高橋克典、型破りなサラリーマンから特命係長経て「大岡越前」 時代劇と向き合い新しい発見も

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2024年06月16日 08:01  日刊スポーツ

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私が学生時代に見ていた深夜放送のドラマで、鍛え上げられた肉体を披露していた高橋克典さん。今も変わらぬ若々しさに驚きました(撮影・滝沢徹郎)

俳優高橋克典(59)が、23日にスタートするNHK BS時代劇「大岡越前7」(日曜午後6時45分、全8回)で、主役の江戸南町奉行・大岡忠相を演じる。自らの代表作となったTBS系「サラリーマン金太郎」、テレビ朝日系「特命係長 只野仁」と、人気シリーズでワイルドなヒーローを演じて人気者になった。今年暮れには60歳の還暦を迎える。多くの名俳優が演じた「お奉行様」に臨む心構え、そして心穏やかな素顔をのぞいてみた。【小谷野俊哉】


★まさか僕に来る!?


ワイルドで影のあるヒーローを演じることの多かった高橋が“大岡裁き”で知られる、沈着冷静、人情味たっぷりの奉行になる。


「今まで型破りな役を演じることが多かったので、まさか僕に『大岡越前』の話が回ってくるとは夢にも思っていませんでした。『大岡越前』はとてもカチッとした、奇をてらうことのない王道。できるんだろうかと一瞬思いましたけども、まぁ、この話が来て断る手はないですよね」


子供の頃に見ていた「大岡越前」は、1970年(昭45)から99年までTBS系で放送。18年に80歳で亡くなった加藤剛さんが、主役の大岡忠相を演じていた。


★おばあちゃん子で


「子供の頃から見ていました。『大岡越前』と『水戸黄門』を、半年ずつ月曜午後8時にやっていました。あと、『遠山の金さん』と『鬼平犯科帳』、『銭形平次』かな。僕はおばあちゃん子なんで、時代劇をよく見ていました。一緒に過ごした時間の思い出もあって、家庭の思い出、ぬくもりがありました。僕にとっての『大岡越前』のイメージは、やっぱり加藤剛さん。加藤さんは真面目で、1つずつ表現を増やしていった。カチッとした型の中で、ものすごくカラフルな芝居を喜怒哀楽、いろいろな形で表現されている。柔らかさもあり、堅さもある。あと有名な大岡裁き。とても柔らかい、優しい、温かいものがあるのが『大岡越前』のイメージなんですね。江戸の町火消や養生所を作った、本当に人の暮らしに寄り添っていたお殿様、お奉行なんだなと思っています」


撮影は、京都・太秦の東映京都撮影所で行われた。


「京都に行ったきりで、途中でちょこちょこと東京に戻りました。最高でしたね。京都に行くと自分の本分、俳優の仕事だけに集中できる。俳優として一番いい状態で撮影に向かえるので、自分の体のコンディションだけを考えればいい。合間に食べるご飯はおいしいものがたくさんあるし、文化もたくさんある。今回の『大岡越前』では、東映俳優部の方についていただいたんです。所作指導という形で、こういう時はどういう体の所作で表現するかとか。大川橋蔵さんのお弟子さんだった方なんですけど、当時の映画界を本当によくご存じで。そういう俳優さんに、スーパーバイザーとしてついていただいたことが、非常によかった」


30年にわたり演じた加藤さんをはじめ、北大路欣也(81)東山紀之(57)ら、さまざまな俳優が「大岡越前」を演じてきた。


「『大岡越前』という作品を愛して来られた方々が多くいらっしゃる。全員を研究して取り込んで、新しい『大岡越前』を作り上げるというか。それらをミックスして、体になじんできて自然と僕なりのものが出るかなと。僕の妻は、おじいちゃんと『大岡越前』を子供の頃に見ていて、ものすごいファンなんですよ。僕は家で自分なりに練習してやったのに、妻が『それは北町(奉行)でしょ、南町はこうでしょ』と。だんだんうるさくなってきて、いやいや俺がやるんだからって(笑い)。日本人だったら、みんな子供の頃の『大岡越前』のイメージを持っている。やりながら、自分1人の役じゃない、先人たちの作り上げたものでもあるし、それを見てきた方々の思い、そういうものを大切にしながら演じました」


