パリオリンピック男子バレー 日本を守備で支える山本智大はなぜいつも笑っていられるのか

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2024年08月02日 07:20  webスポルティーバ

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「(スパイクを)いつも『打ってこい』って思っていますね」 

 リベロの山本智大は楽しそうに言う。守備専門のポジションの矜持(きょうじ)か。大砲のような一撃を放つスパイカーを躊躇わせる。そのディグ(スパイクレシーブ)は、世界でも1、2を争う。

「緊張はしないですね。プレッシャーも含めて楽しめるタイプなんで。だから、そういう時には周りに声をかけたり、"いつもどおりいこうぜ"って言っていますね。コートでは自分だけじゃないので。バレーボールは、みんなで協力して勝つスポーツだから」
 
 ディグのスキルは飛び抜けているが、驕りはない。彼の防御の真骨頂は、周りを使い、使われる点にある。そうしてスパイクを誘い込み、荒れ狂うボールを手なずけてしまう。

 その瞬間、彼は込み上げる笑いを堪えられないように映る。

 7月31日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール予選で、日本はアルゼンチンを3−1と破っている。ドイツ戦の黒星を挽回するように1勝1敗とした。次戦、アメリカ戦に決勝トーナメント進出をかけることになった。

 そのアルゼンチン戦でチームを支えていたのが、リベロの山本だ。

 山本は試合前から、コートで誰よりも笑顔だった。ふたり一組のスパイクレシーブ練習、大塚達宣の強烈な一撃を、勢いを殺しながら上げる。そのやりとりを心から楽しんでいるようだった。釣られるように、大塚も笑みを漏らしていた。

 負けたら終わりのオリンピックの試合直前である。肝が据わっているというのか、一種の狂気か。「笑うリベロ」だ。

「(ドイツ戦後)がむしゃらになるのもいいけど、頭を落ち着かせて、『冷静にボールの判断、スパイクの打つところを確認していこう』と話をしました。『金メダルを狙う』と言ってますけど、まず予選を突破しないことには始まらない。次のアメリカ戦を考えず、アルゼンチンにしっかり勝って、と思っていたので、かける気持ちは強かったですね」

 かける気持ちは強かったが、大舞台でバレーを楽しむ、という嬉しさのほうが勝っていたのか。相手のスパイクを次々と上げる。そこには攻撃者を絶望させる冷酷さすら感じさせた。

【ブロックフォローで世界に差をつける】

 たとえば1セット目、山本がたて続けに拾うと、石川祐希のクロスへのスパイクにつなげ、15−11とリードを広げた。2セット目終盤には、山本が続けてディグに成功した展開で、石川のバックアタックが決まり、逆転の口火をきっている。腕1本でアルゼンチンをたじろがせた。

 派手なディグだけではなく、堅実にブロックフォローを入ることで、守りに厚みを与えていた。

「僕の役目は、点数が離れようが、近かろうが、ボールを落とさないことなので。ディグだけじゃなく、ブロックフォローとか、レセプション1本にしても、4セットを通じてしっかりと戦えたのが、勝因につながったと思います」

 山本は笑顔で言うと、こう続けた。

「僕自身、今日のテーマはブロックフォローだったので。しょうがないボールはあるんですけど、しっかり浮いたボールは絶対取れるはずなので、ひとりひとりがしっかりとサボらない意識を持って、マネジメントするようにうしろから声をかけてやっていました。ドイツ戦と比べて、ブロックフォローからの展開が修正されたのかなって思いました」

――めちゃめちゃ、楽しそうに見えました。

 そう問いかけると、山本は即答した。

「そうですね(笑)。1試合目(のドイツ戦)から僕は楽しんでいるんで。もちろん、プレッシャーもあるんですけど、楽しみながらバレーするようにしています」

 楽しむ。それは競技者としての異能である。

「僕は、"ブロックフォローだけをしっかりやれば問題ない"と思っていたので。レセプションも、ブロックディフェンスも、とてもいいチームだと思っているので、日本の強みはやっぱりブロックフォローから点数が取れること。"そこで世界と差をつけていかないと"と思っているので、練習のなかでも『ブロックフォロー』と口酸っぱく言ってやるようにした結果、数本、取れました。練習の成果が見られたと思います」

 山本は守備者としてさらなる変身を遂げ、チームを勝利に導いている。

 大会前のインタビューでリベロの矜持について訊ねると、彼はこう答えていた。

「リベロは"熱く冷静に"っていうのは心がけていますね。熱くなるところはいいけど、うしろから見えなくなったらダメだし、"自分が舞い上がってしまったら誰がチームをまとめるんだ"って思っているので、落ち着いて見るようにしています。ほかの人以上にボールを拾って、アグレッシブなプレーも大事だし、ボールを触れない時も、周りをどう助けるか」

 俯瞰しているからこそ、その中心にいる彼自身は笑っていられるのかもしれない。

「打てるもんなら、打ってこいよ!」

 アメリカとの決戦でも、リベロが笑う。

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