鈴木愛理2026年1月23日に全国公開が決定している映画『ただいまって言える場所』で、初の単独主演を務めることになった鈴木愛理。元ハロー!プロジェクトのアイドルグループ・℃-uteのメンバーとして活動後、ソロアーティストとして歌手活動を続けながら、ドラマや舞台でも活躍している。
本作では「不登校になった経験を持つ教師」として、自分が受け持つクラスの不登校児・千花に向き合う姿を熱演。社会問題を扱う作品で単独主演を務めるにあたり、いったいどのように役作りに臨んだのか、その姿に迫るべく彼女に聞いた。また、FRUITS ZIPPERの櫻井優衣など、いまだに多くの後輩アイドルから「アイドルが憧れるアイドル」として名前が挙がる彼女だが、ソロ活動を始めてからの仕事の向き合い方や32歳を迎えるにあたって生じた変化、そして今年の目標など、彼女自身のことについても大いに語ってもらった。
◆ひさしぶりの映画出演に感じた「ありがたさ」
――今回、映画単独初主演ということですが、初めて映画のお話を聞いたときの率直な気持ちを教えてください。
鈴木:主演かどうかに関係なく、映画自体がソロになってから初めてのことで、すごく久しぶりの現場でした。アイドル時代にはホラー映画にメンバーと出演することはあったんですけど、映画を撮るということ自体が新鮮に感じました。作品の内容としても、キラキラした作品じゃないというか、現代の人間模様を描いた作品なんです。挑戦したいと思っていた分野だったので、ありがたいなという気持ちでした。
――実際に撮り終えてみて、いかがでしたか。
鈴木:撮影期間が1週間くらいだったこともあり、体感としては一瞬だったんですよ。監督もたくさんテイクを重ねる監督ではなかったので、「ちゃんとできているかな」という不安もありつつ、「OK!」と言ってくださっている監督のことを信じてクランクアップしました。試写を見るまでは「どんな感じに仕上がっているんだろう」というドキドキと不安の気持ちのほうが大きかったです。
――難しい役だったと思いますが、演技で一番苦労された部分はどういうところでしたか。
鈴木:不登校という社会問題が描かれている映画です。経験したことのある方もいると思うので、その問題自体が「特別なこと」じゃないというのをいかに表現できるかを意識していました。また、「平成の家族」と「令和の家族」の不登校についての違いがすごくわかりやすく描かれていると思うんです。私も平成生まれの身として、そういう経験を抱えながらも前に進んでいる人をどう表現しようかなとすごく考えました。中学校教師って私は特別だと思うんです。高校教師でもなく、小学校教師でもない。ちょっと生徒が大人になりはじめて思春期にも突入して、でも義務教育にまだ挟まれるという、そんな中学校特有の先生のことはすごく調べてから臨みました。
――イメージしたロールモデルはあったのでしょうか。
鈴木:中学校教師の方の生活に密着している番組があったので、そこから調べたりしていました。ロールモデルというより自分なりに台本を解釈して、ちゃんと自分がイメージした「中学校教師」としていられるようにしましたね。私は、表舞台に立っている人生のほうが長いので、そういった面での「鈴木愛理」を削ぎ落として現場に入れるようにしたいと思って臨みました。
◆幼少期、唯一お父さんに怒られた言葉
――鈴木さんはご自身を「平成」だと表現されましたが、令和において特徴的な存在として描かれている、理由なき不登校の中学生・千花に対し具体的にすぐイメージすることはできたのでしょうか。
鈴木:いや、できませんでした。でも私自身の役は先生側であって、逆に生徒に関してあまり理解しすぎないほうがいいかなと思ったんです。千花ちゃんの気持ちを解釈しすぎることはあまりせずに、あえてリアルな感じで現場に入りました。でも、この映画を通して自分的にいちばん感じたのは、先生も「誰かの子」なんだなって。すごく当たり前なんですけど、みんな忘れてるんじゃないかなっていうことを、ニュースとかを見るたびにめちゃくちゃ思うようになりました。親には親なりの意見があって、子どもには子どもなりの意見があって。そしてあいだに挟まれてる先生も誰かの子であって、先生にも「ただいま」と言って帰る居場所があるというのを忘れてはいけないんじゃないかなって思います。