ドラマで放送される時代劇が減っている。


「喜怒哀楽、日本人のヒーローものでもある勧善懲悪。特に『大岡越前』は、あまり人が死ななかったりもする。完全な悪者が出てこない場合もある。そういう、いろいろな情がありますよね。日本人の情を、はっきりと表現できる時代劇はすごく面白いなと。みんな悪くないよ、みんな三方一両損、そういう情がある感じですね」


高精度で映し出す、4Kの映像で撮影した。今の時代に、じっくりと時代劇と向き合ったことで、新しい発見もあった。


「本当にいろいろなことが変わりました。アナログの映像の荒さとか、フィルムの感じとか、明かりもアンバーっていうオレンジ色だったりでね。セットがね、全体的に小さかったんですよ。当時は、取り調べのお白州のセットなんかも小さい。家庭のテレビが小さかったから、アップが多かった。顔で情の表現みたいな顔芝居。アナログっていうのは、人と人との情とか、色気とか、その場の空気が撮れた。今はムードよりもリアルに全てを映し出してリポートする、そういうものに変わりました。どこかドライな感じで、セットも大きい」


家庭のテレビも大画面になって、撮影機材も4Kカメラで、明かりもLED。精密な映像を映し出すようになった。


「画面が大きいから、ちょっと引きの映像が多くなる。そうするとちょっとクールになる。東映っていうのは、衣装とかもパリッとしてきれいなものを使うので、それがどういうマッチングになるのかということは、結構考えました。カツラの結髪さんの方は、メーク部分はすごく工夫していて、ここの羽二重の技術は昔と変わらないんです。あれはやっぱり、ハリウッド映画の特殊メークよりいいなと思いました。素晴らしい技術ですよね。ハイビジョンになったり4Kになったりしたので、つなぎの素材とかもやっぱり進化していく。あとはその人の実際の毛量とか、毛の色とか、そういうのから使う毛量を変えたり、非常に工夫している。僕も、すごく意識してやりました」。


★12月還暦「自由に」


12月には60歳になる。還暦だ。


「“赤ちゃん還り”と言われているので、より自由な発想で奔放に。芝居する瞬間に縛られるものというか、枠みたいなのが自分の気持ちの中にあるんです。そういうものを取っ払って、もっと発展できるといいなと思っています」


デビューは歌手。93年に自身で作詞・作曲したロックテイストの「抱きしめたい」でデビューした。


「歌い手、ミュージシャンになりたかった。それが役者の道に入ってきたのは、当時はドラマに出るのが(歌の)プロモーションであったんです。でも、本当に経験がない。何のセオリーもないし、必勝法もなくて、自分のアンテナに引っかかる、尊敬する人っていうのを意識して勝手に学んできただけ。ドラマの現場とか全く知らないし、専門用語も、段取りも分からずに苦労しましたね」


ちょっと影がありながら、甘いテイストのイケメン。90年代は坂井真紀、清水美沙、西田ひかる、中山美穂、松下由樹、常盤貴子…光り輝くような旬の女優の恋人役にキャスティングされた。


「恋愛ものが多かった、フジテレビの『月9』(月曜午後9時枠ドラマ)とかに出るようになって、いろいろなことが分からなくなりました。今だったら割り切ってできるんですけどね。当時の自分と、どこもリンクしない役柄でした。経験がないから、自分とリンクさせて演じるしかなかったんです。でも『月9』みたいな作品は、とにかく恋愛の少女漫画の世界なんで。少女漫画の男性の役割っていうのが、当時の僕の趣味とは全く違った。時代的に、男は男に憧れる時代だった。我々の子供の頃っていうのは、武骨なものから、ちょっと洗練されてくるっていう。男は男らしくみたいな、そんな時代でね。あとは人間ドラマしか見てこなかったので、恋愛ものって、どうしたらいいのかなというところがありました」


