朝ドラ『虎に翼』戦災孤児を演じる18歳俳優の“危うげな魅力”に注目集まる。過去作からわかる早熟な才能とは

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2024年06月28日 09:20  女子SPA!

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『虎に翼』©︎NHK
『虎に翼』(NHK総合)では、松山ケンイチ、岩田剛典、仲野太賀など、実に芸達者な男性俳優が作品を彩ってきた。

 第12週からは、豊かな才能を持った俳優が戦災孤児役で登場している。和田庵という新人俳優の名前が、こうして多くの視聴者に知られることは、喜ばしい。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が、過去作との共通点から和田庵の演技を解説する。

◆元締めのような少年がひとり

 戦後の日本には12万人もの戦災孤児がいた。上野駅の地下道は、孤児たちで溢れかえった。警察は彼らを「浮浪児」として取り締まり、『虎に翼』では「戦災孤児問題はその後20年近く」とナレーションで説明されている。

 孤児たちは、靴磨きで日銭を稼ぐ者が多かったが、中には、窃盗を働かなくては食べ物をろくに得られない者までいた。第12週第56回では、家庭裁判所設立にこぎつけた家庭局の主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)たちが、上野を視察中、小橋浩之(名村辰)がスリにあう。

 スリの少年が一目散に走り去る。寅子が追っていった先には、少年たちを束ねる元締めのような少年がひとり。でも見た目は十分大人にも見える。少年の名は、道男(和田庵)。

◆戦後の実情を描くには……

 道男が出入りしていたのは、寅子の学友・山田よね(土居志央梨)が働いていたカフェだった。今は轟太一(戸塚純貴)とともに開いた法律事務所になっている。よねと轟は、孤児たちの面倒を見ていた。

 その様子を初めて目の当たりにした寅子は、少年部と家事部の機能をあわせ持つ家庭裁判所の課題をつきつけられる。寅子との再会を喜べないよねは、孤児たちを犯罪者のように取り締まる行政をまったく信用していない。

 第12週では、孤児たちの悲惨なあり様が描かれる。でもなにせ朝ドラは1回が15分。1週間で5回と限りがある。戦災孤児に目を向け、戦後の実情を描くには、尺が足りないことは否めない。

◆戦災孤児を引き取った巨匠監督

 そのため、ナレーションによる説明は、他の回より詳細なものとなるが、困窮する戦災孤児の現実を描写するのは、やはり難しい印象がある。そこでひとつの補助線として、1948年に公開された戦災孤児映画の傑作『蜂の巣の子供たち』を紹介しておきたい。

 同作冒頭、島村俊作扮する復員兵の元に戦災孤児たちがやって来る。兵士はポケットから取り出したパンを一人ひとりに与える。でもまたすぐに子どもたちは戻ってくる。聞けば、食べかけではないパンだとすべて「兄貴」に渡さなければいけないと言うのだ。

 子どもたちが「兄貴」と呼ぶ男は、『虎に翼』の道男のような人物かと思ったら、負傷した元兵士だった。それで復員兵は、りんごをふたつにわけて子どもたちに再び与える。その場でりんごをかじる子どもたちは、実は、子役ではなく、戦災孤児が本人役で出演しているのだから驚く。

 監督の清水宏は、日本映画界の巨匠だが、戦後は孤児たちを引き取った人。彼らとともに「蜂の巣映画部」という独立プロダクションを設立し、戦後第1作が、『蜂の巣の子供たち』だった。作品尺は84分。『虎に翼』の1週分とほとんど同じ。比べられるものではないけれど、同じ戦災孤児を扱う映像作品でも現実味がまるで異なる。

◆揺らぎを開示していく和田庵の演技

 でもそんな尺と描写の不足を補って余りある存在がいる。文頭で紹介した、孤児たちの元締め的な役回りを担う少年リーダー・道男を演じる和田庵だ。多くの魅力的な男性俳優が出演してきた本作だが、彼らと入れ替わるように登場した和田は、これまでの俳優陣とはひと味違う。

 現在18歳。実年齢より少し年少の役柄だが、時代を問わず10代の少年が抱える感情を画面上で見事な揺らぎとして具現化している。道男は、結局猪爪家で引き取られる。一時的な委託保護とは言え、猪爪家の男性にはない不良的な雰囲気の道男は、なかなか受け入れられない。

 そこで猪爪はる(石田ゆり子)が「泊めてあげなさい」と言って、率先して愛情を注ぐうちに、道男の心も徐々に開いていく。第58回では、盗みを働こうとした道男にはるがうまく対処し、その晩の夕食では、すっかり祖母と孫のような関係がにじむ。

 が、寅子と猪爪直明(三山凌輝)が留守の間、猪爪花江(森田望智)に心惹かれた道男が、危うく一線を越えてしまいそうになる。年頃である。これは大きな懸念でもあったが、ちょっと展開としては急だなとも思った。ただやはり戦災孤児の少年の揺らぎを一つひとつ開示していく和田の演技には、急な場面展開をもカバーする力があるように思う。

◆過去作で共通して演じてきた役柄

 和田庵は、鈴木亮平がゲイ男性に扮した力作『エゴイスト』(2023年)で、中学生時代を演じている。同作冒頭で、同級生たちから差別的な発言を浴びせられる瞬間の表情がクローズアップで生々しく捉えられる。

 あるいは、『虎に翼』でナレーションを担当する尾野真千子主演の『茜色に焼かれる』(2021年)でもやはり同級生から酷い罵倒を受ける少年を演じている。和田はその都度、役柄を通じて過酷な現実と丁寧に向き合うように感情を動かしているように見える。それが危うげだけれど、力強くもあり、かつ繊細。

 同作の監督である石井裕也は、「和製リバー・フェニックス」と評したが、これは納得出来た。『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)でキアヌ・リーブスと共演して、ゲイ男性の苦悩を画面からこぼれてしまうほどの危うげな魅力で演じたリバー・フェニックスと和田は確かに共通する雰囲気があるからだ。

 和田にとっては、『虎に翼』が間違いなくブレイク作になるのだろうけれど、過去作で共通して演じてきた役柄が、和田の中で生き続け、次の役へバトンをつなぐ。その渡し方が揺らぐことはない。早熟の才能を感じずにはいられない。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
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