『ゼルダの伝説』を託された監督は「謙虚」 『猿の惑星/キングダム』ウェス・ボール監督インタビュー

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2024年05月12日 16:00  ORICON NEWS

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『猿の惑星/キングダム』(公開中)ウェス・ボール監督 (C)ORICON NewS inc.
 「猿の惑星、見てね!ノーネタバレ」と日本語で言った後、「日本語学んでいるところなんです。年齢的に新しい言語を習得するのは難しいとは思うけど、次の作品のためにも習得したいと思っているんです」と続けたのは、10日に日米同時公開となった映画『猿の惑星/キングダム』のウェス・ボール監督。次の作品とは『ゼルダの伝説』のこと。日本発のゲームの実写映画の監督に抜てきされた今最も注目されるクリエイターの一人だ。公開直前に来日したウェス監督にインタビューした。

【動画】映画『猿の惑星/キングダム』予習になる特別映像

 『猿の惑星/キングダム』は、進化した猿と人間を描き、映画史に残る名作となった『猿の惑星』(1968年)から始まる人気シリーズの新作。

 「1作目の前日譚であり、すべての始まりを描いた前日譚3部作(※1)の続編でもある」と、ウェス監督は語る。「両方の世界に片足を突っ込んでいるような、架け橋でもあるです。1968年版(※2)に至るにはまだまだかなり時間はかかりますが…」。

※1=『猿の惑星:創世紀(ジェネシス)』(2011年)、『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(14年)、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(17年)
※2=1作目の『猿の惑星』は西暦3978年の設定

 本作では、時代設定を“現代”にした前日譚3部作の完結編『聖戦記』で猿と人間の聖戦を終えたシーザーの葬儀を描いた後、約300年の時が経過。猿が圧倒的な進化を遂げる一方、かつてこの惑星の支配者だった人間は退化し、言葉を話すことを忘れ、猿たちから隠れて暮らす“野生動物”と化していた。そんな中、この惑星の命運を大きく変える可能性を持つ人間が出現する。

 「新しい『猿の惑星』の監督をやらないか、と誘われ、断ったつもりだったんだけど、改めて連絡をもらって、どんな『猿の惑星』だったら作る意味があるのか、考えてみたんだ。それで、シーザーの時代から何百年か経過した設定にするアイデアを思いついた。世代交代を繰り返して、何も知らない若い猿を通して、この世界を見たら再発見できるのではないかって。それならば作る意味があると思った。ただ、お金が稼げる人気シリーズだから続編をつくるみたいなことは絶対にしたくなかった」と、ウェス監督はなかなか気骨がある人物のようだ。

 主人公の若い猿ノア(演:オーウェン・ティーグ)は、大人になるための通過儀礼の最中、巨大な帝国(キングダム)を築くことを目論む独裁者プロキシマス・シーザー(演:ケヴィン・デュランド)たちの襲撃にあう。村は焼き尽くされ、家族や仲間たちはさらわれていった。九死に一生を得たノアは、さらわれた家族を救出すべく旅に出る。その過程で正体不明の人間ノヴァ(演:フレイヤ・アーラン)と出会い、猿と人間の歴史に隠された秘密を知ることになる。

 「初期の段階からノアは、大人と子どもの間で揺れ動いている年頃のキャラクターにしようと思っていました。純粋でナイーブな若者が大人に成長する普遍的な物語にしたいと思いました」

 『猿の惑星』は、『戦場にかける橋』の著者でもあるピエール・ブールが1963年にフランスで刊行したSF小説が原作。原作から61年、1作目から56年の間に本作やティム・バートン版を含め10本の映画が誕生し、その時代ごとに多くのファンを生み出してきた。『猿の惑星』はなぜ人々を魅了し続けるのか?

 「いい答えが僕にあるとは思わないけれど、SFならではの娯楽性とスペクタクルがありますよね。1作目の猿の特殊メイクだけを見たいという人もたくさんいるわけです。2010年代の前日譚3部作は、パフォーマンス・キャプチャーを用いた映像技術で猿たちが描かれました。本作でもシリーズ最高のVFX映像で『猿の惑星』の世界を楽しんでいただけると思います。

 そして、主人公が猿でも人間でも自分たちを投影できるからだと思います。SFの世界ではあるけれど、現実の社会が投影されたストーリーがリアルに響いてくる。『猿の惑星』は、人間に警鐘鳴らす作品だと思うんです。人類がヒエラルキーの最下層に追いやられたらどういう気持ちになるのか、想像するだけで謙虚な気持ちになると思うんです」

 日本のアニメーションが大好きだというウェス監督は、「日本のアニメは自分という人間の一部だよ。普遍的でタイムレスな物語が多いんだよね。それは文化の違いや国境を越えて共感できるものなんだ」と熱弁をふるうひと幕も。最後に、インタビュー中に感じていたことをストレートに言ってみた。「謙虚ですね」。ウェス監督は「謙虚であることって、とても大事なことじゃないですか」と返し、こう続けた。

 「僕は周りの人から気軽に『ウェス監督、そこはちょっと違うと思うんですけど』と言ってもらえる人物でいたいんです。地に足のついた監督でいたい。それを貫くのは、ハリウッドでは難しいのかもしれないけど、そういう人間であり続けたいと思っています。幸い、妻は業界の人間ではないし、子どもたちもまだ父親が何をしているのか知らないので、ただのパパでいることができています。それに、すごく才能のある方々に囲まれてますから、自然と謙虚な気持ちになります。これからも自分の失敗から学び、最善を尽くすしかないと思っています」

■プロフィール

 1980年、米フロリダ出身。フロリダ州立大学映画芸術大学で学んだ後、グラフィックデザイナー、VFXアーティストとして活動。2011年に約9分の短編CGアニメーション『Ruin』を監督。2014年に『メイズ・ランナー』の監督に抜てきされ、全世界で大ヒットを記録。続く『メイズ・ランナー2:砂漠の迷宮』(15年)と『メイズ・ランナー3:最後の迷宮』(18年)でも監督を務めた。本作の完成後には、日本発の人気ゲームの映画化『ゼルダの伝説』の脚本・監督、短編『Ruin』の長編映画化プロジェクトなどが控えている。
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