分からない分、何でもできる。 新しく勉強し始める時が一番自由だ

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2024年05月17日 08:11  @IT

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アクトビでのダニーさん

 国境を越えて活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。今回もアクトビでフロントエンドエンジニアとして働くDaniel Parsons(ダニエル・パーソンズ)さんにお話を伺った。英語の先生とプログラミングの学習を両立させるダニーさんに訪れた、次の出会いとは。


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 聞き手は、アップルやディズニーなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。


●今の仕事は「好き」で始まっている


阿部川 “Go”久広(以降、阿部川) アクトビに入社したのが、2022年の1月ですね。きっかけは何だったのですか。


Daniel Parsons(ダニエル・パーソンズ 以下、ダニーさん) プログラマーのイベントに参加したときにアクトビのハナさんという人に出会ったことです。ハナさんから「会社でエンジニアを募集しているので、もし興味あれば、面接行ってみない?」と軽い感じで聞かれて、興味が湧いたので面接を受けたのです。


阿部川 ではそのときにアクトビのCEO(藤原 良輔氏)に会ったのですね。どんな印象を受けましたか。


ダニーさん 日本の会社って、すごい“固い”イメージがあったのです。ましてやCEOともなると「めっちゃ固い」イメージ。きっとスーツを着ているおじさんが来ると思っていて。面談でもいろんな質問されると思って、準備していました。


 でも実際はフランクな感じで「ダニーさん、何したいん?」なんて友達のように話し掛けてくれて。「こういうことしたいです」と伝えたら、その場でいろいろな提案をしてくれました。「だったら、これ勉強すればいいんじゃない?」って。僕が話すことにすごい興味を持ってくれたと感じました。


こうしたフランクな面接っていいですよね、ちょっと憧れます。会社で働くということは、本来、「会社がやりたいことと働きたい人のやりたいことが一致するから」なので、こうして「やりたいことをこの会社なら実現できるかどうか」を面接で知れるといいですね。


阿部川 ここでも良い出会いですね。ダニーさんは、軽い感じから入りますが、その後ちゃんとした話になりますよね、全部。大学の先生からバーで軽く誘われて日本に来る、といった感じで。それがなかったら、今ここにいないじゃないですか。


ダニーさん 確かに。もちろん最初は軽くても好きになれない仕事は駄目なので、そこはちゃんとしています。仕事は楽なことばかりはなく、大変な時期もありますよね。特にリリースがある時はすごく大変ですけど、「好き」というか「興味がある」というか……。本当にやりたいことだったら、大変なことでも乗り越えられるじゃないですか。ですから、そこ(好きと思えるところ)から始められてよかったと思います。


阿部川 正しい意味で「適当に」というか「適切に」ですね。本当にそう思います。ダニーさんがおっしゃるように「好き」だったら頑張ることもつらくないじゃないですか。


ダニーさん そうですね。「どれだけ頑張るか」は考え方の問題だと思います。プログラムの勉強をしていたころ、時々遅くまで勉強することがありました。それは自分のための勉強の時間だと思ったから、遅くまで勉強できました。今の仕事で残業することもありますが、そのときは自分の勉強時間だと思うようにしています。


阿部川 嫌だなと思いながらやるよりも、自分のためにもなる勉強の時間だと思った方が頑張れますよね。どうせやらなきゃいけないのであれば、楽しくした方がいいです。現在はどんなお仕事をされているのですか。


ダニーさん お客さんと一緒にプロダクトを作る、といった感じです。私はフロントエンドなので、お客さま側にあるバックエンドと協力して進めています。プロジェクトとしては例えば、スーパーマーケットのWebサイトを作ったり、お客さんと一緒にバックエンドを設計したり。設計に関するコンサルティングもします。このインタビューの前にもミーティングしていたのですよ。


