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「オバケ調査で、事故物件の価値を戻す」。奇抜に聞こえるこの取り組みだが、不動産業界が長年抱えてきた課題に対する一つの答えだ。
【画像】「オバケ調査」で事故物件の価値を回復 7000室の現場経験から生まれた”家賃値下げに頼らない”再生モデル
「入居者が事故物件に対して感じる気持ち悪さは、心理的瑕疵(かし)に他ならない」――そう話すのは、カチモード(東京都新宿区)代表の児玉和俊氏だ。
児玉氏は不動産会社での15年の経験を基に、2022年に同社を起業。そこから「オバケ調査」というサービスを通じて、人々が事故物件に感じる不気味さの正体を解き明かし、物件価値の回復に取り組んできた。事故物件とは、過去に室内で他殺、自殺、火災などの事件・事故が発生し、前の居住者が亡くなった物件を指す。
事故物件の場合、入居者確保のために家賃を2〜3割引き下げるケースが一般的で、空室期間が最大3年近くに及ぶことも珍しくないという。「家賃を下げても入居者が確保できない」という状況で、どのように不動産の価値を回復させているのか。
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●オバケ調査とは?
オバケ調査は、事故物件を所有するオーナーや管理会社からの依頼を受けて始まる。まずは彼らから状況を聞き取り、該当物件の室内や周辺環境を調査する。
具体的には、事故の状況や特殊清掃の内容、室内の状態を確認し、賃貸物件として貸し出し可能かどうかを見極める。併せて、郵便受けやゴミ置き場といった共用部分に加え、周辺環境にも問題がないかを確認する。
例えば、雑音を発生させる可能性がある送電線の有無や、周辺機器に異常な音や乱れを生じさせる可能性があるアマチュア無線の使用状況、不審者の有無などを調査対象としている。事故物件の場合、室内以外の要因で入居者がマイナスの印象を抱くこともあるため、物件全体の状態を把握する。
その後、児玉氏が当該物件に午後10時から午前6時まで1人で滞在する。ヒアリングで不思議な現象の報告があった場合は、一晩かけて原因を探る。調査では、ビデオカメラによる映像記録やICレコーダーによる音声記録に加え、電磁波やサーモグラフィー、風力、温度・湿度、大気圧、騒音の8項目で測定する。
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この調査スタイルは、あるテレビ番組で見た英国の城の調査から着想を得た。「番組では、英国でオバケが出ると有名な城を調査する会社が紹介されていました。その会社のやり方を参考にしながら、大学の物理学の教授に手法を相談して、調査方法を確立していきました」と児玉氏は説明する。
機材の組み合わせで、人間の感覚では捉えられないものが見つかることもあるという。
「現場では鳴っていない音をカメラ(のマイク)が拾っていたり、現場で聞こえていたはずの音がレコーダーに記録されていなかったりすることがありました。そのため、デジタル機材だけでなく、カセットテープといった音をそのまま記録できるアナログ機材も組み合わせながら調査を進めています」(児玉氏)
当該物件に8時間滞在し、収集した音声や映像などのデータを社内で改めて確認し、異常が発生していないかを調べる。異常とされる音や映像についても、その多くは不動産の知見に基づいて説明できるという。例えば、建物内の木材や金属が温度や湿度の変化によって膨張・収縮することで「ギシギシ」「パキッ」と音が鳴る「家鳴り」であるケースも少なくない。
こうした検証を踏まえ、異常が確認されなければ「異常なし」の証明書と調査報告書を発行する。一方、説明できない異常が確認された場合にはその旨をオーナーに報告し、今後の対応を協議するという流れだ。
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なぜ、オバケ調査というビジネスを始めようと思ったのか。その背景には、児玉氏が不動産会社で働いていた時に感じたモヤモヤがあった。
●オバケ調査、どのようにして生まれた?
