世の中の状況をもっと見て、(導入を)決めたっていいのではないか」

「そもそも、エンジンのメンテナンス代とか、エントリーフィーがなくなる(減免される)、というのなら分かる。でもこちらに入ってくるもの(収入)がなくて、出るもの(支出)だけがハッキリしているというのは、どんな商売でもダメじゃない?」

 この費用面に関しては、別のチームオーナーも「やっぱりお金がかかるので、来年導入したいか? と言われたら“ない”ですね」と語る。

「1台でも1500万、2台体制なら3000万かかるわけです。カーボンニュートラルはやっていかなければいけない取り組みだし、そうやって時代に沿っていかないとスポンサーもついていかない、というのは分かります」

「でも、スーパーGTなら多少なりともバック(インセンティブ)があるけど、そういうのがいまのJRPにはなくて、我々はお金を使う一方。(新燃料では)燃料代も上がるだろうし、タイヤ代もおそらく上がる。ちょっとお金がかかりすぎていて、正直厳しい」

 また、費用面とは別に“オーバーテイクのあるレースを目指す”アプローチに関しても、エントラントからは異論が聞かれた。

「絶対、変わらないから。それはどのカテゴリーでもやってきていることだし、ダウンフォースを減らそうが増やそうが、タイヤの径や幅を変えようが、いままでさんざんやってきて、何も変わっていないでしょ。それをまた当たり前のように題材にしているのが、話がおかしいと思う」(前出のチーム首脳)

 この点については、JRPが現状胸を張る「これまでに見たことがないくらい」進化しているという言葉を信じるか否か、という部分でもある。

 また“エンターテインメント性の向上”という目標に対しては、「もっとお金をかけずにできることがある」と語る別のチーム関係者もいた。

 ドライバー経験のあるこの関係者は「いまはクルマにお金がかかりすぎている」と指摘する。

「サードダンパーとかもすごく高いし、ウイング1回壊して300万、大きなクラッシュだと1000万となると、チームとしてももたないし、それを聞いたらドライバーもなかなか攻められなくなってしまう。だったらダンパーもワンメイクにするなど車両のコストを下げ、そのぶん別のところにお金をかけた方がいい」

「あと、『抜きつ抜かれつ』はいいのですが、やっぱりレース距離を伸ばしてもらわないと、いまは給油もないので、作戦の幅がない。いまは10周目に入るか、引っ張るかのどちらかしかなくて、予選で埋もれたら上がってこれない。これだと見てる人もつまらないんじゃないかと思うんです」

「(レース距離は)300kmとは言わないけど、せめて250kmとかにして、1ストップか2ストップか、みたいな方が楽しくないですか? エンジンのパワーを抑えれば、その部分はコストを上げずにできると思う。だから、もうちょっとお金の使い方を考えた方がいい、と思います」

 次世代車両導入に向けては、もてぎ戦の週末にも話し合いが持たれたようだが、カーボンニュートラル化とエンターテインメント性の向上に主眼を置いているように見えるJRPと、費用の問題に頭を悩ますエントラントの議論は「平行線だった」と前出のチーム首脳は明かす。

 新型車両の導入は心躍るニュースだが、高騰するコストに耐えきれずに参戦台数が減るようなことがあれば、シリーズとしての魅力を毀損しかねない。今後、次世代車両の正式導入決定に向けては、コース上でのテストだけでなく、“コース外”での調整もカギを握ることとなりそうだ。

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定