阿部川 忙しい、けれども楽しく仕事ができているみたいですね。逆に「これは困ったな、頑張らないとな」と思うことはありますか。


ダニーさん そうですね「日本語の表現」でしょうか。仕事は全部日本語でやりとりしているのですが、CTO(最高技術責任者)と一緒にミーティングに入ると、「この言い方すごいな」と感心することがよくあります。そのレベルに行きたいと思っています。試験(日本語能力試験)が終わってから日本語の勉強は止めていたのですが、最近、「考えを言語化すること」の重要さを再認識しています。また教科書を開かないとですね。


阿部川 それはもう、教科書には書いていないことですね。現場で盗む方がよいかもしれません。


●「何を学ぶか」ではなく「何をしたいのか」で考える


阿部川 今、とっても楽しくて仕事をしていると思うのですが、これからもずっとエンジニアをしたいと思っていますか。10年先こんなことやってみたいとか、そういう思いはありますか。


ダニーさん 仕事以外でいえば、以前から作曲とかやっていたので、クリエイティブなことに興味がありますね。何かを作ることを大事にしているので、そういったことにもチャレンジしたいと思っています。仕事面でいえばマネジメントというか「人を集めてものを作る」というスキルを身に付けたいと思っています。最近気付いたことですが、自分だけでやれることには限界がありますよね。プロジェクトとか1人じゃ難しいですし。ですから、そういったことができるようになりたいです。


阿部川 ぜひ勉強してください。組織論とかリーダーシップとかマネジメントとか、学んでいて楽しいことはいっぱいありますよ。


 ダニーさんは短い時間に集中してプログラミングを学び、IT業界に来ましたが、エンジニアの中には、ある一定期間は「仕事をしながら学ぶ」という人も多いと思います。でもそうしていると「俺、このままエンジニアリングやプログラミングの仕事をずっとしていくのかな」と思う瞬間があると思います。例えば、仕事する時間が長過ぎるとか、新しいことを勉強できないとか。そういった、エンジニアとしての下地を作っている人に対して、ダニーさんから何かアドバイスはありますか。


ダニーさん 僕も勉強し始めたころに言われたのですが「プログラミング自体に集中するのはよくない」ということです。なぜかというと、言語の勉強って、どこから始めていいか分からないじゃないですか。だから、いきなりプログラムの勉強をするのではなく、「こういうWebサイトを作る」「このプロダクトを作る」などの目標を立てた方がいいですね。そうすると、どこから入ればいいか、何となく明確になります。


 僕が勉強し始めた時にも「Python」か「JavaScript」か「Java」か。どこから始めればいいのか分からなかったんです。その時イベントで会った友達から「言語から考えちゃ駄目。何を作りたいかをちゃんと決めること」とアドバイスされました。作りたいもの、つまりデザインを作るだけでも成長にはつながります。今でも、すごく大事なアドバイスだったと思うので、皆さんにも伝えたいです。例えば僕だったら、スペイン語のWebサイトを見て、かっこいいなと思い、これを作るならPython知らなきゃなとか、そういうことです。


阿部川 「まず、何をやりたいか」という目的ですね。それがとても大事。それがしっかりしていて自分のやりたいことだったら、ちょっと大変なことも耐えられるということですね。


ダニーさん はい。自分が作りたいものを作れるから達成感が全然違う。オンライン授業などでプログラムを勉強しているだけの人は勉強してテスト受けてそれが終わっても「何か足りない」と感じるのではないでしょうか。きっとそれは、自分がやりたいことをやってないからです。


このお話を聞いて、SES(System Engineering Service)の会社にいたころのことを思い出しました。勉強の時間、ということで入社して6カ月の間、放置されていたんです。案件がなかったのでしょうね。勉強して資格を取りまくってそれなりに知識も付いたのですが、楽しくはなかったです。ただ勉強するのではなく、自分が何をしたいのか、は大切ですね。


 もう一つ。会社に入って仕事をすると、プロジェクトに関して「これって本当にユーザーが集まるのか」とか、「現実的に作れるのか」といったそういう“問い”がたくさん出てきます。そうした問いは、勉強しているときにはないものです。だからこそ、何でも作れる。そういうのは勉強し始める時にしかできないことなので、それを若いエンジニアに知っていてほしいと思います。


●失敗は怖くない?


