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アルバイト情報サイト「マイナビバイト」(運営:マイナビ)が、2024年3月に始めた取り組み「座ってイイッス PROJECT」が好調だ。
体に負担がかかりやすい仕事中の“立ちっぱなし”問題の解決を目指し、座れるアルバイトを増やすことによって、従業員・雇用主双方にとって快適な環境を整備することを目的としている。
同プロジェクトの実施にあたり、マイナビでは折りたたみイスなどを製作するSANKEI社とオリジナルのイス「マイナビバイトチェア」を共同開発。1脚1万9800円(送料別)で、1脚単位で販売している。
マイナビの呼びかけにより、ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)やエービーシー・マートなど6社がプロジェクトの第一弾に参加。各社の店舗にマイナビバイトチェアを試験導入している。
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マイナビによると、同プロジェクトの発表後、小売店や飲食店など120社以上から問い合わせがあり、6月中旬時点で参加企業は9社に拡大。今後、さらに参加企業が増える見込みだという。
“座って接客”は、どんな効果を生むのか。プロジェクト参加企業へのアンケート結果や反響をマイナビに聞いた。
●姿勢よく座れるコンパクトなイス
マイナビバイトチェアの開発が始まったのは、2023年の夏ごろ。協力会社から「接客業務中に座れるイスを開発してはどうか」と提案されたことがきっかけだった。
「海外でレジ業務中に座っている従業員を見かけたとのことで、求職者の方の可能性を広げる施策として提案がありました。お付き合いのある企業にニーズをヒアリングしたところ、『従業員向けの働き方改革として良さそうですね』と好感触で、やってみようとなりました」(デジタルテクノロジー戦略本部 進学・バイトプロモーションチーム チーム長 鈴木里彩子氏)
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そこで数社のパイプイスメーカーに声をかけたところ、SANKEI社と意気投合し、共同製作にいたった。製作時にこだわったのは、「安定感」と「サイズ」のバランスだという。
「体格差があっても座りやすいよう社内の複数名が実際に座って、使用感を確かめました。最も重視したのは『安全性』で、転倒などの事故が発生しないよう安定して座れる幅のあるクッションや滑りづらい素材を採用しました。その上でなるべくコンパクトにして、重ねての収納もできます」(アルバイト情報事業本部 事業推進課 南波直樹氏)
マイナビバイトチェアは高さの調整が可能で、座面が斜めになっている。背筋を伸ばした姿勢で座りやすく、立ったり座ったりしやすくなっている。
基本的には業務中に座って使用することを想定しているが、立ち姿勢でイスを前に置いて、寄りかかることも可能だという。通常の立ち姿勢より、体の負担が軽減されるそうだ。
●想定を超える120社以上から問い合わせ
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本プロジェクトの開始にあたり、マイナビが付き合いのある約30社に参加を促したところ、賛同したのは、PPIHや三井不動産商業マネジメントなど6社だった。
「働き方改革を積極的に推進したい企業を中心に参加いただきました。参加を見送った企業は『第一弾として導入するのは不安だから、ひとまず様子を見たい』という理由が大半でした」(鈴木氏)
マイナビが接客業務のあるパート・アルバイトを雇用している雇用主300人に調査した結果では、73.3%が「パート・アルバイトが接客中にイスに座っても良い」と回答した。一方で、常時座っての接客を許可しているのは23.3%にとどまっている。
座っての接客を導入しない理由は、「お客さんからの印象悪化を防ぐため」が33.8%で最も多い。一方で「なんとなく・理由はない」(25.6%)、「変えるきっかけがない」(12.8%)など明確な理由がないケースも少なくないようだ。
マイナビでは、3月末ごろに参加企業にトータル100脚ほどのマイナビバイトチェアを納品。導入企業は現在も座っての接客を継続している。プロジェクトの発表後は、世間の反応の大きさに驚いているという。
「予想をはるかに上回る反応があり、これまでに120社以上から問い合わせがありました。職種や業種も幅広く、小売店や飲食店を中心に製造業、警備、受付などさまざまです」(鈴木氏)
「Web媒体だけでなく、テレビ番組でも取り上げられたことで認知が広がったように思います。大手企業に参加いただいた影響も大きかったですね」(南波氏)
SNSでも反響が大きく、賛同している投稿が多く見られた。中には「背もたれ付きのイスにして、もっとラクに働いてほしい」という声もあった。
●働き手の約7割が「満足」と回答
マイナビでは、本プロジェクトの参加企業にアンケート調査を実施。その結果、座って働くことに対して68%が「とても良い」または「良い」と回答した。
座って働くメリットとして、「負担が軽減された」「働きやすくなった」という声が多かった。特に、生理痛や腰痛に悩む人は、「座って働くこと」を強く希望していたという。「思ったより顧客から否定的な意見がなくて、ほっとした」という声もあった。
一方、ネガティブな意見として「直接言われたわけではないが、顧客の視線を感じた」「忙しいときはイスが邪魔になる」などがあがった。
働く環境を改善することでアルバイトの採用がしやすくなったり、アルバイトが定着したりなど変化は見られたのか。この質問に対し、プロジェクト開始から約2カ月の現時点で「変化は見られていない」とのこと。
ただ「座って働けることは求職者にとって魅力になり得るので、今後アルバイトやパートの応募数に変化がある可能性はある」と南波氏は話した。
●業務中に「水を飲みたい」という声も
鈴木氏は、引き続きマイナビバイトチェアの導入を進めていくとともに、新たな職場環境の改善策にも着手したいと話す。現在、同プロジェクトの特設ページを通じて消費者からの意見を求めており、想定以上の意見が集まっているそうだ。
「切実なご意見が多く届いています。『ぜひとも座って働きたい』という声に加え、改善してほしい点として目立つのは、『業務中に水分補給がしたい』という声です」(鈴木氏)
実態は分からないが、これだけの声があるということは、接客対応中でなくとも、売り場にいる際は水分補給が難しい事情があるのかもしれない。
「休憩時間を十分に確保するといったコンプライアンスは守られているはずですが、“お客さまは神様”といった価値観が根強いためか、顧客の目がある場での水分補給が禁止されているのかもしれません。もちろん一定の礼儀は重要ですが、過剰になる必要はないのではと思いますね」(南波氏)
今回、座ってイイッス PROJECTを通じて、「接客中に座ってもいいのではないか」と一石を投じたマイナビ。世間の反応を見る限り、「座っての接客」は受け入れる傾向が強く、今後より広がっていく可能性がある。「引き続きより良い職場環境のために、これまで当たり前とされてきた概念を変えるような取り組みをしていきたい」と南波氏は締めくくった。
(小林香織)
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