「お笑いは習い事の感覚に近かった」まえだまえだ弟・前田旺志郎が俳優の道を志したきっかけを語る

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2024年06月26日 16:20  女子SPA!

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 2007年に兄・前田航基と「まえだまえだ」を結成し、なんとM-1グランプリの準決勝まで進出してしまう。当時小学生だった前田旺志郎は、コンビ結成前からすでに子役としてキャリアをスタートしている。

 芸歴は20年。そんな節目に出演した映画『からかい上手の高木さん』が、5月31日から全国で公開されている。主演の永野芽郁と高橋文哉のかたわらで、島育ちの快活で闊達な青年を好演している。

イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、本作の前田旺志郎さんにインタビュー。本作で浜口役を演じた感想や「究極の芝居の境地にいた」と話す過去作について聞いた。

◆まっすぐな感情の動きでピュアに演じられた

――ラブコメ漫画を原作とするいわゆる“きらきら映画”を久しぶりに楽しんだ気分です。『愛がなんだ』(2019年)の今泉力哉監督の演出力もあり、2020年代仕様の新鮮なラブコメ映画という感じでした。

前田:まっすぐな感情の動きでピュアに演じられた気がします。自分が演じてる楽しさを感じられました。小豆島ロケで、同世代のキャストが集まる。休憩時間やオフの時間にはみんなで団欒。フレームの外でも青春でしたね。

――島でのオフ時間は何か面白いことがありましたか?

前田:島をまわっていると、「これ、めっちゃおもろい!」と思ったことがあります。100円ショップに鮮魚が売っていたんです(笑)。

――え!?

前田:100均といってもなんでもあるんです。その中にパック詰めされた鮮魚が売っていて、スーパーと100均が合体したようなお店でした。どこにいても海が近い島ですから。東京ではありえないことですよね。

僕が演じた浜口は、根っからの島育ちです。浜口だけでなく同級生のほとんどが町から出ずに大人になっていきます。隣町もありません。大人になっても同じ顔見知りがずっといるこの雰囲気は、特別だなと思いました。

◆どれだけその役を信じられるかを大切にしている

――浜口の初登場は、同級生たちが集まった居酒屋場面です。ピントはあっていませんが画面手前に浜口がいるとすぐにわかります。キャラクターを瞬時に把握できるような初登場のワンショットだなと思いましたが、キャラクターを掴む工夫を教えてください。

前田:初見では、なかなか理解できないカモと思う役柄も時にはありますが、でも、普段生活していると「いや、嘘やん」と驚かされる人が意外とたくさんいます。

こんな人いるはずないと思ってしまうと、どうしても自分の芝居と役との間に距離が生まれてしまいます。自分とのギャップがある役でも、現場に入るときはなるべく疑わず、ちゃんと愛情を持って接する。

そこから新しい情報がいろいろ出てきて、こういう人もいるなと思えると、距離感はギュッと縮まります。最近はどれだけその役を信じられるかを大切にしています。

――日常レベルでも先入観で「あの人はこういう人だ!」と決めつけてしまうと、その人の性格や魅力を限定してしまいますね。

前田:そうですね。お芝居の中のリアルと現実のリアルは違いますが、お芝居だから限定していいわけではありません。いろんな可能性を探って、思考を止めないことが大事だなと思います。

――浜口との距離感はどうでしたか?

前田:すごい近かったです(笑)。僕も学生時代、おちゃらけキャラで、近い部分がありました。

でも僕は島育ちではありませんから、生まれ育った環境に大きな違いがあります。脚本の中のヒントを掴みつつ、キャラクターと前田旺志郎のアイデンティティを近寄らせ、接点を見つけ、たぐり寄せる感覚でした。

◆是枝裕和監督作品では「究極の芝居の境地にいた」

――過去作についても教えてください。やはり小学3年生のときの初主演映画『奇跡』(2010年)について聞かなくては思います。同作の現場は学びが多かったですか?

前田:『奇跡』の現場では、自分は役者という認識がそこまであったわけではありません。初主演作とはいえ、台本もありませんでした。

――台本が用意されていないのは、是枝裕和監督特有の演出ですね。

前田:毎日、どこでどういう撮影をするのか、現場に行くまで明かされませんでした。一つの役として繋がっているのか。それは是枝監督の頭の中だけで描かれていることで、シーンごとの監督からの演出に対して僕はその場で感じた瞬発力で演じました。

今現在の感覚だと、最終的にどういう作品になるのかわからないというスリリングな演技体験でしたが、究極の形だったと思うんです。

――というと?

