【漫画】90年代、漫画家アシスタントが直面した“キラキラした修羅場”とは? デビュー25周年の漫画家が描き出す“原点”の輝き

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2023年03月25日 07:01  リアルサウンド

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漫画『90年代初アシスタント先が修羅場でキラキラしてた話』より

 初期衝動を維持したまま、ひとつのことを続けるのは簡単ではない。しかもそれが、多くの人にとって憧れの仕事だったとしたら、成功するためのハードルの高さと、現実と理想のギャップに押しつぶされ、当初のワクワク、キラキラとした気持ちを忘れてしまうことも少なくないだろう。


(参考:漫画『90年代初アシスタント先が修羅場でキラキラしてた話』を読む


 そんななか、「ブレイクしていないけど何故か業界で生き続けてる」と 語りつつ、今年で漫画家デビュー25周年を迎えたこきあいりんさん(@kokiairin)が、Twitter上でエッセイ漫画『90年代初アシスタント先が修羅場でキラキラしてた話』を公開。バブル時代の華やかさとともに、厳しくも眩しいアシスタント時代を振り返る作品で、多くの人に“初心”を思い起こさせる良作となっている。


 こきあいりんさんに本作を制作した経緯をはじめ、25年間にわたって漫画家という職業を続けてこられた理由、制作環境の変化など、じっくりと話を聞いた。(望月悠木)


■自分や編集者としっかり向き合う


――まず、今日まで漫画家として25年間も活動を続けられた要因を教えてください。


こきあいりん:私は昔から好き嫌いのはっきり分かれる作品を描いていました。多くの人に届けることはできませんでしたが、数少ない読者さんに長きに渡って見守ってもらったことが大きいと思います。また、そんな読者さんと、結果が出せてなくても諦めずに私の作家性を大事にしてくれた編集さんに守られてきました。途中からは「自分のため」というより、「自分を信じてくれてる読者や編集を裏切りたくない」と思って必死に描き続け、今に至ります。


――もし若手の漫画家さんに「長く続けるにはどうすれば良いですか?」と相談された場合、どのようなアドバイスを送りたいですか?


こきあいりん:とにかく目の前の作品に全力を注ぐこと。周りの声より大事なのは「自分はこの作品にベストを尽くせた」と自分自身に胸を張れるかということ。また、一つ一つを確実に描き上げることで、すぐには結果が出なくても後から思いがけない形で仕事に結びつくと思います。私自身、何度もそういう形で救われました。


――いかに自分自身と向き合えるかが大切なのですね。


こきあいりん:はい。ただ、一緒に仕事をする編集に対して誠実に向き合うことも重要です。編集も人間です。誠実に仕事をしていれば、困った時に手を差し伸べてくれることもあると思います。


■「現場の空気を体験してほしい」


――次に『90年代初アシスタント先が修羅場でキラキラしてた話』制作の経緯を教えてください。


こきあいりん:もともと、自分の漫画にまつわるエッセイを2021年から描き始め、その中で「過去にお世話になった先生、出会いなどに感謝を伝えたい」と思うようになりました。


――感謝を伝えるための作品だった?


こきあいりん:はい。先生の原稿に向かう覚悟は、同じ現場で同じ空気を吸ったことで肌からたくさん感じ、本当に多くのことを学ばせてもらいました。今は在宅でアシスタントの仕事をするケースが増えましたが、「本当に作家を目指す人にはぜひ生の現場を体験していただきたい」と思っています。


■昔は漫画家になるために上京が必須だった


――同人誌即売会で生計を立てたり、最近ではSNSをはじめとしたネットを活用して稼げるようになったりなど、漫画家として活動を続ける選択肢は以前よりも増えました。昔と比較して今現在の漫画家が置かれている環境について、どのように感じていますか?


