「ボブの歌に込められたメッセージと愛を感じてほしいと思います」『ボブ・マーリー:ONE LOVE』レイナルド・マーカス・グリーン監督【インタビュー】

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2024年05月21日 12:10  エンタメOVO

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レイナルド・マーカス・グリーン監督 (C)エンタメOVO

 ジャマイカが生んだ伝説のレゲエミュージシャン、ボブ・マーリーの波瀾(はらん)万丈な生涯を映画化した『ボブ・マーリー:ONE LOVE』が、5月17日から全国公開された。本作のプロモーションのために来日したレイナルド・マーカス・グリーン監督に、映画について聞いた。




−まず、今回監督をすることになった経緯から伺います。

 自分で言うのもなんですけれど(笑)、『ドリームプラン』(21)を監督して、ウィル・スミスがオスカーの主演男優賞を取って、ちょっとホットな注目の監督みたいな位置付けになっていたので、監督の候補者リストに上がったのかなと思っています。

−『ドリーンプラン』に続いて実話の映画化でしたが、関係者がまだご存命だったりもするので、描き方がとても難しいと思うのですが、その点はいかがですか。

 おっしゃる通りです。特に家族がまだご存命な場合は、いろいろとトリッキーな問題があったりもするのですが、私は結構頑固なので、自分の意見をしっかりと伝えます。先にお伺いを立てて、許可をもらってから何かをするのではなくて、とりあえず自分がこうと思ったやり方でやってみて、もし気に入らない人がいたらごめんなさいと後から謝るタイプなので(笑)。今回は、(ボブの長男の)ジギーをはじめとする家族が、すごくオープンで、隠しごとなく、腹を割って皆で話すみたいな人たちだったので、私とも息が合いました。私の役目は、彼らが伝えたい物語をいかに映画的な手法で描くかということだと思っていました。

−監督はもともとボブ・マーリーについて興味や思い入れがあったのでしょうか。

 ボブの熱狂的な信者みたいな人たちには撮影中にもたくさん会いました。私も子どもの頃や若い頃は、彼の曲を聴きながらノリノリで踊ったりもしていましたけど、そういう人たちとは違って、普通に好きだったという程度です。ただ、この映画を作ったことによって、Tシャツやバッジに印刷されているボブ・マーリーというイメージだけではなくて、音楽的にもそうですが、歌詞の意味を自分が深く理解していなかったことに気付かされました。一つ一つの曲やアルバムの裏に、どれだけ彼の複雑な思いがあったのか、困難な問題を抱えていたのかということを知って、心を揺さぶられ、彼の曲がもっと好きになったという感じです。

−この映画は、ミュージシャンの伝記映画ではありますが、他のものとは違い、政治色や宗教色が非常に濃く、それはボブ・マーリーのバックグラウンドとしてそうしたものがあったからですが、意識的に他の映画との違いを出そうとしたところはありましたか。

 他の伝記物との違いに気づいてくださったことに感謝します。自分はキャリアを重ねていく中で、ミュージシャンの伝記映画を撮りたいとか、自分が撮ることになるとは思ってもいませんでした。自分にとっては、ストーリーを語ることが最も大事なことで、たまたま主題がミュージシャンだったというだけの話です。ただ、私も音楽が好きなので、例えば『エクソダス』というアルバムの曲を、ボブがベッドルームで作曲するシーンなどは、自分が隠れてその場にいて、新たな発見にワクワクしながら見ているような楽しさがありました。もう1つは、スピリチュアリティー(精神性)の話ですけれど、それはボブという人を語る上では外せない部分で、自分が今までは理解し切れなかった歌詞もそうですし、ボブの全ての土台はスピリチュアリズム(心霊主義)にあるという意味でも、そこは他のミュージシャンの映画とは決定的に違っていると思います。

−今回ボブ・マーリーを演じたキングズリー・ベン=アディルがすごかったんですけれど、演出しながら、ボブが乗り移ったように感じた瞬間もあったのでは?

 映画を撮りながら、キングズリーが演じていることを忘れて、「ボブ・マーリーだ!」という瞬間が何度もあったぐらい、本当にどっぷりと成り切っていたと思いますし、素晴らしかったです。それは彼の努力のたまものでもあるのですが、彼はもう徹底的に全身全霊で役にのめり込むタイプなので、それを全面的にサポートしてくれた彼の家族にも報いなければならないし、ジャマイカという国や文化に対しても報いなければならない。そんな敬意を持ってこの役に挑んだことも大きかったと思います。

−白人と黒人のハーフだったというボブの出自もそうですが、彼を描く上で、特に気を付けたことはありますか。

 やっぱりそうした人種の問題は複雑で、場合によっては反感を買ったり、観客が嫌な気持ちになったりすることもありますが、ボブという人間を語る上で、そこは欠かせない部分です。特に、私はこの映画の中で、白人の父親に捨てられた少年が、焼け野原から逃げるシーンをイメージとして表現しました。そもそもボブは、ジャマイカに植民していた60歳近い英国軍人と、まだ18歳だった現地の娘との間に生まれた子どもです。だから本人も、そうした負い目みたいなのをすごく感じていた。ただ、逆に混血だったおかげで、真っ黒な顔ではないから、他のレゲエミュージシャンに比べれば、商業的なヒットを世界中で幅広く得られた。けれども自分では罪悪感みたいなものも抱えていた。そうした複雑な背景を盛り込みたいというのはありました。

−監督が特に好きなボブ・マーリーの曲は?

 「リデンプション・ソング」です。ボブの最後の、本当に究極の一曲だと思います。

−実話の映画が続いていますが、次回はフィクションを、という考えはありますか。

 皆さんは気付いていないかもしれませんが、例えば、マーティン・スコセッシやスパイク・リーは、「これは実話に基づく伝記です」とは言いませんが、実は彼らが手掛けている物のほとんどは実話がベースです。だから、ある意味、彼らはずっと伝記映画を作り続けているのだと私は思っています。ただ私は、次も伝記物で行こうと決めているわけではないですし、チャンスがあるなら、コメディーからホラー、ありとあらゆるジャンルに挑戦してみたいと思います。自分にとっての理想的なキャリアは、スタンリー・キューブリックみたいに、すごく壮大な戦争映画から心理サスペンスに行って、次はSFに行くみたいになれたらうれしいです。ちょっと老けて見えるかもしれませんが、意外とまだ若いので(笑)、可能性はあると思っています。

−最後に、日本の観客に向けて一言お願いします。

 もちろん監督としては、自分が作った新しい作品を皆さんにお目にかけて、気に入ってもらえればいいというのが正直な気持ちです。ジャマイカの文化や歴史、ボブ・マーリーの人物像をなるべく忠実に正確に描くということで、ディテールまで徹底的にこだわったので、そうした点にも注目していただきたいです。あとは、何より彼の歌、そして歌に込められたメッセージと愛を感じてほしいと思います。それが彼の歌や音楽についてのより深い理解につながって、もっと聴きたくなったり、もっと彼のことが好きになったりしてくれる人が増えて、彼の音楽の軸になっているポジティブなメッセージを、次の世代、新しい世代の人がどんどん発見して、それをつないでいってくれれば、それ以上にうれしいことはないと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)


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