五輪代表のライバルたち(後編)
続いては開催国フランスの入ったグループA。
フランスが五輪でメダルをとったのは、1984年のロサンゼルス五輪のただ一度だけ。今回は開催国の威信をかけて、何が何でも優勝したいと考えている。そのことはテクニカルスタッフの人選からもよくわかる。
監督にはティエリ・アンリ(元アーセナル、バルセロナなど)、副監督にガエル・クリシー(元アーセナル、マンチェスター・シティなど)、その他のコーチたちも名だたるチームの選手だった者ばかりだ。
フランスはオーバーエイジ(OA)にもビッグネームを呼ぼうと企んでいる。元フランス代表で固めたコーチたちの存在は、彼らを呼びやすくしているだろう。一番可能性が高いと言われているのはウーゴ・ロリス(ロサンゼルスFC)、ラファエル・ヴァラン(マンチェスター・ユナイテッド)、そしてキリアン・エムバペだ。
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五輪の前にはユーロもあるのだが、オリンピック委員会はどうしてもエムバペを呼びたいと考えている。ただし五輪はFIFAの主催でなく、クラブチームに対する強制力はない。彼がパリ・サンジェルマン(PSG)に所属している分にはまだ無理もきいただろうが、先日、退団を発表。移籍後となると、そのチームとの交渉が重要になる。
そのためエマニュエル・マクロン大統領も直々に介入、「エムバペの新天地に圧をかける」と公表している。OA候補には他にもオリヴィエ・ジルー(ミラン)、アントワーヌ・グリーズマン(アトレティコ・マドリード)、アドリアン・ラビオ(ユベントス)やカリム・ベンゼマ(アル・イテハド)の名前が挙がっている。
ただしOAの力を借りなくともフランスの若い世代にはすでに逸材がそろっている。レアル・マドリードのエドゥアルド・カマヴィンガ、PSGのブラッドレー・バルコラ、ウォーレン・ザイール=エメリ......。とにかくフランスは最有力金メダル候補だろう。
同組のアメリカは五輪サッカーにおいては常連国だが、今回はその実力に若干の疑いが残る。2022年のCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)U−20選手権で活躍し、チームを優勝に導きMVPとなったパクステン・アーロンソン(フランクフルト)などの新鋭もいるが、OAにはチームをけん引できるようなスターはいない。監督のマルコ・ミトロビッチはこれまでさほど大きな功績を残してはいない。彼が勝利に必要なスピリットをチームに与えるのはなかなか難しそうだ。フランスに比べるとモチベーションも低く、2位通過狙いだろう。
ニュージーランドがグループステージを突破するのは難しいはずだ。最後に滑り込んだギニアも、56年ぶりの五輪出場は快挙だが、勝ち目はないのではないか。
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【メッシ出場を狙うアルゼンチン】
なかなかの激戦区となったのがグループBだ。
アルゼンチンもモチベーションは高いだろう。フランスのアンリ同様、ハビエル・マスチェラーノ(元バルセロナほか)という自国の元スター選手を監督に据えたところもフランスと似ている。
マスチェラーノがトップにいることは重要だ。なぜならOAにリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)を呼びやすくなるからだ。メッシはあまりパリにいい思い出がないだろうが、友人の頼みとなれば、聞かないわけにはいかない。もしメッシがオリンピックで活躍すれば、アルゼンチンはライバル、フランスのメンツを潰すことができる。
残りのOA候補にも、アンヘル・ディ・マリア、ニコラス・オタメンディ(ともにベンフィカ)、ロドリゴ・デ・パウル(アトレティコ・マドリード)、GKエミリアーノ・マルティネス(アストン・ビラ)と豪華な名が並ぶ。特にマルティネスは「自分に足りないのはオリンピックのメダル」と意欲を燃やしている。
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もちろんアルゼンチンには若い才能もいる。レアル・マドリード・カスティージャのニコ・パス、アヤックスのガストン・アビラ。なかでもフェルナンド・レドンド(元レアル・マドリードほか)の息子フェデリコ・レドンドはインテル・マイアミでメッシとともにプレーしており、これもまたメッシを呼びやすい環境にしている。