こきあいりん:どこでも気軽に描け、ネットで発表することができるようになったのは間違いなく業界を豊かにしてくれました。かつては「本気で漫画家を目指すなら上京したほうがいい」と言われていたくらいですから。また、1番大きな変化は作家と読者が近くなったことではないでしょうか。そのため、単純に作品だけでなく、“作家の人間性”からもファンになる人も増えたと思います。


――2007年ごろに「コミックスの出ない作家とはお仕事できない」と言われたというツイートがありました。2007年時と比較して今現在の活動はしやすさはどうですか?


こきあいりん:当時はまだ雑誌が主流で、その雑誌がどんどん赤字になり、“それを埋めるためにコミックスを出す”という流れになっていきました。そうなると必然的にコミックスの出せる作家しか雑誌でも掲載してもらえません。全くの新人ならまだ良いのですが、私は「以前売れなかった」という黒履歴が残ってるので余計にハンデがありました。


 しかし、今は電子書籍が主流となり、作家のネームバリューよりも作品のネタで仕事がもらえるようになりました。そういう時代の流れがあったので私のような作家でも、また無名の作家でもネタが良ければ仕事につながります。そういう意味では活動しやすくなってると思います。


――“以前よりも漫画家として活動しやすくなった”とのことですが、面白い漫画を制作するスキルだけでなく、SNSなどを活用して自分自身を宣伝・プロデュースするスキルも求められるようになりました。多くの読者を獲得するために様々なスキルを求められるようになった現状については、どのように感じていますか?


こきあいりん:確かに今の作家はSNS活動が求められるようになりました。そのことに時間を取られたり、本業と違うストレスを抱えたりということもあると思います。なにより、多くの漫画家さんは「できれば漫画だけ描いていたい」というのが本音ではないかと思います。少なくとも私はそうです。


――やはり煩わしさもありますよね。


こきあいりん:私は本来は創作活動と広報活動は別であると考えており、創作と広報の頭は完全に離しています。同じ人がその両方をやることはなかなか難しいと思います。とはいえ、SNSで直接感想を伝えられたり、読者さんとの繋がりなど、とても貴重かつ励みになることも事実です。「無理のない範囲で作品を第一に考える」というバランス感覚が重要ではないでしょうか。


■デジタル化のメリット


――デジタルで漫画制作することが一般化しましたが、デジタル化のメリットはどこに感じていますか?


こきあいりん:私は長らく自分の絵が好きではなかったので、デジタルに移行する時に全て捨てる覚悟を持って、再スタートすることができました。そして、デジタル化によって自分の作品を客観視することができ、アナログでは持てなかった視点を持つことができたことは大きいです。「デジタル化しなかったら今も仕事を続けられていなかったかもしれない」と思うくらい、デジタル化は大きな転換点になりました。


――一方、「昔が懐かしい」と思うことはありますか?


こきあいりん:やはり熱量と覚悟はアナログには敵いません。描き上げたものが物量として、手元に残るあの存在感はデジタルにはないものです。それも含めて、「“後戻りできない本番一発”という気合いはなるべく忘れないようにしたい」と思っています。


――ちなみに『90年代初アシスタント先が修羅場でキラキラしてた話』の続編は予定していますか?


こきあいりん:現在自分の漫画人生にまつわるエッセイ漫画をTwitterにアップしています。実は本作は去年描いたもので、その時に続編も一つ描いておりました。今回も再アップして多くの反響をいただき、「このような業界話、修行話はみなさんの心に刺さるのだな」と改めて感じています。ですので、引き続き続編も描いていきたいです。


――今後の活動予定など教えてくだい。


こきあいりん:今年デビュー25周年は更にチャレンジングな年となります。女性誌「オフィスユー」(集英社クリエイティブ)での読切シリーズ連載、そしてKADOKAWAから初の縦スク連載「バブル・リング・ランデブー」が3月からスタートしました。この商業二本に加え、自主制作漫画誌の即売会「コミティア」への参加と、Twitter上でのエッセイ漫画の公開も続けていきたいと思ってます。


――最後に一言あれば!


こきあいりん:25年経っても、まだ自分の中から新しく出てくる作品を私自身が一番楽しみにしています。そしてここまで見守ってくださった皆様、本当に有難うございました。これからもどうぞよろしくお願いします。


(望月悠木)


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