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ネットの力を見誤ったということなのか――。
ヤマダデンキが提供する銀行サービス「ヤマダNEOBANK」で予定されていた「ヤマダ積立預金 満期特典」が突如中止となった。このサービスは、積立預金を満期まで継続すると、総積立額の10%(通常還元5%+キャンペーン特典5%)をポイントで還元するという画期的な内容だった。
元本保証付きの銀行預金で10%の還元が最短12カ月で得られるという条件は、SNSで瞬く間に拡散。「実質年利18.5%」という破格の投資商品として注目を集めた。
1口月額5万円の積立に対し、申し込みが殺到。一部の投資家は10口、20口という大量申し込みを行い、定期預金を解約したり、借り入れをしてまで参加しようとする動きも見られた。
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事態を重く見た運営元の住信SBIネット銀行は12月2日に新規申し込みを停止。同日、ヤマダデンキも「想定をはるかに上回る申し込み」「一部顧客からの大量申し込み」を理由に、特典の中止を発表した。
なお、ヤマダ積立預金がネット上で話題になったのは11月28日ごろで、翌29日にはサイトが閉鎖されていた。当時公開していたサイト上ではキャンペーンの対象期間を12月2日からとしていたことから、正式発表前に情報が拡散されていた可能性もある。
では、ヤマダデンキはこの積立預金で何を目指していたのだろうか。
●背景にあった高島屋の成功例
そのヒントは、当初のヤマダ積立預金の説明ページの中にある。ヤマダデンキはヤマダ積立預金の目的として「家具家電の購入やリフォーム資金などに向けた」資金をためられると説明していた。
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毎月5000円から5万円を積み立てると、1年後には6万円から60万円になる。それを使ってヤマダデンキでテレビや洗濯機を買ったり、リフォームに申し込んだりするための積立制度――。さらっと説明ページを読むと、そのように読み取れるものになっていた。顧客の計画的な買い物を支援するため、10%の還元を設定したのは販促活動としては理にかなっていた。
実は、サービスを運営する住信SBIネット銀行には、ほぼ同様の仕組みでの成功例があった。ヤマダデンキと同じく小売業を営む高島屋だ。高島屋も住信SBIネット銀行の銀行基盤を使い「高島屋NEOBANK」という銀行サービスを提供中。そこで好評を博しているのが積立サービス「スゴ積み」だ。
これは毎月の積立額を設定すると高島屋NEOBANK口座から自動的に引き落とされ、1年間積立を継続すると1カ月分のボーナスが付与される仕組み。月々5000円から10万円までのコースが用意されており、10万円コースなら1年で120万円がたまり、さらに10万円分のボーナスが付与される。
実質還元率でいうと15%にも相当するサービスであり、2022年6月のサービス開始から1年で2万7000人が利用するに至った。平均積立額は月間1万6000円、全体の8%が10万円の積立を行うなど高額な積み立ても目立つ。
このスゴ積み、仕組みを見るとヤマダ積立預金にそっくりではないか。高島屋NEOBANKでの成功を見て、ヤマダデンキでも似た施策を展開しようとしたというのは想像に難くない。
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●友の会と積立預金の違い
しかし、この2つのサービスは根本部分に大きな違いがある。積立額の使い道だ。スゴ積みの最大の特徴は、積み立てたものは高島屋での買い物にしか使えないことだ。
実は、スゴ積みは、もともと高島屋が提供していた百貨店「友の会」のサービスをデジタル化したものだ。友の会は、毎月現金を持って店頭に来てもらい積み立ててもらうという来店施策として当初は始まった。これは積み立てとはいうものの、中身は毎月商品券を購入しているのと同じとなる。
格安販売店ではない百貨店は、優良顧客に対してはもともとけっこうな割引を提供している。例えばクレジットカード「タカシマヤカードゴールド」での買い物には8%のポイントを還元しているし、株主に対しては10%割引になる優待カードを提供している。そうした中では、わざわざ高島屋のために積み立てをしてくれる顧客に対してなら、15%のインセンティブを与えるのも販促施策のうちだ。
ところがヤマダ積立預金は、積立部分は通常の銀行預金だ。説明文では「家具家電の購入やリフォーム資金などに向けた」とうたっているが、実際には使途に制限はない。
法的な位置付けも異なる。スゴ積みは割賦販売法の前払式特定取引に該当し、積立額の半分しか保全されない。運営事業者の経営破綻時には全額返還されない可能性もある。対して、ヤマダ積立預金は預金保険制度により1000万円まで保証される銀行預金だ。
つまり、スゴ積みは商品券の分割購入だが、ヤマダ積立預金は高還元率のポイントが付く銀行預金。この違いが「元本保証付きの超高利回り商品」としてネットで拡散される要因となったのだ。
●ヤマダデンキが失った信頼
販促活動のつもりが投資商品として受け取られた今回の騒動は、まさにヤマダデンキ自身が認めた「事前の想定・準備における見通しの甘さ」を露呈した形となった。
申し込み済みユーザーへのヤマダポイント3000ポイント付与という対応は行われるものの、この混乱がヤマダデンキの信頼を大きく損なったことは否めない。
特に深刻なのは、このサービスのために急いでヤマダNEOBANK口座を開設した多くのユーザーの存在だ。銀行口座開設は本人確認など手続きが煩雑だが、せっかく開設しても積立預金の申し込みは停止され、結局サービスも中止。口座開設だけで終わったユーザーには補償のポイントも付与されない。
近年、金融機関による魅力的なキャンペーンで口座開設を促し、実際の応募時には「早期終了」と告げるケースが散見される。「キャンペーンであり金融サービスではない」「早期終了の可能性は明記済み」という論理で安易に中止する姿勢には疑問が残る。
今回の対応でヤマダデンキが失った顧客からの信頼は小さくない。少なくとも、ヤマダNEOBANK口座開設者に対して、納得性のある代替サービスを提供することが望まれるだろう。
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