編集鈴木 ダニーさんは人生のターニングポイントで、ぱっと来たチャンスを条件反射というか「取りあえずつかんでみよう」と手を伸ばし、それを成功に変えていることが多いと感じました。きっと普段から来た話をばっとつかむ“くせ”があると感じたのですが、それで失敗したことはないのですか。


ダニーさん 失敗……かどうかは分かりませんが、例えばスペイン語を勉強していたときには、スペインに行って翻訳の仕事ができるくらいになるんじゃないかと思っていたのですが、結局はそこまでいかなかった。でもそれがきっかけでスペイン語のWebサイトを見つけ、そこからさらにプログラミングを学ぶことにつながったわけです。


 アクトビに入社する前に「未経験OK」な会社の面接をいろいろ受けましたが、落ちたとこもいっぱいあった。でも、そういう面接をたくさん経験したからこそ、アクトビの藤原さんと面談した時、どうやって話せばいいのかが分かった。失敗って考え方の問題じゃないかなって思います。


編集鈴木 失敗したらそのままにしないで次につなげるということですかね。


ダニーさん はい。英語のことわざで「プールで速く泳ぎたかったら、壁を作って“けのび”しろ」というものがあります。壁がないと踏み出せないですよね。だから壁というか、踏む出すための何かを作る。そこから次のステップに行く。でも最初にステップがないと、次のところに行けない。だから、失敗も、そこからまた次のスタートにできるということです。


編集鈴木 失敗もキックするための壁になる。まずは、動いてみることですね。


ダニーさん そうですね、ただやるだけ。最初のプロジェクトとか、勉強している時って、何をやっているか分からないかもしれないし、作ったものの品質もそこまで高くないかもしれない。でも分からない分、何でもできる。新しいことを勉強する時も、「これが一番自由なプロジェクトだ」って思った方がいいと思って、だから、好きなようにやった方がいいです。


 もちろん、いろいろな経験が重なるとできることも増えてくると思います。ただその分、自由は減ります。だから、むしろ初めてのときが一番楽しい時なんじゃないかなと思います。取りあえず、やる。そして楽しく、です。


●Go’s thinking aloud インタビューを終えて


 ダニエルさんは、「軽い感じ」で始めたことを、常に「しっかりとした現実」に変えてきた。そのフットワークの軽さは小気味よかった。


 話を聞きながらスタンフォード大学のクランボルツ教授の「計画された偶発性理論」を思い出した。まずは行動し、偶然の出会いや出来事をオープンマインドで受け止める。もちろんリスクも伴う。また、この理論は「優先順位の付け方」が絶妙だ。ここで言う優先順位とは、例えば5つのタスクがあったとして「今はできないから優先順位を付けてやる。でも時間が許すのなら全部やりたい」ではなく、「一番大切と思える1つをピックアップして、他はやらない」という行動様式だ。


 米国で活躍するMicrosoftのシニアエンジニア、牛尾 剛氏の著書『世界一流のエンジニアの思考法』によれば、それは「Be Lazy」(怠惰であれ)という、世界でも一流エンジニアたちの思考方法だ。


 この思考方法と同じ考えを持つダニーさんが成長し続けるのも必然といえる。


阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)


アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 訪問教授 インタビュアー、作家、翻訳家


コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学の学部長、教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行う他、作家、翻訳家としても活躍中。


編集部から


「Go Global!」では、GO阿部川と対談してくださるエンジニアを募集しています。国境を越えて活躍するエンジニア(35歳まで)、グローバル企業のCEOやCTOなど、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。取材はオンライン、英語もしくは日本語で行います。


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