★緒形拳さんと共演


恋愛ものに出演して「少女漫画に出てくるような男子を演じるのに、どうしたらいいの」と戸惑っていた時に出会いがあった。08年に71歳で亡くなった緒形拳さんと93年の日本テレビ系「ポケベルが鳴らなくて」で共演。言い争うシーンで、本気の平手打ちを受けた。


「すごくラッキーだった。緒形拳さんという役者さんを子供の時から好きでした。NHK大河ドラマの緒形さんが出ているシーンで、あまりの迫力に子供ながらにテレビの前で立ち止まったのを覚えてるんです。その時の緒形さんの芝居を、ものすごく覚えている。いまだに、あんな芝居はできないですけど、すごかった。萩原健一さん、松田優作さんとか、僕ら世代の少年たちが憧れた人たちより、また1つ奥にいる力強い方だと思っていました。エンターテインメントの世界の面白さを教えてもらいました」


「サラリーマン金太郎」シリーズ、「特命係長 只野仁」シリーズが代表作に挙げられる。


「両作品とも、結構いろいろな方が『好きでした』って言ってくださる。それが、ものすごくうれしい。必死で何とか面白くしようと思ってやってましたから。今度の『大岡越前』では『その役じゃないでしょう』って、結構言われたりするんですけどね。そこは、やっぱり僕も成長してるし、大人になってるんで。暴れなくてもできる芝居というかね。いろいろなものを演じてきたから、今がある。本当に、つながってるんだなと思いますね」


父親は高校の音楽教師から作曲、指揮者、母親は声楽家。17年から4年間、NHK Eテレのクラシック音楽番組「ららら♪クラシック」で司会を務めた。


「僕の場合は若い時に、家庭環境に反抗しちゃった。でも、クラシックって、すごくロングスパンじゃないですか。奥深いし、年齢によって変わってくる。大人になってみると、いろいろなことが分かってくる。番組をやらせていただいて、クラシックがすごく身近に感じるようになった。年とともに、いいなという感性が自分の中にも育ってきたんでしょう。反抗はしていたけど、尊敬はしていましたから。年齢重ねてたからという感じですか。人生経験が増えてくると、いろんなことを乗り越えてきてますからね」


型破りなサラリーマンから、特命係長を経て、大岡越前へ。どんな名裁きを、どんな芝居を見せてくれるか楽しみだ。


▼俳優永井大(46)


克典さんとは自分が駆け出しの頃にドラマ「特命係長 只野仁」シリーズでご一緒させていただき、長年相棒として隣にいさせていただきました。主役として作品に取り組む姿勢やスタッフさんへの向き合い方など、俳優として大切なことをたくさん学ばせていただきました。男から見ても色気もありますし、存在感もありますし、男らしさもあり頼りになるアニキ的存在です。


◆高橋克典(たかはし・かつのり)


1964年(昭39)12月15日生まれ、横浜市出身。93年にシングル「抱きしめたい」で歌手デビュー。同年日本テレビ系「ポケベルが鳴らなくて」、99〜04年までTBS系ドラマ「サラリーマン金太郎」シリーズに主演し、99年に映画化された。03〜12年までテレビ朝日系「特命係長・只野仁」シリーズに主演し、08年に映画化。12年には映画「アウトレイジ・ビヨンド」に出演。17〜21年にNHK Eテレ「ららら♪クラシック」のMC。175センチ、68キロ。血液型O。


◆NHK BS「大岡越前7」


全8回。高橋克典演じる江戸南町奉行・大岡忠相のエネルギッシュで人情味豊かな活躍ぶりを描く。親友の医師・榊原伊織を勝村政信、妻・雪絵を美村里江、母・妙を松原智恵子、8代将軍・徳川吉宗を徳重聡が演じる。

このニュースに関するつぶやき

  • 高橋克典は、大岡越前というよりは、遠山の金さんでしょう。東山の大岡越前を一度も観たこと無いから、その評価はわからないけど、高橋克典が大岡越前よりは遠山の金さん向きだというのはわかる。
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