――今回の映画では「親子」もキーワードの1つだと思います。たとえば鈴木さんは、幼少期に親と喧嘩をするようなことはあったんですか。
鈴木:ありました……。幼少期は私の仕事が忙しすぎちゃって、全然朝に起きれなくて、そんな私にお母さんが怒るっていうのがいちばん多かったように思います。これだけだとまだ軽いほうなんですが、私、本当に起きなさすぎてお風呂でも水になるまで延々と入りつづけちゃうことがあって、それでお母さんが悩んでしまい喧嘩することがありました。私、お父さんに一度だけ怒られたことがあるんです。あらゆる手段を尽くしても私が起きないから、怒られるときにお母さんが泣いちゃったことがあって、「お母さんを泣かせるな!」ってお父さんに言われました。それが、唯一お父さんに怒られた言葉で、「あ、やばい!」って思いましたね。
◆基本的にはオンラインというものを信じてないんです(笑)
――映画では、えりこと千花がSNSを通して心を通わせるシーンが印象的ですが、一方でSNSは、使い方によっては危険を伴い、決して簡単なものではありません。鈴木さん自身は、SNSで出会ったいい経験、もしくは失敗談はありますか。
鈴木:私、SNSに疎い世代なんですよ。31歳ですし、あんまりSNSで人と繋がってきた人生じゃないので、基本的にはオンラインというものを信じてないんです(笑)。でも、会えないファンの方が国を超えてメッセージをくださったり、コロナ禍で会えない状況でもメッセージが送れる環境があるという面では、SNSに感謝したことはあります。けどやっぱり、それこそ令和の不登校の子たちが、なぜ理由はないのに家にこもってしまうのかという原因の1つにSNSもあると思うので、良くも悪くも、救われもするし、立ち直れない理由にもなると思うので、難しいですね……。デジタルデトックスが必要だなと思います。
――映画では「心のオアシス」としてBL漫画が描かれていました。主人公のセリフでもBL漫画の感想をオタク特有の早口言葉で語る場面がありましたけれど、BLの世界についての知識は元々おありだったんですか。
鈴木:それが全然なくて……。でも撮影セットとしてえりこの部屋にあるBL漫画は全部本物だったので、空き時間に役作りとして本を開いて読んでみました。けっこう刺激的なものから、ただただ美しいだけのものもあって、ハマる人の気持ちもめちゃくちゃわかるなって思いながら読みました!
――そうなんですね! その「ハマる気持ちがわかる」というのは、言える範囲で構いませんが、具体的にどういった部分だったのでしょうか。
鈴木:作品内に敵がいないんですよね。いや、あくまで私の見解ですよ。どっちも男性なので、どっちに感情を入れても、同性がいないから敵にならないじゃないですか! そして美しい。大体BLに出てくる男性って美青年同士のものが多いので、1つのファンタジーとしても見られるけれど、でも、リアルで美しくて。「普段こうなのに、2人のときはこう」っていうギャップも見えてきて、それもすごく重要なラインで……、あれ、私なんでBLのことこんなに話してるんだろう(笑)。そう、そのギャップが見えることも重要で、日常生活では見られないからこそときめく、というのはものすごく感じて、かなり特化した世界なんだと思います。あれを日常に求めるのは難しいというか。だからBLの実写化も増えてますけど、それにハマる方々の気持ちもすごくわかるな。「そこからしか得られないもの」がありますよね。
◆いつ自分を振り返っても発言に嘘がないように
――ものすごく詳しい解説をありがとうございます(笑)。「敵がいない」……新しい視点でした。少し話題を変えまして、鈴木さん自身についてもいくつか質問をさせてください。鈴木さんはハロプロさんに限らず、最近ではFRUITS ZIPPERの櫻井優衣さんなど、多くの方から「アイドルが憧れるアイドル」として名前が挙がる存在です。ご自身の魅力をキープするために意識していることや、やっていることはありますか。
