「環境に甘えたら悔しさを忘れる」と強い危機感 欧州で指導者転身後も貫く岡崎慎司の矜持

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2024年06月18日 13:03  サッカーキング

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17日に引退会見を行った岡崎慎司 [写真]=STVV
 日本代表で119試合出場50ゴール、クラブレベルでは2005年から2024年までの20年間で550試合超の公式戦に出場し、122得点を記録した岡崎慎司が、2023−24シーズン限りで現役生活に終止符を打ち、17日に引退会見を実施した。長いキャリアを振り返るとともに、ドイツ6部のバサラ・マインツの監督として指導者人生をスタートさせることを明らかにした。

 清水エスパルスを皮切りに、シュトゥットガルト、マインツ、レスター、ウエスカ、カルタヘナ、シント・トロイデンと5カ国7クラブでプレーし、マインツ在籍時にはブンデスリーガ2年連続2ケタ得点、レスター在籍時ではプレミアリーグ制覇など数々の偉業を達成した岡崎。しかし、つねに高い領域を追い求めていた彼は「何かが足りない」「もっとできる」と決して満足することはなかったという。

「自分の選手生活は後悔だらけ。ワールドカップ優勝、北京オリンピック、プレミア2ケタ得点、セリエAを含めて4大リーグでプレーする…と、口にした目標はほとんど達成できていない。40歳までプレーしたいという最後の目標もあったが、それも果たせなかった。代表でも歴史的なゴールも取れていない」と、口を突いて出るのは反省や悔恨の念ばかり。そこまで貪欲に高みを目指し続けられる人間はそうそういない。

 本田圭佑、長友佑都など同期はメンタルモンスター揃いだが、よく考えてみると、一番のメンタルモンスターは岡崎だったのかもしれない。

「ワールドカップ3大会に出て、50ゴールを取ったと言われること自体も悔しいですね。すごくひねくれている考え方かもしれないけど、そのメンタリティがそういう記録につながったのかな」と、本人も反骨心でここまで成り上がったという自負があるようだ。

 思い返せば、岡崎より“うまい選手”、“才能ある選手”は数多くいた。同世代で言えば、平山相太、興梠慎三、森本貴幸など、早くから才能を高く評価された逸材はいたが、“うまい”という言葉とは程遠かった岡崎が突き抜けた。その秘密はすさまじい負けず嫌いのマインドと、頭抜けたサッカーへの探求心、向上心にあるのだろう。

 滝川第二高校時代の恩師、黒田和生監督も「岡崎はサッカーが大好き。その気持ちだけは誰にも負けないし、うまくなるためにはどんな努力もできる人間」と太鼓判を押す。それが高校を出てから20年も続いたのだから、頭が下がる。岡崎のような選手を数多く出せれば、日本サッカー界もより一層、世界トップに近づいていくことにつながるだろう。

 来シーズンからバサラ・マインツで采配を振るうことになる岡崎には、その役目を遂行する責務がある。

「引退会見の前に10日間、イングランドでUEFAのB級ライセンス講習会を受けてきましたけど、僕は感覚で生きてきた人間。指導者になれば、1から説明できなければいけないので、これまでとは全然違いますけど、それもまた面白い。選手は引退に向かう中で、できないことを省いていく作業が多い。僕自身もスペシャルな部分を特化していくことに時間をかけてきましたけど、今度は選手になって最初にやったように、いろいろなものを吸収していく段階。それが始まったことにワクワクしますし、反骨精神で生きてきた自分が壁にぶつかったこと自体、スタートとしてはまずまずなのかなと感じます」

 岡崎は心機一転、フレッシュな気持ちで新たな一歩に踏み出したところ。英語堪能な川島永嗣や吉田麻也ならば、イングランドサッカー協会主催のライセンス講習会に参加しても、指導実践や講義の初弁をスムーズにこなせるのかもしれないが、彼の場合はどうしても難易度が上がるだろう。

 それでも「壁が高ければ高いほど、闘争心が湧いてくる」というこの男なら、どういったハードルでも越えられるはず。現在、UEFAのB級を受けている岡崎が最高峰のUEFAプロライセンスを取得するまでには5〜10年はかかるという見方が一般的だが、それをやり遂げれば、ヨーロッパで指揮官になる道は必ず開けてくるはずだ。

 同じタイミングで現役を引退した長谷部誠はフランクフルトU−21のコーチとしてスタートするから、一歩前を走っていると言える。ただ、最初から監督としてスタートできる岡崎の方がいい環境にいるという見方もできる。トップ指導者を目指す彼らの5年後の動向をまずは注視したい。

 そして最終的に岡崎は「日本代表監督としてワールドカップ優勝」を目指す覚悟だ。選手時代は口にした目標のほとんどを達成できなかった分、指導者になってからは公言したことを実現していってほしい。

 そのタイミングが訪れるとしたら、2034年、2038年ワールドカップあたりかもしれない。いずれにしても、「ヨーロッパで実績を挙げた日本人指揮官が満を持して日本代表監督に就任し、堂々と世界一を狙う」に状況になれば理想的。前例のない道を自らの力で切り拓き、満足いく監督キャリアをつかむべく、現役時代以上のタフさと貪欲さ、粘り強さを示し続けてほしい。

取材・文=元川悦子

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