外資大手「日本に巨額投資ラッシュ」 マイクロソフトの4400億円、オラクルの1.2兆円は日本をどう変えるか

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2024年05月16日 08:11  ITmedia ビジネスオンライン

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ITmedia ビジネスオンライン

(提供:ゲッティイメージズ)

 熊本の「TSMCバブル」は、外資系大手企業の日本における巨額投資の序章にすぎない。


【画像】地方におけるデータセンター拠点の建設を推進している(デジタル田園都市国家構想より引用)


 1ドル155円を超える34年ぶりの円安相場は、訪日観光客のインバウンド需要を喚起している。インバウンド需要の高まりはそれだけに限らず、外資系企業の日本市場参入という形でも表れている。


 TSMC(台湾積体電路製造)の半導体工場が建造される予定の熊本県菊陽町では、TSMCによる「逆・価格破壊」とも呼ぶべき賃金相場の高騰が確認されている。


 同社の大卒初任給は28万円、パートタイム労働者においては県内の最低賃金の898円の2倍を上回る時給2000円が提示されている。近辺の飲食店や宿泊施設の価格相場も上がる「TSMCバブル」現象が注目を集める。


 この流れはTSMCのみにとどまるものではない。外資系IT大手が相次いで、国内にデータセンター向けの投資を実行すると発表している。この背景と、今後予想される流れについて解説する。


●外資大手の巨額投資が相次ぐ


 米マイクロソフトは、AI研究開発の基盤を拡充するために、最新のGPUを含む高度なコンピューティングリソースを4400億円相当投資する予定だ。


 米オラクルも、日本の子会社を通じて10年間で1.2兆円を投資する計画を発表している。この計画も、AIやその他の技術への需要増加を念頭に置いたもので、主に日本国内のデータセンターの能力を向上させることを目的としている。


 国内では従来、データセンターの首都圏一極集中が問題視されていた。国内外の主要なデータセンターは、都内では豊洲・多摩や千葉県印西市などの首都圏か、大阪のような大都市圏に集中しており、災害時のリスク分散が不十分だと指摘されている。


 しかし、ここ最近は土地や電力の制約もあって、新たな開発の場として地方都市の重要性が高まっている。


 政府は「デジタル田園都市国家構想」を推進しており、地方創生を図る一環として、地方都市におけるデータセンターの開発を奨励し、これらの企業にも補助金を拠出する。


●為替・金利・地域格差がポイント


 外資系企業が日本にデータセンターを設立する主な理由としては、円安・賃金格差・そして借入金利の低さが挙げられる。これらの要因がどのようにして外資の投資決定に影響を与えているかを詳しく見てみよう。


 まず、円が安いとき、外国企業は相対的に少ないコストで日本に投資することが可能となる。土地、設備、運営コストが他の通貨に比べて割安になるためだ。


 次に、賃金格差だ。日本は他の先進国に比べてインフレ率が小さいことから、賃金の上昇率も低い。ただでさえ国際的なギャップがあるにもかかわらず、国内においてもさらに都市部と地方都市の間で最低賃金のギャップも大きい「2重の格差」といっていい賃金、労働生産性の地域間格差が存在するのだ。


 円安の状況下において、さらに土地も労働力も安い日本の地方都市は、データセンターのような巨大インフラの建設を考えるのに格好の場所である。


 さらに、日本の借入金利は長年にわたって非常に低い水準にある点も見逃せない。これにより、借入に伴う金利負担が低減し、外資系企業が新規プロジェクトや拡張計画に投資しやすくなる。


 日本では金利が上がってきたとはいっても、長期金利はいまだ年率0.88%程度だ。米国の4.6%と比較して、金利コストを5分の1に抑えられる。低金利は特に大規模なインフラプロジェクトや長期的な投資において有利であり、データセンターのような高い初期投資を必要とする事業にとって魅力的な条件となる。


 これらの経済的な利点から、日本でのデータセンター設立が活発になっているのだ。


●データセンターバブル 福岡も熱い?


 既に始まりつつある「データセンターバブル」は、今後国内のどの地域で続いていくのか。


 福岡は地理的にアジア諸国へのアクセスが良好で、若い労働力が豊富であるため、テクノロジーハブとしてのポテンシャルが高まっている。近年、福岡ではスタートアップやイノベーションの拠点としての役割が期待されており、福岡に本社を置く新興企業の上場事例なども出始めている。


 また、データセンターという文脈においても、北九州市では米アジアパシフィックランドが約1320億円をかけて九州最大級のデータセンターを構築すると発表しており、2027年中にも稼働を開始する見込みだという。


 労働力不足が懸念される地方都市であるが、ひとたびこれらのプレーヤーが現地に雇用を生み出せば、若者の都市部への流出、地方の魅力の低下といった多くの社会問題も改善すると考えられている。


 日本が位置する極東エリアは、米国やヨーロッパの位置するエリアとは異なり、同じタイムゾーンの中でデータセンターを建設できる土地に制限があり、大きな潜在需要を持っている可能性がある。


 また、これまでは円安の恩恵よりも損害の方が大きかった地方都市エリアにおいても、実質的な「労働力の輸出」によって時給や収入が改善し、マイナスを続ける実質賃金に歯止めをかける要素となり得る。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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