異例ずくめのドコモ社長交代 若返りだけでない、前田義晃新社長の手腕に期待すること

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2024年05月11日 16:41  ITmedia Mobile

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ドコモ新社長に、現・副社長でスマートライフカンパニー長を務める前田氏(右)が就任する。現・社長の井伊氏(左)は相談役に退く

 NTTドコモは5月10日、代表取締役副社長を務める前田義晃氏を社長に昇格させる人事を発表した。代表取締役社長の井伊基之氏は、相談役に退く。前田氏は、2000年にリクルートからドコモに移籍した転職組で、iモード時代から、コンテンツやサービスなどの開発や運営に携わってきた。2017年には執行役員プラットフォームビジネス推進部長に就任。2022年からは、代表取締役副社長として、スマートライフカンパニー長を務めている。


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 スマホ時代には、「dヒッツ」「dマガジン」といったコンテンツサービスを手掛けた他、「dポイント」や「d払い」などのポイント、決済サービスもけん引してきた。どちらかといえば、上位レイヤーのサービスを中心に活躍してきた人物で、ドコモの社長としては異例ともいえる抜てきだ。では、前田氏の社長就任は、ドコモにどのような影響を与えるのか。同氏の所信表明などから、今後の展開を予想した。


●異例ずくめの前田氏の社長就任、持株・島田氏は若返りに期待


 前田氏の社長就任は、ドコモにとって異例づくしだ。1つ目は転職組であること。歴代社長はNTT出身者が多く、前々社長の加藤薫氏や、前社長の吉澤和弘氏も、ドコモ設立時から同社に在籍していた実質的な生え抜きだった。とはいえ、加藤氏、吉澤氏ともに入社時はNTT。入社がドコモ発足後で、かつ他社からの転職組というのは同社にとって初めてのことになる。


 また、前田氏は現在54歳。井伊氏の社長就任時は61歳、吉澤氏が60歳、加藤氏が61歳だったことを踏まえると、大きく若返りを図っていることが分かる。歴代社長は、ネットワーク技術や端末開発、経営企画などに携わっていたことを見ても、コンテンツやサービスの経験が長い前田氏の経歴は異例といっていいだろう。


 NTTの代表取締役社長、島田明氏は、「中途採用だとかはあまり考えていない。井伊社長も同じ考えだった」としながら、次のように語る。


 「グループの中での中途採用も増えていて、今は4割近くが中途採用。これからも中途で採用された方がトップになったり、幹部になったりすることは十分想定される。そういう意味では、前田さんが社長になるのは象徴的な人事」


 経営陣の若返りを狙う意味合いもあったという。前田氏と同時に社長に就任するNTTコミュニケーションズの小島克重氏やNTTデータグループの佐々木裕氏はともに58歳。島田氏は「3人ともに50代の社長だが、新しい世代に次の戦略を構築していってもらいたいと考えている」と語る。ドコモの井伊氏も、「さらに成長するためには、経営陣の世代交代が必要」と話す。


 前田氏に期待しているのは、やはりスマートライフ事業の拡大だという。「ドコモの前田さんはスマートライフ事業をずっとけん引してきた。まさにこれから、スマートライフやグローバルなど、新たな事業運営の挑戦が続いていく。新しい事業をけん引してきた前田さんが、それをさらに飛躍させることを期待している」


 井伊氏は、自身が就任以降、ドコモの組織体制を大きく変え、NTTコミュニケーションズやNTTコムウェアを統合し、新ドコモグループを発足させた他、Web3を扱うNTTデジタルや、XRを事業化するNTTコノキューを設立。グローバル展開を図るためのNTTドコモ・グローバルも新設する予定だ。「経営基盤の再構築をリードしてきた」と自負する井伊氏だが、その「具体的な成果を結実させるステージは、前田さんに託したい」と話す。


●「コンシューマサービスカンパニー」を発足、就任時の目標はユーザーの不満解消


 前田氏の社長就任で、ドコモはスマートライフ領域と呼ぶ上位レイヤーのサービスを、より強化していく形になりそうだ。その組織形態として、ドコモは「コンシューマサービスカンパニー」を新設する。同カンパニーは、前田氏が率いてきたスマートライフカンパニーと営業本部を統合した組織で、決済サービスやコンテンツサービス、ヘルスケアサービスなどが、その下に置かれる。