鈴木:特にないんです。ただ、発言に嘘がないように、というのはずっと思っています。芸能界にいるときれいな発言をしようとしたり、誇張して言ってみたり、あとは求められたことに応えよう、となりがちですけど、1回それをやってしまうと、それをずっと貫かなきゃいけないのかなって感じます。それを貫くのがお仕事の人もいるので、私は、そういう人を逆にすごい尊敬する気持ちもあります。でも、私自身は自分の発言に嘘をつくのがやっぱり無理だし苦手なので、嘘をつかないよう心がけています。いつ自分の発言を振り返っても、その言葉に胸を張れるような生き方をしていきたいなと、特に最近は思いますね。
――それは、アイドルという経験があったからこそ最近、そのように思い至るようになったのでしょうか。たとえば、アイドルという仕事においては、アイドルとしての自分を演じる部分もあるかと思いますが。
鈴木:いや、そういうことはありませんでした。「鈴木愛理」という人間自体がたぶんアイドルという職業に向いていたので、アイドルでいる自分に無理はないんです! 天職だなって、グループ時代のある時期から思うようになりました。でも、なんて言ったらいいんだろう。「発言に責任を持とう」って思ったのはソロになってからなんです。ソロになるとひとりの人間として世の中に出て、全部が自分の意思だと思われますから、そこに対してやっぱり責任を持ちたいし、大事に発言していかないといけないなと思うようになりました。応援してくれる方に嘘をつかないでいきたいなと、より強く思っています。
――それだけご自身に強い責任感があると、プレッシャーも相当大きいのではと想像してしまいますが、いかがですか。
鈴木:でも、いつ街中で話しかけられてもこのままなので、すごく「ラクっちゃラク」だと思います。ありがたいことに、マネージャーさんの前でも、本当にリラックスしていられるので、すごくありがたい環境で仕事できてるなと思いますね。
◆逃げ出したくなる瞬間は思いっきり立ち止まる
――ふつうの人は仕事をしていると、つらい気持ちになったり逃げ出したくなる瞬間があったりしますが、鈴木さんはあったりしないのでしょうか。
鈴木:ありますよ〜! 世間の皆さんが思っているような自分じゃないのに、って思うことは、それでもあるんですよ。自分のやっている感じと現在地のギャップに戸惑ったり、悩んだりすることは常にあるんですけど、でもそういうときは思いっきり悩んで立ち止まって実家に帰るとか、思いきって寝るという方法をとるようにしています。あとは、いつかの歌詞の材料になるようにメモをいっぱい取ったり!
――先日、テレビ番組で各グループのアイドルの方がBuono!の代表曲『初恋サイダー』をカバーして話題になりました(注:11月13日放送の音楽番組「ベストヒット歌謡祭2025」にて井上和(乃木坂46)、櫻井優衣(FRUITS ZIPPER)、佐々木舞香(=LOVE)、TSUZUMI(海老原鼓/ME:I)、吉川ひより(超ときめき♡宣伝部)の5人で披露し、話題になった)。ご本人としてはどう感じていらっしゃいますか。
鈴木:いろいろな気持ちがあります。令和になってもあの時代の曲を歌ってくれるのはうれしく思いますし、シンプルに私達が活動していた時代よりも、今のアイドルさんたちのスキルってめちゃくちゃ高いので、どう考えても素晴らしいだろうとのいうのはメンバーを見たときに思いました。むしろ「こんな贅沢なメンバーでやってくれるんですか!? 勝ちじゃん!」っていうのが、私の素直な意見だったので、誰が歌い出しになっても絶対に最高だとわかっているなかで、イコラブの(佐々木)舞香ちゃんが務めてくれてくれたのも最高で、めっちゃ良かったですし、(櫻井)優衣ちゃんは事前に「歌わせてもらいます!」って律儀に連絡をくれていて、すごくリスペクトを感じるパフォーマンスにありがたいなって思いました。いろんなパートを全員分、聞きたかったです!
