破産寸前から復調、紆余曲折を経た「ボルサリーノ」の現在地

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2024年08月21日 12:31  Fashionsnap.com

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 創業167周年を迎えるイタリアの老舗帽子メーカー「ボルサリーノ(Borsalino)」。熟練の職人の手による50以上の工程を経て完成するフェルト素材の中折れ帽や手編みの麦わら素材のパナマハットで人気を博し、現在も世界中のセレブリティが愛用している。一方で、元オーナー マルコ・マレンコ(Marco Marenco)の脱税と税金詐欺による逮捕や、一時は破産寸前に陥るなど、経営面では紆余曲折を経てきた。そんな同ブランドの業績は、現在復調傾向にあるという。そして、日本市場では日本企画によるライセンス商品の展開の再開も計画されている。老舗ブランドは、低迷時期からどのように復活を遂げたのか。

一時は倒産寸前に、「ボルサリーノ」の紆余曲折な歩み
 ボルサリーノは、イタリアの高級帽子メーカーとして1857年にジュゼッペ・ボルサリーノが創業。同氏が考案したと言われるアイコニックな形状の中折れ帽は、映画「カサブランカ」(監督:マイケル・カーティス/1942年)のハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンをはじめ多くの映画スターが着用したことなどをきっかけに、世界中で長年人気を博してきた。また、ファッション業界からの支持も厚く、カリフォルニアを拠点とするハットメーカー「ニック・フーケ(Nick Fouquet)」や、「トム フォード(TOM FORD)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「モスキーノ(MOSCHINO)」「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」「マルニ(MARNI)」「ロシャス(ROCHAS)」など、これまで多様なデザイナーやブランドとのコラボレーションを手掛けている。

 しかし、ハットを主力とする同ブランドは、リーマンショック以降の消費低迷とカジュアル化によるハット文化の縮小から、世界的に業績が悪化。2015年の元オーナー マルコ・マレンコ逮捕の後、2016年には投資会社 ヒエレス エクイータ(HAERES EQUITA)がオーナーとなったものの、2017年12月にはブランドの破産手続きを申請、2018年7月にはヒエレス エクイータが640万ユーロで買収し完全子会社化するなど、紆余曲折した道を辿ってきた。
 一方日本では、ヒエレス エクイータがオーナーとなり全ライセンス事業から撤退した2016年までは、世界の動向とは異なり堅調な売上を維持。2016年まで40年以上にわたってボルサリーノのライセンス品製造を手掛け、現在は日本事業を運営する中央帽子の担当者によると、当時の日本ではライセンス品を含めた布帛商品が比較的豊富にあったことが、売上に貢献していたという。なお、ライセンス以外の日本事業については、2007年から2018年までオーロラが本国商品の輸入販売を担った後、2018年にヒエレス エクイータと伊・リヴォンが共同出資で日本法人 ボルサリーノジャパンを設立。その後、イタリア主導での運営に苦戦したことから、2023年3月に中央帽子が日本事業を譲受した。
 中央帽子の担当者は、オーナー変更後のブランドの歩みについて「ラグジュアリーブランドへと舵を切るべく、全ライセンス事業の廃止や売場の選定などを行いリブランディングで再起を図ろうとしていましたが、そのタイミングでコロナ禍が発生。状況はさらに厳しくなりました」と説明。日本に関しても、コロナ禍では同様に苦戦を強いられたという。
リブランディング効果で徐々に復活、老舗ブランドの今
 コロナ禍収束以降は、消費動向の変化から世界的にラグジュアリーブランドの売れ行きが好調となったことに合わせて、ボルサリーノの“ラグジュアリーブランド化”施策も奏功し売上が徐々に復調。「カジュアル化・ストリート化が加速したコロナ禍からトレンドも変化し、ハットが再び見直されて着用者が増えていることも復調の要因だと思います」と担当者は分析する。
 そんなボルサリーノの現在の売上の主軸は、やはりブランドの代名詞とも言える「中折れ帽」を中心とした定番品だ。ツーリストのバカンス需要が高く、トレンド感のある華やかなデザインが人気のイタリアやフランスでも、売上の約60%は定番品で構成。バカンス需要が乏しい日本では、その構成比は約80%にも及ぶ。

 ボルサリーノの帽子は紳士向けのイメージが強いこともあり、ジェンダー別の売上では国内外問わずメンズが約85%、ウィメンズが約15%とメンズが圧倒的。メンズの売上は世界的に既に天井が見えてしまっていることから、ブランドとしては近年、売上規模拡大を目指しウィメンズ強化に取り組んできた。
 その施策の一環として、同ブランドでは非対称的なジェンダー別のマーチャンダイジング方法を採用。メンズは定番品のみを展開する傍ら、ウィメンズは近年新しくデザイナーを起用し、春夏と秋冬の年2回シーズナルコレクションを提案する代わりに定番品は存在しないという、ユニークな商品ラインナップを打ち出してきた。しかし、思うような成果が得られなかったことから、2025年春夏シーズン以降はウィメンズのデザインの方向性を再度見直し、メンズ定番品のウィメンズ版として「シンプルな中折れ帽」を訴求していく予定だという。

 日本国内でも、PR会社と連携したウィメンズ強化の施策を独自に展開。「2024年春夏シーズンから、メンズ定番品の中折れ帽をはじめとしたユニセックスな帽子を積極的に女性誌にリースしコーディネート提案することで、“ボルサリーノ=紳士帽子”のイメージを払拭するべく取り組んできました」(中央帽子担当者)。

 一方、メンズに関しては、近年は「クワイエット・ラグジュアリー」がトレンドになった影響もあり、日本ではアイコンの中折れ帽だけでなくキャップの人気も上昇。有名ラグジュアリーブランドも使用しているという、上質なイタリアンメイドのウールや撥水ナイロン素材にゴールドのブランドロゴをさりげなくあしらった上品で洗練されたデザインが、子どものいる富裕層の30代男性などを中心に好評を得ているそうだ。

約8年ぶりにライセンス復活、日本市場拡大に向けて
 2016年以前には、本国のイタリアに迫る世界2位の売上規模を誇る市場だったという日本。“ラグジュアリーブランド化”施策によるライセンス商品廃止や、その後のコロナ禍の影響などから売上が減少し、現在は回復傾向にあるもののイタリア、アメリカに次いで日本は3番目の市場だという。
 そのような中、当時の日本でのライセンス商品の売上に改めて本国が着目したこともあり、現在ボルサリーノは約8年ぶりに日本企画のライセンス商品の再導入を計画している。中央帽子はアイテムラインナップやデザインについて本国に承認申請中で、早ければ2025年春夏シーズンから直営店で展開をスタートした後、段階的に卸先での展開も予定しているという。担当者は「ライセンス企画では、世界的なトレンドを取り入れつつ、これまで本国企画では行えていなかった部分を補填していく」と話し、日本市場のニーズによりマッチしたアイテムを拡充することで、売上拡大を目指す構えだ。
 ブランドの今後については「日本事業を強化するのはもちろん、イタリアとのコミュニケーションを強化し世界的なPRを行っていくのが理想。日本からも積極的にアイデアを出し、本国を中心に全世界にブランドの魅力を発信していけたら」と展望を語った。

■ボルサリーノ:公式オンラインストア

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