“もはや安くない”鳥貴族。客離れを招いた“相次ぐ値上げ”は悪手だったのか

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2024年05月11日 09:31  日刊SPA!

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経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は旧鳥貴族HDから社名変更したばかりの株式会社エターナルホスピタリティグループについて紹介したいと思います。
同社は均一料金が売りの「鳥貴族」を軸に規模を拡大してきました。長年「税抜280円均一」を維持し、安い居酒屋の代表格として消費者に認知されています。しかし、2017年以降は値上げを余儀なくされ、コロナ禍もあって業績は急激に悪化しました。従来の鳥貴族業態は限界を迎えているようです。とはいえ、ファストフード業態の開発やM&A、海外展開など、再起を図るべく近年では新業態を模索しています。鳥貴族の歴史と近年の施策について探ってみました。

◆2010年代に大きく躍進。2017年に600店舗に

「鳥貴族」は1985年、東大阪に1号店をオープンしました。翌86年からは250円均一の全品均一価格制を導入し、安さを訴求して店舗展開を図ります。消費税3%が導入された89年に税抜280円均一とし、それ以降は長年の間、価格を維持し続けました。運営元のイターナルサービスは鳥貴族の他にも様々な居酒屋を展開していましたが、95年からは「鳥貴族」を単一業態として資源を集中させます。その後2005年に関東1号店をオープンし、2007年には100号店を達成しました。

2009年に社名を鳥貴族へと変更した後、2010年には200号店、その2年後には300号店を達成するなど、著しく規模を拡大しました。関東・関西・東海を中心に全国的に展開しています。280円という圧倒的な安さ、そして均一価格の分かりやすさが消費者に受けた形と言えます。2016年には東証一部への鞍替えと500号店の開店を果たし、17年に600号店を達成しました。

なお鳥貴族では原則としてFCオーナーの一般募集をせず、社員の独立や既存のFCオーナーによる出店を通じて店舗を展開しています。鳥貴族ではFCをTCC(鳥貴族カムレードチェーン)と呼び、カムレードには「同志」という意味があります。24年7月期第2四半期時点で鳥貴族業態の直営店は398店舗、TCCは237店舗です。

◆値上げの影響は大きかった?

ただ、人件費や原材料費の上昇もあり、2017年以降は値上げを余儀なくされました。最初の値上げは2017年10月に実施し、25年以上キープしてきた280円は298円(税抜)へと変更しています。値上げ前は税込302円ですが、値上げ後は消費税8%で税込322円、2019年以降の10%で税込323円です。特にこの値上げの影響は大きく、16年7月期および17年7月期における既存店売上高は前年比でそれぞれ107.6%、100.4%でしたが、18年7月期と19年7月期には96.3%と94.8%になり、客離れが進行していたことが分かります。やはり1品約300円という魅力は大きかったようです。

ちなみに物価高が加速している近年でも値上げが相次いでおり、22年4月からは税込350円均一、23年5月からは税込360円均一となりました。そして直近の今年5月からは税込370円均一となっています。ドリンクはお得ですが、焼鳥に関してはより安い居酒屋を多く見かけます。

◆立地戦略が裏目に出て苦しむことに

居酒屋業態という事もあり、コロナ禍で鳥貴族は多分に漏れず業績が大幅に悪化しました。特に駅前・繁華街を中心とする立地戦略も業績悪化に拍車をかけています。21年7月期から連結決算へと移行しているため単純比較できませんが、19年7月期から22年7月期までの業績は次の通りです。

【2019年7月期〜22年7月期】
売上高:358億円→275億円→156億円→203億円
営業利益:11.9億円→9.8億円→▲46.6億円→▲24.3億円
店舗数(鳥貴族):659店→629店→617店→620店

とはいえ主力3行からの65億円借り入れや政府から助成金もあり、資金繰り面ではコロナ禍を乗り越えることができました。

◆なぜ「やきとり大吉」を買収したのか

値上げによる客離れにコロナ禍での業績悪化ーー従来の鳥貴族業態は限界を迎えているのでしょう。近年では新業態を模索する動きがみられます。手始めとして2021年8月に、同社初のファストフード業態として「TORIKI BURGER(トリキバーガー)」をオープンしました。焼鳥バーガーや揚げたチキンを挟んだ「トリキバーガー」など、イメージ通り鶏系のバーガーを主体とする店舗です。現在では2店舗しかありませんが、欧米でのチキンバーガー人気もあり、将来的には海外展開も見据えているようです。

そして2023年1月には、サントリーHDの傘下として「やきとり大吉」を約500店舗展開するダイキチシステム株式会社を子会社化。赤いレトロな看板が目印のやきとり大吉は駅・繁華街から離れた場所に店を構えており、「戦わずして勝つ」を出店戦略としています。20席程度の小型店を主とし、全てFCで運営されています。メニューは統一されていますが、店舗限定のオリジナルメニューもあるようです。

鳥貴族によるやきとり大吉の買収には様々な憶測が報じられていますが、鳥貴族側の規模を拡大したい狙いと、ダイキチシステム側の高齢オーナーによる事業継承問題をクリアにしたい狙いが合致したと思われます。駅前・繁華街に展開する鳥貴族と離れた場所に出店するやきとり大吉は互いに競合しません。また、安定供給先を確保したいというサントリーの思惑も少なからず存在するのではないでしょうか。現在サントリーは鳥貴族とやきとり大吉の両者に酒類を提供し、鳥貴族の株を2%程度保有しています。なおこの買収により、23年3月期における鳥貴族HDの売上高は334億円、店舗数で1,134店舗の規模となりました。

◆「社名変更」は海外進出ありきだった

そして、最近は海外展開に向けた取り組みを進めています。昨年にはアメリカで現地子会社を設立しており、ロサンゼルスでの出店を目指すとしています。現地では日本食として焼鳥の認知度が高まっており、以前から出店する予定でしたが、コロナ禍で延期となりました。アジア圏への進出も狙っており、台湾では現地企業との合弁契約を、香港ではFC契約を結んでいます。今年5月1日に行ったばかりの「株式会社エターナルホスピタリティグループ」への社名変更も、海外で認識されやすい名称にする狙いがあるようです。

国内と同じ均一路線にするのか、それとも高級店路線にするのか、現段階で海外店の詳細は公表されていません。いずれにせよ外国人にとって認識されやすい名称にする必要があるでしょう。焼鳥より「Teriyaki Chicken」の方が伝わりやすいかもしれません。海外でも成功するのか、今後に注目です。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_

このニュースに関するつぶやき

  • 先月食べたけど相変らず安いな…としか思わなかった。嘘じゃないなら一応食材は全部国産なんじゃろ?美味しいし安いし好き。脂分の体質の関係であまり行けないけど…。
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