 こうしたサービス、コンテンツを担当する部署だけでなく、オンラインCX部やリアルチャネル戦略部といった、販売やユーザー接点を構築する部署もコンシューマサービスカンパニーの下に入る。いわば“前田シフト”ともいえそうな体制で、コンシューマー向けのサービスだけでなく、コンシューマーとの接点も一体となって運営していく方針だ。


 では、前田氏はどのような方針でドコモの経営に臨んでいくのか。同氏は、就任時の会見で、「お客さま起点での事業運営を進めていきたい」と語った。ここで挙げられたのが、「通信品質でのご不満や、サービスの使い勝手などの不満など、1つ1つの声に誠実に向き合って解決していく」(同)ということ。また、「たくさんのパートナーの方とビジネスをしてきたので、それをリスペクトする」(同)という。


 真っ先に言及したのが、同氏が得意とするコンテンツやサービスではなく通信品質だったところに意外感があったが、目下、ドコモが解決すべき一番の課題はここにあるということだろう。前田氏はこれまでスマートライフ事業を率いてきたため、「脱・通信を加速させるための就任」と評されることもある一方で、その基盤となる通信サービスを軽視しているわけではない考えを強調したようにも見えた。


 筆者も記者会見やインタビューで前田氏から話を聞いたことがあるが、その率直な語り口は魅力的だ。スマートライフカンパニー長に就任した際には、コンテンツサービスがマンネリ化している点を認めつつ、「もっとアグレッシブにアップデートしていかなければいけない分野」と語っている。


 金融・決済サービスについても、「決済は頑張っているが、それ以外を十分取り組んできたかというと、全然そんなことはない」と話しており、その後のマネックス証券やオリックス・クレジットの買収につながっている。前田氏は社長就任にあたり、「当事者意識を持ってチャレンジする」ことを自身の強みに挙げていたが、現場感覚やユーザー視点で課題を認識できる力は、社長就任後の強みになりそうな気がした。


●ネットワークへの知見は未知数ながら、サービスの改善には期待も


 一方で、前田氏はサービスやコンテンツ分野の出身。ネットワークの開発や維持などに携わってきたわけではないため、通信品質改善にどこまで大ナタを振るえるかは未知数といえそうだ。ネットワークの構築には、周波数政策やエリア設計が複雑に絡み合ってくる。ドコモの歴代社長はこうした技術にも長けていたが、前田氏が同様のかじ取りをできるのかは注目したい点といえる。


 コンテンツやサービス、スタートアップとの協業などで成果を上げ、キャリアの社長になった人物というと、KDDIの代表取締役社長CEO、高橋誠氏を思い出すが、同氏も社長就任以降、ネットワークの強化に全力を注いでいる。社長就任時には通信が中核であることを改めて宣言し、Sub-6のエリア拡大やStarlinkとの提携など、さまざまな施策を打ち出してきた。


 とはいえ、高橋氏は技術系出身。「僕もどちらかというと上位レイヤーの人と見られているかもしれないが、もとは通信屋」(高橋氏)と語っている。高橋氏は、「グロース領域がこれからすごく拡大していくのは、流れとしてその通り。そこに強い前田さんがドコモの社長になられることは注目していかなければならない」とエールを送りつつも、「ベースは通信」とくぎを刺す。


 通信分野での実力が未知数の前田氏だが、サービスやコンテンツは得意分野。通信品質と並んで挙げられていた、サービスに対する不満の声に応える力には期待できる。例えば、ahamoポイ活のように金融・決済サービスと連携した料金プランは、その1つだ。eximoポイ活の投入も控える中、前田氏のカラーをどこまで出せるかは注目点といえる。


 他社に比べて出遅れていた金融サービスも、マネックス証券やオリックス・クレジットを傘下に入れ、矢継ぎ早に強化している。こうしたサービスを、d払いなどの決済とどう連携させていくかは、前田氏の腕の見せ所だ。


 また、ドコモは通信品質の劣化を早期に検知するため、d払いなどの決済サービスや動画サービスのデータ活用に取り組むようになった。2024年度上期からは、Web閲覧にこれを広げていく。コンテンツやサービス分野の知見が深い前田氏なら、こうした連携がさらに取りやすくなるはずだ。新体制でドコモがどこまで変わるのかには、引き続き注目していきたい。


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