『with MUSIC』低迷の理由は“出演者”ではない?世界的に音楽番組が「衰退の一途」を辿っているワケ

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2024年06月26日 09:10  日刊SPA!

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日本テレビ公式サイトより
◆『with MUSIC』不調の理由は?
 日本テレビ系の音楽番組『with MUSIC』(土曜19:56〜20:54放送)が不調です。コア視聴率(13〜49歳男女の視聴率)が振るわないどころか、出演を拒否するアーティストもいるのだそう。(FRIDAYデジタル 2024年6月24日)

 そこでやり玉に挙がっているのが、司会を務める有働由美子と松下洸平です。特に有働アナに対しては厳しい声が。“音楽に興味がないのがバレバレ”とか“アーティストと話が噛み合っていない”と、散々な言われようです。

 他にも音楽とトークのどちらを見せたいのかわからない中途半端な番組構成に疑問を呈する意見も多く、放送開始から2ヶ月が経過した今も方向性が見出だせない状況です。

◆アメリカやイギリスでさえ、音楽番組は衰退している

 では、指摘されているように、司会をもっと音楽に詳しくしゃべりの上手い人にしたり、構成を変えたりすれば、みんな『with MUSIC』を見るようになるのでしょうか? 筆者にはそう思えません。

 というのも、日本と同じ様に大きな音楽市場を有するアメリカやイギリスでさえ、音楽番組は衰退しているからです。これは産業のサイクルとして、抗えない流れなのではないでしょうか?

 アメリカではその兆しが10年前にあらわれていました。平均視聴者数3000万だった人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』が、2014年5月6日の放送では700万に激減。そして全盛時には12.6を誇った視聴率も、1.7と衝撃の数字を叩き出してしまったのです。

 そしてここでも音楽番組がコア視聴率を稼げないことが明らかになります。平均視聴年齢が32歳だったものが、2014年時には52歳に。これは全く新規の若い客を獲得できていないことを意味します。(The New York Times 2014年5月11日)

 2002年の放送開始からいまも続く長寿番組ではありますが、年々影響力は低下。近年ではケリー・クラークソンやキャリー・アンダーウッドのようなスターを輩出することもなくなりました。

 若年層のテレビ離れと、音楽を提供するプラットフォームが多様化したことによる、複合的な要因だと考えられています。

◆もはや音楽はテレビから知る時代ではない

 イギリスでは公共放送のチャンネル4がミュージックビデオを放映する『The Box』、『Kerrang!』などの4番組を終了すると発表しました。予算削減の一環としての決定です。英ガーディアン紙は関連するコラムで、音楽専門番組を取り巻く現状について、こう書いています。

<2020年代においてそのような形式の番組を見ても気が滅入るだけだ。(中略)イギリスでの生活にまつわる多くの物事と同様に、そこには愛情もなければ、退職した人々に対する退屈なサービスのような形で、みすぼらしく運営されているのである。>(The Guardian 2024年6月6日)

 TikTokなどで若者が楽曲そのものに直に、そして反射的に創造性を発揮するインタラクティブな形でミュージックビデオを受容している時代に、ただテレビの前に座って音楽を受け身で見ることに、どれだけの楽しみがあるだろうか、と言っているのですね。

 以上、アメリカとイギリスでの傾向からも明らかなように、そもそも『with MUSIC』のような形式の番組が新たに作られることが望まれていない時代なのだということが想像できます。

『with MUSIC』がライバル視している『MUSIC STATION』(テレビ朝日系)がなぜ強いのかといえば、それは長くやっているからというだけの話なのではないでしょうか。言ってしまえば、惰性の強さなのです。特別タモリが面白いわけでもなければ、素晴らしい楽曲をハイクオリティな演奏や音質で放映しているわけでもない。

 ここ数年で音楽番組の数は増えていますが、決してその価値が高まったとは言えない状況です。

◆音楽との向き合い方はどのように変化したか

 とはいえ、音楽そのものへの関心が全くなくなったわけではありません。ガーディアンのコラムでも言われているように、TikTokなどでは若者が過去のヒット曲を独自の解釈によって再構築してバズらせている。日本なら、「もう恋なんてしない」(槇原敬之)や「すごい速さ」(andymori)が掘り出されたように。

 そして、世界的に楽器の売上も伸びている。昨年6月には、原宿にアメリカのギターメーカー、フェンダーの旗艦店がオープンしたのも記憶に新しいところです。楽器を手にし、演奏する人が増えているのです。

 こうした流れからうかがえることは、もはや音楽は聞くだけのものではなくなった、ということなのではないでしょうか。視聴者や聞く人の創造性を刺激する溶媒となり、彼らのアクションを後押しする。いわば中間のメディアとしてこそ輝くのが、いまの音楽なのだと思います。

 だから、『with MUSIC』の不振は出演者だけのせいではないのです。レコードやCDが売れていた時代の幻影を追うことが時代とはミスマッチなのです。それを動画再生回数やストリーミング数で言い換えても同じこと。

 音楽を聞く(聞かせる)ことは通過点にすぎない。その認識が、これからの音楽番組に求められているのだと思います。

文/石黒隆之

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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  • 90年代初めテレ東放送の新星堂提供のエバーグリーンミュージック、至高の音楽番組だった。再放送でいいからもう一度見たい。良質な音楽番組のお手本でした。
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