JR東日本「みどりの窓口削減凍結」に、改めて思うこと

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2024年05月11日 09:01  ITmedia ビジネスオンライン

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「みどりの窓口」削減をストップするというが……

 2024年5月7日、JRグループの旅客会社は大型連休(4月26日〜5月6日)の新幹線と特急の利用状況を発表した。NHKニュースがまとめたところ、前年同期に比べて102%の微増、新型コロナの感染拡大前の2018年と比べると95%の回復となった。


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 2020年は大幅な減便があって、それでも乗車率0%の列車があったとか、プラットホームに行列がないなどと報じられていた。それから4年、ようやく列車や駅ににぎわいが戻ったようだ。


 需要が回復した副作用として、大型連休前にみどりの窓口などJRのきっぷ売り場は大混雑となった。今年の「みどりの窓口」の大混雑の理由は、鉄道旅行需要がコロナ禍以前のレベルまで回復した一方で、みどりの窓口が激減しているからだ。JR東日本では2021年5月時点で440あったみどりの窓口が、現在は209になった。そりゃ混むわけだ。私が2023年11月の本連載で指摘したように、駅の窓口廃止を急ぎすぎた。


【関連記事】利用されない指定席券売機 やっぱり「駅の窓口廃止」は間違っている(2023年11月10日の本連載)


 みどりの窓口がなくても「指定席券売機」「多機能券売機」「話せる券売機」があるというけれど、利用者はまだインターネット予約や指定席券売機に慣れていない。各券売機のインターフェースも不親切だ。技術者の先走りで、利用者目線が足りない。


 JR東日本は大型連休直前の4月26日、「JR東日本グループカスタマーハラスメントに対する方針」を策定したと発表した。まるで窓口の混雑とクレームを見越して先手を打ったようなタイミングではないか。


 そんな論調で話を進めようとしたら、JR東日本は5月8日の定例社長会見で「みどりの窓口の削減方針を凍結する」と明らかにした。「お客さまにご迷惑をおかけした」と謝罪の言葉もあったという。NHKによると「3年前に440だったみどりの窓口を209まで減らしたけれども、これを維持する」という。もともと2025年までに70%、約140駅まで減らす方針だった。これだけ減らしてまだ減らすつもりだった。


 ひとまず凍結して良かった。しかし凍結だけでは今まで通り。大混雑を解消するなら、むしろ増やさなくてはいけない。すでに廃止したみどりの窓口のうち、今も設備が残る10数カ所を臨時窓口とするという。無線端末などを駆使して、臨時窓口を増やす工夫も必要だ。


 確かにオンライン予約とチケットレスはとても便利だ。ただし、まだ窓口の役割は終わっていない。私はどちらも経験して、改めて思うことがある。


●窓口に並ばない旅は快適ということ


<事例1>


 先日の大型連休前半に奈良を旅した。新横浜駅から京都駅まで東海道新幹線「のぞみ」に乗り、京都駅から近鉄奈良駅まで近鉄特急ビスタカーの2階席に乗った。帰路は近鉄の観光特急「あおによし」と東海道新幹線「のぞみ」を乗り継いだ。どの列車も空席が多かったから、完全な需要回復に至っていないように思う。


 東海道新幹線はオンライン予約システムの「スマートEX」を使い、モバイルSuicaにひも付けて改札口をタッチで通過した。近鉄特急の指定券は「近鉄アプリ」で予約購入し、乗車時はモバイルSuicaを使った。ちなみに宿泊は東横インで、こちらもアプリで予約、決済済み。フロントで会員証のバーコードをかざせばチェックイン/チェックアウトができる。便利な世の中になったと思う。


<事例2>


 事例1の少し前、3月14日に日帰りで秋田県の横手に行ってきた。山形新幹線「つばさ」で東京駅から新庄駅へ。奥羽本線の各駅停車に乗り継いで横手駅へ。駅の近くで「横手やきそば」を食べて、帰りは北上線に乗って北上駅へ。東北新幹線「はやぶさ」で東京に戻る。この旅は「キュン・パス(「・」は「ハート記号」、以下同)」を使った。


 「キュン・パス」は、JR東日本のオンライン予約サイト「えきねっと」限定のきっぷで、正式名称は「旅せよ平日!JR東日本たびキュン・早割パス」という。有効期間は1日で、新幹線を含むJR東日本全線、青い森鉄道線、いわて銀河鉄道線、三陸鉄道線、北越急行線、えちごトキめき鉄道線のうち直江津〜新井間と、JR東日本BRT(バス高速輸送システム)に乗り降り自由だ。また特急や新幹線の指定席を2回まで利用できる。


 私はえきねっとで「キュン・パス」と「つばさ」と「はやぶさ」を予約決済して、新橋駅の券売機で発券した。紙のきっぷだから自動改札のない駅でも下車できる。


 これらの鉄道の旅で窓口に並ぶ必要はない。スマートフォンで切符の予約も乗車もできる。本当に便利な世の中になった。ここまでにする技術開発は大変な苦労があったと思う。技術者、関係者の皆さんに感謝だ。


<事例3>


 感謝といえばもうひとつ。2024年4月1日から、JR東日本の「指定席券売機」で「クレジットカードで購入したきっぷの払い戻し」ができるようになった。従来は窓口か「話せる券売機」の対応だった。しかし「話せる券売機」は書見台にきっぷを並べてオペレーターに目視してもらうという謎の手順があった。私は、先ほどの2023年11月の本連載でこの手順を挙げ、「窓口と同じ所作ができないなら、指定席券売機は窓口の代わりにならない」と指摘した。