前田:あの時の自分は、究極の芝居の境地にいた感覚があります。演じるというよりも、役としてフラットにその場に存在していた。それが原体験にあり、その後さまざまな現場で経験して積まれていくものもあれば、逆に経験して失われていくものもたくさんありました。

上手くなるって大切なことではありますが、芝居の良い悪いと、上手い下手は別軸にあります。どれだけセリフが棒読みでも良い芝居をすれば、それは大正解。一方で、上手いは技術に偏った感想だと思うので、「うわぁ良いな」と思われる役者になっていきたいです。

それにはやっぱり当時のあの感覚は大切で、常に僕の指針であり、目指すべきところです。原体験に近づいていかなければという気持ちが強いです。

――その後、同じく是枝監督の『海街diary』(2015年)にも出演していています。同作は中学生のときでした。『奇跡』が原体験。同じ監督の元で、多感な時期に年齢を重ねるのは面白い経験ですね。

前田:是枝監督の作品にまた出られたことがすごく嬉しかったです。『海街diary』のときは、多少なりとも他の現場でもちょこちょこ経験していましたが、やはりその場で言われたことに対して瞬発力を働かせようという感覚に戻った感じでした。

◆「間違ってなかった」と感じた分岐点

――『海街diary』を見返してみると、浜口とのちょっとした共通点がありました。どちらも初登場場面で、画面の下手からパッと出てきて、すぐにフレームアウトするんです。

前田:なるほど!

――芸歴が長いからこそ、作品ごとの共通点が見つかるんですが、自分は俳優だなと思ったのはどのあたりからですか?

前田:高校受験がきっかけです。僕は中学まで大阪にいました。中学2年か3年に上がるタイミングで、両親からこの先どうするのか聞かれ、芸能を続けていくなら、もうそろそろ上京すべきではないのかと。

それまでは単に楽しいくらいの感覚でした。仕事だからとか、この先ずっとやっていく感覚はありませんでした。でもそのときに初めて自分の人生を大きく決める選択を突きつけられて、すごく迷いました。今でも毎年、年越しは大阪に帰って友達の家族と過ごすくらい、僕は地元が大好きです。彼らと離れるのが寂しくて、大阪を出るというのは大きな決断でした。

でも、何かわからないけど、俳優というのはすごく楽しい気がする。「ここで辞めるのはもったいないかも」と思って、東京に出て続ける旨を両親に伝えて、上京しました。そこから作品に対する向き合い方が変わりました。自分で選んだ道という、今までとは違う新しいところからスタートして、しかもそれが仕事だという感覚が強くなりました。

高校に入ってから役について考える時間は格段に増えましたし、考えれば考えるとほど、現場に行った時がさらに楽しくなりました。「うわぁ、やっぱり間違ってなかった」と感じた分岐点でした。

――大学は総合政策学部。美大や芸大は考えなかったんですか?

前田:高校を卒業して芸術系の大学に行くのか、あるいは仕事一本にするのかとなったとき、いろんなものを見たいという好奇心が勝りました。総合政策学部はあまり専門性がなく、個人個人がみんなやりたい研究をやるという学部です。

いろんな職業、価値観、世界に触れて、もっと視野を広げて、その上で俳優を楽しいと思いたかったんです。

――早稲田大学の是枝ゼミでも面白そうでしたね。

前田:確かにそうですね(笑)。

◆芸能生活20年の節目

――2007年には兄の航基さんと「まえだまえだ」を結成し、その年のM-1グランプリでは史上最年少で準決勝に進出しました。同グランプリ以降はお笑い芸人という選択肢はあったんですか?

前田:小学生当時の認識では、仕事というよりどちらかというと習い事の感覚に近かったように思います。芸人という選択肢もあるなとか、そもそもそういうことをはっきり考えられる年齢ではありませんでした。いつまでやると決めていたわけでもありませんでした。オファーをいただいて、それは楽しいから続けていた。それが当時の率直な気持ちです。

――芸人的な要素を演技に入れてやろうという気持ちもなかったですか?

前田:それはもう全然なかったですね。

――ここまで話を聞いていて、芸歴の厚みを感じました。もう20年ですね。

前田:子役時代から考えると、ちょうど20年になります。

――20年の節目を迎えて、挑戦したいジャンルはありますか?

前田:自分の性格と遠い役をどんどんやっていきたいです。今回もそうですが、役柄というより役が育ってきた環境など、さまざまな世界を作品の中で擬似体験できるのがこの仕事の魅力です。

学生役なども今はやらせていただくことが多いですけど、特定の職業についてみたいなと思いますし、犯人や悪役であったり、葛藤を抱えている青年であったり、いろいろな方向性の役を吸収したいです。まだまだ経験は足りず、芸歴20年という感覚で僕はやっていないので、さらに20年後、もっともっと大きくなっていたらいいなと思います。

<取材・文/加賀谷健 撮影/鈴木大喜>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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