同組のモロッコも、決してフランスに遊びに行くわけではない。W杯で世界のトップ4に入ったことは、U−23の選手たちも「大きく勇気づけている」と、監督のイサメ・チャライは述べている。アクラフ・ハキミ(PSG)やヤシン・ブヌ(アル・ヒラル)などがOAとして入る可能性もある。U−23の選手にも、アトレティコ・マドリードのアブデ・ライハニ、ベティスのアブデ・エザルズリ、チャディ・リアドなど、ヨーロッパのトップクラブに所属する選手たちがいる。
イラクは歴史的に侮れないチームだ。ラディ・シェナイシル監督は元イラク代表選手で、世界のサッカーをよく知っている。注目選手は現在スウェーデンのハンマルビーに所属するMFモンタデル・マジェド。スウェーデン生まれで、16歳にしてスウェーデン1部リーグにデビュー、U−19までスウェーデン代表としてプレーしていたが、その後、イラクのフル代表となった。もうひとりはイングランド生まれのMFジダン・イクバル。現在はユトレヒトでプレーするが、少年の頃からマンチェスター・ユナイテッドで育った。
【若手選手の宝庫スペイン】
一方、ウクライナは元同国代表選手のルスラン・ロタンが率いる。五輪予選にあたる昨年のU−21ヨーロッパ選手権で3位につけたのは彼の手腕だ。ウクライナの五輪サッカー出場はこれが初。ドイツやイタリアなど並みいる強豪を抑えて出場権を手に入れたのは快挙だ。彼らは準々決勝でフランスにも3−1で勝利している。
ウクライナは戦火のなかにあり、U−23代表選手たちの同世代は、ほぼみんなが兵役中だ。別な形で国を代表して戦うことに、彼らは強い気持ちを持っている。FWミハイロ・ムドリク(チェルシー)やMFヘオルヒー・スダコフ(シャフタール・ドネツク)、GKアナトリー・トルビン(ベンフィカ)など、すでにフル代表入りしている選手もいる。FWのミコラ・クハレビッチ(スウォンジー)もチームの要だ。
4グループのなかで、比較的、予想がしやすいのはグループCだろう。スペインの1位抜けはほぼ確定だ。
予選にあたるU−21ヨーロッパ選手権では準優勝、チームを率いるサンティ・デニア監督はアトレティコ・マドリードでキャプテンも務めた元スペイン代表選手だ。2010年よりU−17、U−19、U−21とアンダー世代の代表を率い、U−17とU−19ではチームを優勝させた実績がある。同国サッカー関係者の信頼は厚く、今後スペインを代表する監督になると言われている。
スペインの強みは、OAを頼らなくてもいいほど優秀な若手が多くいることだ。昨年のU−21欧州選手権で得点王に輝いたマンチェスター・シティのセルヒオ・ゴメス、バルセロナが10億ユーロ(約1650億円)の契約解除金をかけている16歳のラミン・ヤマル、また同じくバルサの17歳のDFパウ・クバルシ、19歳のMFガビ、東京五輪に出場したMFペドリもいまだチームにいる。その他にも、ブライトンのアンス・ファティ、ビルバオのニコ・ウィリアムス、躍進中のジローナのアルナウ・マルティネスなど、すべて挙げたらきりがないほどだ。
それに加えて、OAにはセルヒオ・ラモス(セビージャ)という案が出ている。ユーロとW杯で優勝経験のある彼も、五輪のメダルは手にしていない。38歳の彼は引退への花道と考えているのだろう。そうなればモチベーションも高く、若い選手たちをけん引していくことだろう。
アジアで日本に次ぐ2位となったウズベキスタンは、「白い狼」もしくは「アジアのイタリア」とも呼ばれている。地中海ブルーのユニホームのせいもあるが、なによりそのサッカーは非常に守備が固いのだ。フル代表監督のスレチコ・カタネッツもイタリアのサンプドリアでプレーしていた。
OAはFWエルドル・ショムロドフ(カリアリ)が入るとの声が高いが、彼もこれまでジェノア、ローマ、スペツィアと、セリエAでプレーをしている。U−23の選手で注目すべきはCSKAモスクワのアボスベク・ファイズラエフ、そしてランスの19歳アブドゥコディル・フサノフだ。
エジプトはブラジル人のロジェリオ・ミカーレがチームを率いる。このチームで忘れてはいけないのは国内でプレーし「第2のモハメド・サラー」の異名をとるキャプテン、イブラヒム・アデル(ピラミッズ)だろう。
一方、ドミニカ共和国は、3カ月前にアスレティック・ビルバオのスター選手だったスペイン人、イバイ・ゴメスが監督に就き、周囲を驚かせた。ほとんど監督経験はないが、選手時代はマルセロ・ビエルサのもとでプレーし、ビエルサから「偉大な監督になる」と太鼓判を押されている。レアル・マドリードからバレンシアに移籍したペテル・フェデリコはチーム屈指のスター選手だ。