【今週はこれを読め! エンタメ編】金子玲介の鮮烈なデビュー作『死んだ山田と教室』に夢中!

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2024年05月21日 12:11  BOOK STAND

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 発売前から大きな話題になっているメフィスト賞受賞作『死んだ山田と教室』が入荷してきた。デビュー作というのに、大小様々な販促物がこれでもかと言うくらい送られてくる。期待の新人に興奮する気持ちはわかるけど、ちょっと熱意が異常では? 本の雑誌社の杉江氏などは、炎の営業日誌で「2024年のベスト1」とまで言い切っている。まだ5月じゃん。さすがに判断早すぎでは?

 ちょっと冷静になろう......というクールかつ意地悪気味の視線で読み始めたのだが、結論から言えば、私も死んだ山田に夢中なのである。

 啓栄大学附属穂木高校二年E組の山田は、クラスの中心となる生徒だ。クラス全体を明るくするおもしろさがあって、誰とでも楽しそうに話して、先生のモノマネがすごく上手い。ラグビー部だったけれど、怪我で辞めてからは校外でバンドも始めた。髪は金色で一見怖そうだけど、すごく優しい。そんなパーフェクトにいい奴が、交通事故で死んでしまうところから物語は始まる。

 人気者を失い、クラスはすっかり暗いムードだ。雰囲気を変えようと、担任は席替えを提案するが、生徒たちは皆無言だ。そこに、なぜか山田のツッコミが聞こえてくる。どうやらスピーカーから聞こえてきているようなのだが、なぜこんなことになったのか、山田自身にもよくわかっていないようだ。クラスメイトの個性を完全に把握し切った山田(スピーカー)の提案により、席替えが行われる。明るさを取り戻した生徒たちは、山田を守るために、このことを2年E組だけの秘密にしようと決める。他のクラスの生徒や担任以外の先生が教室にいることもあるので、山田に話しかける時には特定の言葉を発してからにしようと決めるのだが、その合言葉が「おちんちん体操第二」なのである。

 ......なにそれ。バカなの? 名門男子校の生徒さんたちとは思えません!

 アホらしさを競い合うようなテンションの会話を中心に、この物語は進んでいく。新聞部の生徒たちは山田の死の真相を調べ始め、文化祭ではカフェを開いて山田のコスプレをし、山田の誕生日をわちゃわちゃと祝い......。賑やかでバカバカしい日々の描写から、彼らひとりひとりの個性や、山田に対する思い、内側に抱えていたものが少しずつ現れてくる。明るい人気者だったはずの山田の別の面も見えてくる。いつの間にか、私も彼らのペースに巻き込まれていて、呆れ笑ったり切なくなったりしながら、その健やかな青春が、ずっと続けばいいと願っている。だけど、時間は無情に進んでいく。山田以外の生徒たちは進級してクラス替えがおこなわれ、卒業の日がやってくる。

 青春は、輝かしくてもバカバカしくても恥ずかしくても、いずれ終わるものだ。ただひとり、青春を終われない山田の存在は、2年E組の生徒たちの心にも、読んでいる私たちの心にもいろんなものを投げかけてくる。小説の中の出来事と忘れていた記憶が混ざり合っていくようだ。楽しさも愛しさも、悔しさも悲しさも、期待も不安も、この小説には全部詰まっている。中高生にも大人にも、読んでほしい鮮烈なデビュー作である。

 次の金子玲介作品もめっちゃ楽しみ!と思ったら、早くも次回作の予告が出ているではないか。夏に発売する二作目の題名は『死んだ石井の大群』で、デスゲームものだそうだ。なんだよそれ。全く想像がつかない。だけど全力で、期待してます!

(高頭佐和子)


『死んだ山田と教室』
著者:金子 玲介
出版社:講談社
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