暴走ビジュアル漫画『ヤマトナデシコ七変化』が教えてくれた“ハッピーな生き方”とは?

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2021年05月11日 10:41  リアルサウンド

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『ヤマトナデシコ七変化』が教えてくれた事

 約15年に渡って講談社「別冊フレンド」で連載(2000年4月号〜2015年2月号)されていた『ヤマトナデシコ七変化』(はやかわともこ・著)。


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 姪を立派なレディにしてくれたら、家賃をゼロにする。大家からのそんな甘い言葉に誘われて、豪華な洋館に下宿することになった高野恭平、織田武長、遠山雪之丞、森井蘭丸の「美男子」高校生4人。自分たちには女の子をレディにすることぐらい余裕だと意気込んでいたが、相手は手ごわい。


 陰気で根暗、おまけにホラーが大好きな中原スナコ。4人がどんな甘い言葉で誘い出そうとしても頑なに暗くて不気味な部屋から出ようとしないし、力ずくでどうにかしようとしても、スナコのほうが強いので歯が立たない。何よりまぶしいもの、美しいものが苦手で、恭平たちを直視すると鼻血を噴いて気絶することもしばしば。しかし、本気(?)を出したときだけは超美少女モードになるという一風変わった主人公である。


 キャッチコピーは「暴走ビジュアル漫画」というだけあって、その世界観はギャグ漫画なのに耽美である。


■ビジュアル系バンド全盛期を彷彿とさせる?


 恭平を始めとした男子高校生がとにかくまぶしくて美しい。衣装もゴシックなものが多く、ギャグのように描かれているスナコのホラー好きという設定とも不思議にピタリとフィットする。


 作者であるはやかわともこ氏が“バンギャ”ということもあり、そういった作風になっているのかもしれないが、連載がスタートした2000年はJanne Da Arcやナイトメアなどのビジュアル系バンドが一世を風靡しているときである。当時のトレンドを取り入れているわけだが、令和になって改めて見てみると懐かしさと新しさを同時に感じる。


■かわいく変身して新しい人生を手に入れる、わけではないから面白い!


 恭平たちの登場によって、スナコが変わったかというとそういうわけではない。相変わらず暗いところとホラーが好きだし、彼らの手によって大変身を遂げたわけでもない。彼らの家賃のために、どうしてもというときは協力するが、スナコ自身に「美しくなりたい」という願望がないのだ。


 元は好きな男に「ブス」と言われたのがきっかけで暗く、顔を隠すようになったスナコだが、次第にそのきっかけさえも気にしている様子は見られなくなる。これは自身が本当に好きなホラーグッズやオカルトグッズに囲まれて満足に暮らしているからではないだろうか。


 男女問わず、変身願望というのはある。魔法や異世界転生で別の誰かになったり、変身ポーズで戦士になったり。メガネを外したり、メイクをすることで見た目が変わり、周りの反応が変わる物語も多くある。


■変身願望も、ありのままの自分も欲しい物に手を伸ばす


 ふた昔前ほどにCMで「絶対きれいになってやる」というコピーが流行したが、見た目だけかわっても仕方がない。ヤナトマナデシコの作中で恭平がスナコに向かって“中身がブス”だと指摘するシーンがある。確かにスナコはあまり褒められた性格ではない。なにせ諸々が嫌すぎてとりあえず恭平を殺そうと殺人計画を立てるほどだったのだから。


 しかし、恭平たちとの時間が長くなっていくことによって、スナコの中身もわずかに変化していき、互いに家族のような絆が生まれていく。見た目は変わらなくても、中身に変化があることで関係が変わる可能性だってあるのだ。


 関係に変化があったとはいえ、スナコが自分から「綺麗になろう」とか「メイクをしよう」と前向きになるかというとそういうわけではなく、変わらずホラーが好きだし、マイペースなスナコ。たしかに見た目が変われば気持ちも変わる。気持ちが変われば、見た目も少し変えようという気持ちになる。でも、見た目を変えたいという気にならなければ、それはそれでいい。好きなものを好きと言える、そんな環境にいるスナコはきっと何よりハッピーなのではないだろうか。


(文=ふくだりょうこ)


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