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東京大学と北海道大学に所属する研究者らが発表した論文「Direct evidence for a carbon-carbon one-electron σ-bond」は、炭素原子間の新しい結合様式を発見した研究報告である。炭素と炭素が電子1つだけで結合できることを実験で実証した。この発見により、1世紀前に提唱された理論が実証された。
従来の理解では、原子間の共有結合は2つの原子が価電子を出し合い、電子対を形成することで成立すると考えられていた。これは有機化合物の骨格を構築する上で重要な概念であり、医薬品やタンパク質など、生命に関わる物質の構造を説明する基本原理でもあった。
しかし、研究チームは、炭素原子同士が電子1つだけで結合できることを実験的に証明した。この「一電子結合」と呼ばれる新しい結合様式の存在を、単結晶を用いたX線構造解析とラマン分光法という高度な分析技術を駆使して明らかにしたのである。
この発見は、化学結合の理解を根本から変える可能性を秘めている。「原子間で電子を共有できれば共有結合は形成可能」という新しい概念が提示されたことで、教科書の記述が書き換えられる可能性すらある。
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一電子結合は、結合エネルギーが小さく極めて弱いため、それを持つ化合物は非常に不安定で、すぐに分解してしまうと予想されている。しかし、研究チームが開発した化合物は驚くべき安定性を示した。結晶状態では100℃以上の高温下でも、また溶液中では大気下でも扱えるほど安定であることが判明した。
さらに、この一電子結合が単独で近赤外光を吸収できることも明らかになった。これは、近赤外光を活用する有機材料の分子骨格を大幅に小型化できる可能性を示唆しており、新たな材料開発への応用が期待される。
研究チームは、この発見が約100年に及ぶ化学者の挑戦に終止符を打つものであり、化学結合の理解を深化させる重要な一歩であると位置付けている。
Source: Shimajiri, T., Kawaguchi, S., Suzuki, T. et al. Direct evidence for a carbon-carbon one-electron σ-bond. Nature(2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07965-1
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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