 きっと同じことを思っていた人も多かっただろうし、それをJR東日本の担当者も知って改良してくれたと思う。「これは仕様です」と放置せず、アップデートしていく。ITサービス本来のあり方だ。今後もこの勢いでユーザーインターフェースを改良してもらいたい。


●しかし、首をかしげる仕様はまだある


<事例4>


 2023年8月、出雲市駅から木次線で備後落合駅へ向かった。出雲市駅から備後落合駅までは券売機できっぷを買った。そこまでは良いとして、備後落合駅は無人駅だから帰りのきっぷを買えない。だから私は、あらかじめ出雲市駅の指定席券売機で「備後落合駅から木次駅まで」のきっぷを買おうとした。しかし買えない。みどりの窓口なら買えるはずだけど、観光拠点のはずの出雲市駅にはみどりの窓口がない。


 どうやらその指定席券売機は「その駅を発着する乗車券」しか買えない仕様らしい。キセル防止なのか転売防止なのか、何か理由があるのだろう。しかし現実に必要なきっぷを買えない状態だ。結局、私はどうしたのか。きっぷなしで備後落合駅から折り返した。車内で乗車整理券を取った。ワンマン運転の運転士さんの手を煩(わずら)わせるより、木次駅で精算しようと考えた。


 ところが、16時49分に木次駅に着いてみると、約1時間前の15時45分で窓口は終了。係員は不在だ。私は木次駅からタクシーで出雲空港へ向かうつもりだったから、ここで精算できないと無賃乗車になってしまう。困って、駅の隣にある雲南市観光案内所で相談したところ、「きっぷ販売機で木次駅から備後落合駅までのきっぷを買って、きっぷ回収箱に入れてはどうか」と提案された。きっぷと乗車が逆方向になってしまうけれども、帳尻が合うからいいのかなと思い、そうした。


 木次駅は2024年3月に「みどりの券売機プラス」を設置した。現在はオペレーターに相談できるようになっている。しかし対処が逆だ。窓口の営業時間縮小と同じタイミングで設置してほしかった。お客さまから代金をいただく窓口に空白期間をつくる。商売としてありえない。


<事例5>


 2024年2月、JR北海道の網走駅から「流氷物語号」で知床斜里駅へ向かった。指定席券は道内の友人が手配してくれた。このほかに乗車券が必要だ。交通系ICカードに対応していない区間だからきっぷを買う。クレジットカード対応の指定席券売機があった。最初の画面に「知床斜里」という項目がある。これは助かる。いきなり「指定席」「自由席」の選択にならない。使用頻度の高い目的地の駅を最前面に表示する。良いことだ。


 しかし「知床斜里」を選択して支払う手順になるとクレジットカードを受け付けない。物理的にフタをされて差し込めない。クレジットカード対応と明示しているのに買えない。焦って2度3度とやってみるけどダメだ。そこに友人がやって来て「クレジットカードで支払うときは、乗り換え検索で目的地を選ばないとダメなんです。私も先日知りました」という。乗り換え検索で知床斜里駅を指定すると、クレジットカードで決済できた。


 きっぷをクレジットカードで買うだけで、なぜ裏ワザのような手順が必要になるのか。「こんなに面倒なら、もう次からはクルマで行きましょうか」と言ったところ、失笑された。取材目的は列車だから、これはまさに笑えないジョークだ。しかし、用向きで知床斜里駅に向かう人々は本当にそう思うかもしれない。


 移動手段としてクルマは圧倒的に便利で、鉄道は基本的にクルマより面倒な手段だ。だからこそ、少しでも面倒を減らし、乗っていただく工夫が必要ではないか。


●窓口廃止は機会損失と公共交通の責任放棄である


 JR東日本が2024年4月30日に発表した「2024年3月期決算および経営戦略 説明資料」によると、自社新幹線のチケットレス利用率は75%に達し、きっぷのえきねっと取り扱い率も65%になったという。オンライン予約への移行は着々と進み、もう非効率な窓口はいらないと考えていそうだ。しかし、他の交通手段に逸走した窓口利用者がいたため、相対的にチケットレスやオンライン予約の比率が上がった結果かもしれない。


 私は窓口を減らすことには反対だ。もし減らしていくのであれば、指定席券売機では窓口と同じサービスレベルを維持すべきだと思う。まさか「窓口に並ぶ人々は機械に慣れない年寄りばかりだ。そのうちにいなくなる」と思っていないだろうか。クレジットカードを使えない人、使わない人、機械の操作が苦手な人はたくさんいる。ペットを同伴して電車に乗るときに必要な「手回り品きっぷ」も指定席券売機では買えない。


 JRは「指定席券売機を用意すれば、お客さまがすべて窓口から移行できる」と考えているだろうけれども、実態は「窓口しか使えないお客さまを切り捨てる」ことになる。これは商売のやり方だけではなく、公共交通のあり方としても問題だ。


 2023年8月に開業した宇都宮ライトレールは、最新設備を満載して開業したにもかかわらず、現金収受の運賃箱は残している。ダイヤを維持するためには、交通系ICカードのみの収受にしたかったはず。実際、沿線の小中学校に交通系ICカードを無償配布したほどだ。それでも運賃箱を残した理由は、公共交通機関として現金利用のお客さまを排除したくなかったからだ。市や県の出資を受けているから、市民県民を取りこぼしてはいけないという使命感もある。


 JRは民間企業だから、第三セクターや市営交通とは立場が異なる。それでも公共交通事業者という責任と矜持(きょうじ)を失ってはいけない。ローカル線の利用者数が減り、公共交通の役割を果たせていない。廃止したい――。企業としての気持ちは、よく分かる。ならば駅の窓口廃止も利用者数が減ってから検討すべきだ。


(杉山淳一)


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