朝ドラ『虎に翼』39歳俳優の“ヘの字の唇”の表現力がスゴい理由。実は一番アツい人?

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2024年06月16日 08:50  女子SPA!

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『虎に翼』©︎NHK
 ヘの字からハの字へ。その逆も然り。唇の形を変化させるだけで、桂場等一郎という裁判官の人物像を伝えてしまう。

 連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合、午前8時放送)の松山ケンイチは、出色の変幻自在ぶりである。一見、冷たい人に見えるのに、その実ジュワッと熱い人……。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、松山ケンイチの唇の変形に注目しながら、桂場等一郎役が本作で一番熱い理由を解説する。

◆感情スイッチをオフ

『虎に翼』第1週第1話。戦中に日本初の女性弁護士、戦後に裁判官となった三淵嘉子をモデルとする主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)が、瓦礫の山々をすり抜けて向かう先は、司法省人事課だった。

 人事課長・桂場等一郎(松山ケンイチ)が、持参したさつまいもをジュワッと二つに割る。ちらっとその姿が映るだけですぐにわかる。あぁ、松山ケンイチだと。

 この初登場、引きの画面で捉えられる横顔からジュワジュワ伝わる味わい深さ。そして唯一無二の存在感。寅子がたずねたとき、等一郎は、片方のさつまいもを今まさに食べようとしていた。
 
 もうすぐで大好きな(?)さつまいもをパクっとできたのに……。寅子に声をかけられ、にこっと笑顔を固定した状態から無表情に一瞬で切り替わる。なるほど、本作の松山は基本的に感情スイッチをオフにするらしい。

◆ヘの字からハの字へ

 そんな松山扮する等一郎を内面的にも外面的にも象徴しているのが、固く結ばれたヘの字の唇だ。裁判官としての威厳なのか、気難しい性格上なのか、彼は終始、口角の左をやや下げて、右から左へ、きれいなヘの字ラインを描く。

 徹底的に取り付く島がない人物像が浮かぶのだが、唯一、甘い物を食べる瞬間だけは、武装を解除する。第5話、その後、寅子が明律大学の学友たちと足繁く通う御茶ノ水の甘味処、竹もとでの場面。等一郎があんこ団子を食べようと、口を開く。

 固いヘの字がゆるんで、唇がまるで小高い丘のようなハの字になる。ヘの字からハの字へ。法律についての議論以外はほとんど口を開かない等一郎だが、この瞬間ばかりは、実に豊かに唇を変形させる。

◆変幻自在の俳優

 その豊かな変形を松山ケンイチが演じるからより面白く写る。第1話冒頭のさつまいも同様に、竹もとでも寸止めをくらう。寅子が法学の道へ進むべきか、教えを請うてきたのだ。

 対して等一郎は「女子部進学には反対だ」と語気を強める。ほとんど諦めさせるようなその口ぶり。そこへ登場したのが、寅子の母・猪爪はる(石田ゆり子)だ。娘への厳しい態度に腹を立てて等一郎を叱りつけるのだが、驚いた等一郎が、「お母さん?」と上ずった声で「ん」を強調し、口角の左右両方を下げ、これまたきれいなハの字を結ぶ。

 ほんと変幻自在の俳優だ。猪爪家の書生・佐田優三役の仲野太賀や寅子の学友・花岡悟を演じる岩田剛典など、本作は男性俳優陣の名演も目立つが、松山の名調子は出色。

◆均衡が崩れる等一郎の人間味

 寅子の父・猪爪直言(岡部たかし)が逮捕された裁判公判を描く第5週では、裁判官のひとりとして居並ぶ。傍聴席の寅子と裁判官席の等一郎が顔を合わせるのは、竹もと以来。

 いつも通りのヘの字顔。どこまでもぶれない。それだけに等一郎は、法の下での均衡を乱すことを許さない。被告人席の直言に対して威圧的に牽制する検察官・日和田(堀部圭亮)の暴虐を放ってはおかない。日和田の背後にいる強大な権力にも屈しない。

 実は不屈の精神をたぎらせる熱い人でもある。直言たち被告人に無罪を下した判決文を書いたのが、等一郎その人で、弁護を担当した穂高重親(小林薫)から酒の席でほめられる。

 まんざらでもない様子の等一郎は、酔に任せて立ち上がり、司法に踏み込もうとしてくる輩に対する怒りをあらわにする。感情が高ぶって、いつものヘの字の均衡が崩れる等一郎の人間味もまた魅力的ではないか。

◆衝立越しに男性の肩……

 人間味というと、ちょっとアグレッシブ過ぎるんじゃないかとたまに心配になる寅子にまさる人はいない。でもだから、寅子の熱量に対して、一見冷めたように感じられる等一郎という存在が際立つ。

 弁護士になってからの寅子はなかなかうまくいかないことのほうが多い。そんなとき、書生から夫になった優三が側で手放しに温めてくれる。それでも外(社会)の肌寒さが身にしみて、妊娠による体調の悪さも重なってどうも心が冷たくなる。すると必ず等一郎がヌッと顔をのぞかせる。

 戦時下の風が吹く第8週第37回。閉店が決まった竹もとで、重圧に耐えられなくなった先輩・久保田聡子((小林涼子)から弁護士を辞めると告げられ、婦人弁護士の同志が減ったことを侘びしく思う寅子。彼女が座る席の奥の座敷席、衝立越しに男性の肩……。あぁ、等一郎だなと思ったら、やっぱりそう。

◆本作で一番熱い人

 微動だにせずとも肩で主張してしまう松山ケンイチ。おあずけになっていた団子を頬張る等一郎。早替えのように目まぐるしいハの字からヘの字へ。明律大学の講演に呼んでくれた穂高と寅子が言い合うときにも部屋の外で静かに等一郎は腕組みして仁王立ち。

 静かだけれど、なんだか熱いものを感じる。本作で一番熱い人は、松山ケンイチ扮する、この桂場等一郎なのかもしれない。学者としての含蓄は確かだが、どうもトンチンカンな了見で寅子を腹立たせてしまう穂高の一方で、冷血漢に見える等一郎が実は寅子の理解者なのだ。

 第10週第46回、戦後1947年、家族を養うために職を得ようと寅子が司法省に赴く。ここで第1話冒頭場面に接続される。取り合おうとしない等一郎をもろともせずに食い下がる寅子。

 彼女の態度を気に入った民法調査室の主任・久藤頼安(沢村一樹)の口添えで寅子は、事務官として働くことになるが、どうも彼女は無の感情になる「スンッ」状態に陥り、なかなか実力を発揮できない。そんな彼女を見て、等一郎は直接的な助け舟を出すわけではない。でも彼は彼女が再起する瞬間を待っている。

 第49話、またしてもトンチンカンな穂高によって寅子が覚醒の「はて」を連発する。寅子の後ろにじっと立っている等一郎が、ハッとした顔をする。

 その直前には休憩中に甘い物を食べようとして、またしても寅子が話しかけてきて寸止めをくらっているというのに。やっぱり熱い人である。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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  • 寅ちゃんとのご縁がある意味凄い人…。
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