2007年、27歳で不動産業界に足を踏み入れた児玉氏は、営業としてキャリアを積んでいった。契約や入居者対応、建物のメンテナンス、資産運用・相続、売買といった不動産運営における基本業務だけでなく、全国の不動産会社の業務効率化や新人教育を支援するコンサルタント職など幅広く経験。42歳でカチモードを創業するまでの15年間で、経験と知見を蓄積していった。
不動産業務の中で、心に引っかかる仕事があった。それが、事故物件を抱えることになってしまったオーナーへの対応だ。事故物件となった賃貸物件は発生から3年間、売買は原則無期限で告知義務が生じる。マイナスイメージの払しょくは難しく、先述したように家賃を下げたとしても、簡単に部屋は埋まらない。
事故物件を所有するオーナーは、部屋の清掃やリフォームが終わると、口をそろえてこう言う。
「こんなに綺麗にしたんだから、家賃を落とさなくていいよね」
今後の運用についてのこういった相談に、当時は先輩社員から教えられた「それは先の話で、今を乗り切りましょう」というセリフをそのまま伝えていた。その場をしのぐ術は身に付けたものの、最終的には家賃を下げる対応が一般的で、抜本的な解決につながる提案はできず、モヤモヤを感じていたという。
会社員時代の最後の2年間は、物件を管理する部門の責任者として「事故物件の対応」を経験した。その際、物件オーナーからの先述の問いに、「今の状況を乗り切りましょう」と精神論で答え続けることへの限界を感じたという。
そこで、児玉氏が思いついたのが「調査」というアプローチだ。入居者が不安を感じる原因を突き止め、安心材料を示すことで不動産価値を回復させる。
「”気持ち悪さ”は心理的瑕疵が大きい。それを解消できれば、事故物件となってしまった不動産の価値を再生できるのではないか」――その思いが、カチモード誕生につながった。
カチモードの事業は大きく分類すると、不動産コンサル業に当たるが、メインは「オバケ調査」とした。個人として宅地建物取引士の資格を持ちながらも、法人としての宅地建物取引業免許はあえて取得しなかったという。この免許があれば、不動産の売買ビジネスを展開することも可能だが、オバケ調査で関係を築いた不動産オーナーが「物件の管理もカチモードに任せる」と言い出して、既存の管理会社から切り替えるといった事態が発生しないように対策した。
「売ったり買ったりしない立場を明確にすることで、オーナーさんや管理会社さんと団結したかったんです」と児玉氏は話す。
「オバケ調査」というサービス名にもこだわりがある。「幽霊調査」や「心霊調査」では、怪しさが先に立ち、依頼者の心理的ハードルが上がってしまうと考えたのだ。
また、配管や建物構造に起因する音など、不動産業界では「当たり前」の現象だとしても、入居者には"原因の分からない不気味な事象"として受け取られることも少なくない。それなら「不思議なことは全て『オバケ』としよう」という発想から、「オバケ調査」という名称が生まれた。
●オバケ調査完了後、どのように運用していく?
オバケ調査の手順については先述したが、では調査完了後に物件オーナーはどのようにその部屋を運用していくのか。
カチモードから物件オーナーに発行する「調査報告書」は、不動産取引における告知義務、つまり事故物件であることを正式に説明した記録としても機能する。この報告書を活用し、最大100万円の懸賞付きの部屋として、家賃を下げずに入居者を募集する運用をカチモードでは提案している。
不動産管理会社でのキャリアを持つ児玉氏が、物件そのものに不備がないことを確認しているため、オーナーは安心して物件を貸し出せる。入居者も、自身が告知後初めての宿泊者ではないという安心感に加え、懸賞金を獲得できるメリットがある。このように、事故物件という負の資産を「価値ある資産」へと転換していく。
この提案がオーナーに刺さる背景には、事故物件が抱える深刻な経済的損失がある。冒頭で紹介した通り、事故物件の場合、入居者確保のために全国的に家賃を2〜3割引き下げるケースが一般的だが、それでも最大3年近くにわたって空室になることも珍しくない。
「安易な値下げによって、数百万円単位で資産価値を失っているケースも少なくありません。物件の価値低下に比べて、オバケ調査の費用は決して高くないと感じてもらえる料金に設定しています」
調査価格は、1日稼働で8万円(税抜き)。東京都内の1K・1Rの平均賃料を基準にすることで、「1カ月分の空室損を受けたと思って調査を受けてみませんか?」という説明がオーナーや管理会社の理解を得やすいという。
なお、オバケ調査の中で、実際にオバケを発見した場合、カチモードがその物件を借り上げて継続的に調査を実施するケースもある。その調査結果を踏まえ、事故物件という希少性を生かした運用を設計し、オーナーに提案していく。
●オバケ調査の相談・実施件数は208件に
起業から約3年。オバケ調査の相談・実施件数は4月1日時点で208件に上る。事故物件の気持ち悪さを解消し、空室を埋めた実績を着実に積み上げてきた。
日本では単身高齢者世帯の増加に伴い、孤独死も増えていくと考えられる。2050年には団塊の世代が全て90代後半に達する「超・多死社会」を迎える。年間死亡者数は約160万人規模で推移するとの統計も存在する。そうなれば、孤独死も増えていくだろう。実際、警察庁は2024年の警察取扱死体のうち、独居で在宅死をした者の数を約7.6万人と公表している。
オバケ調査の対象となる物件も増えていく可能性があるわけだが、このビジネスの可能性を児玉氏はどのように見ているのか。
「一般的な管理会社や売買会社には、事故物件を調査するサービスはありません。これまで入居者が抱えてきた嫌悪感や抵抗感を、オバケ調査によって和らげられると考えています。懸賞付きの部屋として展開するだけでなく、事故後の特殊清掃や原状回復工事によって室内がどのように整えられたのかも丁寧に説明します。さらに、ご遺族の許可が得られた場合には、個人情報に配慮した上で、以前の入居者が抱いていた思いなどもお伝えします。こうした取り組みを通じて、事故物件となった不動産の価値回復を目指していきます」
カチモードの取り組みは、単身高齢化が進むこれからの日本において、新たな選択肢になり得るかもしれない。
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事故物件の「オバケ調査」とは(写真:ITmedia ビジネスオンライン)207

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