◆「私じゃない誰か」に気持ちやノウハウを注ぎたい
――最後にいくつか今後の活動についてお聞きしたいと思います。4月に32歳を迎えますが、ライフスタイルや考え方の変化はあるのでしょうか。
鈴木:ありましたね。じつは31歳になったタイミングで、初めて自分の人生設計プランを立ててみようと思ったんです。今までは、目の前に来た仕事に対して、どのタイミングでも万全の状態で挑めるように体調管理する、ということだけで生きてきたんですけど、31歳になったときに突然、3年後、5年後を想像して、そこから逆算して生きてみたいなと思って。初めて「今より先」を考えるようになりました。なので、大人になったのかなって思います(笑)
――そんななかで、いまいちばん興味があることといえば、何になるのでしょうか。
鈴木:えぇー、そうだなあ。直近で、ということでしたら、まだまだ自分の活動に集中してやりたいなと思っています。ただ、この世界に入って23年になるんですけど、いろいろな葛藤だったり世間に対して感じることだったり、アイドル活動してきたうえで叶えられたこと、叶えられなかったこと、いろいろなことがあるなかで、そういういろんな気持ちやノウハウを「私じゃない誰か」に注ぎたいっていうのは興味があります。
――それは育成、ということですか。
鈴木:育成かどうかはわからないですけど、誰かにこのパワーを使いたいっていうことには興味があります。
◆「常に今日の自分がいちばん良かったなと思えるように」
――2026年は映画の公開から始まる1年になりますが、どんな1年にしたいですか。
鈴木:私、28歳から32歳が大人の女性の黄金期だと思っていたんですよ。17歳から19歳くらいが、どう努力しても頑張っても意識しては出せない「少女から大人になる時期」の何年間かで、28歳から32歳は、それまで生きてきた自分の人生が良くも悪くも出ちゃう時期。それが終わる最後の1年なんだと思ってドキドキしています(笑)。でも、30代になってみて、意外と30代もまだまだ若いなっていうのがわかったところなので、チャレンジを止めずに32歳で黄金期が終わらないよう、さらに今後の自分のために自分らしく、一歩一歩踏みしめて、生きていけたらいいなって思います。
――「黄金期」の延長ということですね。
鈴木:いつが黄金かはわかりませんが(笑)、常に今日の自分がいちばん良かったなと思えるように生きていけたらなと思います!
オーディションに合格し、ハロー!プロジェクトに8歳で所属した鈴木愛理。中学校教師役に挑むにあたり、表舞台に立つ「鈴木愛理」を削ぎ落として役作りをしたという言葉に、彼女の覚悟が感じられた。
自身の活動としては、「嘘をつかない」ことで応援してくれる人への責任をまっとうしたいと語る彼女だが、そのまっすぐな姿はどこか映画の主人公・えりこにも重なって見える。取材中、何度も見せてくれた笑顔は、そんな裏表のない彼女にしかできない天真爛漫な笑顔だった。だから彼女の笑顔は、いまも誰かが目指したくなる「居場所」としてありつづけるし、いまも多くの人を惹きつけてやまないのかもしれない。
【鈴木愛理】
1994年生まれ、千葉県出身。2002年、約3万人の応募の中から「ハロー!プロジェクト・キッズ オーディション」に合格。2005年に℃-uteとしてメジャーデビューし、2007年にはBuono!としても活動を開始。2017年の℃-ute解散後、2018年にソロデビュー。現在は俳優やMC業、ミュージカルSIX日本キャスト版にも出演するなど、多岐に渡り活動している
<取材・文/綿谷 翔 撮影/星 亘(扶桑社)>
【綿谷 翔】
東京大学卒業後、出版社にて多数のベストセラーを担当し独立。書籍編集、著者プロデュース業のほか、アイドルを中心としたエンタメ記事などを担当。認定専門公認心理師としても活動し、とくに離婚、DV、虐待、モラハラなどに関連した家族・夫婦のカウンセリングや犯罪被害者の支援を行う。X:@mellowamber