パワーバットの驚異の飛距離! 乱闘で殴られると投手のスタミナ激減!? 異端のメジャー風野球ゲーム『ベースボールスターズ2』

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2024年08月26日 18:41  ベースボールキング

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『ベースボールスターズ2』
◆ 野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史〜第43回:『ベースボールスターズ2』

 あの頃、メジャーリーグは遠い世界の出来事だった。

 1995年の野茂英雄渡米前、日本のほとんどの野球ファンにとって大リーグは他人事だった。ちなみに国内でメジャーリーグという呼称は、ハリウッド映画『メジャーリーグ』とファミリーコンピュータ経由で徐々に広まった記憶がある。『プロ野球 ファミリースタジアム’88』収録のメジャーリーガーズの「チーム本塁打479本」というまったくリアリティのない数字が当時の日本球界と大リーグの距離だった。

 正直、どれくらい凄いのかすら分からない。1987年、ヤクルトに来た前年MLBで27本塁打のボブ・ホーナーをスーパーサイヤ人のように崇め、バカンス気分の大物大リーガーたちが来日する日米野球はマイケル・ジャクソンやマドンナのライブを見るような感覚で放課後にテレビを眺めたものだ。今となっては信じられないことに昔は日本シリーズも日米野球も平日午後に開催されていて、会社の会議室や学校の視聴覚室で普通に野球を見れた。コンプライアンスより、ベースボール。いい時代だったというのはイージーだが、ユルい時代だったのは確かだろう。

 そんな時代を象徴する野球ゲームが、『ベースボールスターズ2』である。1990年の前作に続くシリーズ2作品目は、試合中の演出面がメジャー風に強化され、アーケードで稼働後の1992年4月24日に『NEOGEO(ネオジオ)』専用ソフトとして発売。SNKの野球ゲームといえば、パワードアーマーによって強化された選手たちがプレーする『2020年スーパーベースボール』など独自路線で知られるが、ファミコンの『目指せ三冠王 ベースボールスター』も架空の8つの球団のリーグを戦い、資金を稼ぎ、選手を獲得して自チームを育成する異質なゲームだった。



◆ アメリカンプロレスのようなエンタメ路線に振り切ったメジャー風野球ゲーム

 この『ベースボールスターズ2』も当時の『ファミスタ』や『燃えプロ』のような実在のNPBをモデルにした球団や選手ではなく、「トウキョウ・ニンジャズ」や「ニューヨーク・モンスターズ」といった架空の12チームが登場。デザインや演出はとことんメジャーリーグ風に振り切っている。

 ザ・ロード・ウォリアーズばりの筋肉マンが放った打球はピンポン球ように飛んでいき、投手は200キロ超えの剛速球を連発する。三振をすればヒートアップしたバッターがヒザでバットをへし折り、ファウルボールは巨大化してフェンスのないスタンドに飛び込み、隙あらばオーバーアクションの審判がゲームを盛り上げる。さらに死球を与えると高確率で乱闘になり、打者に殴られ顔面襲撃の強烈なダメージを受けた投手は、一瞬でスタミナが失われ使いものにならなくなる理不尽さ。殴った側が退場することもなく、先に手を出した方が勝ちというヤンキー漫画風世界観で試合はハイテンションで進んでいく。



 全15試合を勝ち抜き世界一決定戦を目指すペナントレースでは、名物オーナーが金も出すが現場に口も出しまくる。勝つと「よくやった! その調子だ!!」なんて気前よく勝利ボーナスをくれる一方で、「守備力のある選手を入れよ!」とか「大男のピッチャーを入れよ!」と毎試合無茶ぶり。獲得候補の助っ人選手リストを渡され強制的に現状のメンバーと入れ替えなければならない。さらにはいきなりスペシャル選手を代打でぶっこんできたりと現場介入でやりたい放題。三木谷オーナーのもとで指揮を執る楽天監督の疑似体験としても全野球ファンにオススメだ。



 そして、このゲームで勝負を分けるのは、パワーバットである。もちろん当時の米球界で蔓延した禁断の肉体改造的なアレ……ではなく、打球スピードや飛距離が格段に伸びる最強バットを攻撃時にタイム画面で「POWER UP」を選択すると使用可能に。まるで40本塁打・40盗塁の先駆者ホセ・カンセコと年間70発男マーク・マグワイアの“バッシュ・ブラザーズ”のような圧巻のパワープレーは爽快で、ペナント初期設定では1試合ごとに10打席分のパワーバットが使える。全盛期のバリー・ボンズのような破壊力で、対戦ではこのパワーバットを使うタイミングが勝負を分けるだろう。

 基本的に本作は打高投低の設定で盗塁は異様に成功しやすく、投手のスタミナは常に酷暑の甲子園レベルで消耗され、前作で難易度の高かった外野守備はオート守備を搭載。例えば『実況パワフルプロ野球』シリーズのように野球というスポーツのリアリティよりも、アーケードの短いプレイ時間でも気持ちよく遊べることを優先させている。そこに思想や哲学はなく、あるのはパワーと能天気さ。ホームランを打つとみんなでホーム付近に集まりお祭り騒ぎ。まるでUWFに対するアメリカンプロレスのようなエンタメ路線に振り切ったメジャー風野球ゲームといっても過言ではないだろう。



 野茂がドジャースで活躍した90年代中盤以降は、日本でもMLB野球ゲームが多く発売されるようになり、パワプロや次世代ゲーム機の影響を受け、野球のリアルさを追及する流れが主流となっていく。いわば、日本野球界の開国前夜の1992年に『ベースボールスターズ2』は世に出たのだ。

 なお当時からネオジオは、ハードとソフトで10万円近くするキッズにはリアリティのない高価なゲーム機(自分含め所持しているクラスメートはひとりもいなかった)で、『ベースボールスターズ2』もたまにゲーセンで遊ぶのがやっとの高嶺の花。現在でもレトロゲーム屋の通販サイトを覗いて見ると、『ベースボールスターズ2』ROMカセットは69,800円のプレミア価格だ。やはり縁がなかったか……と昨今のレトロゲーム高騰化を嘆いていたら、ニンテンドーSwitchの「アケアカNEOGEO」シリーズならば、なんと838円でダウンロード版を購入できてしまう(スマホ版は650円!)。
 
 架空の球団に選手、パワーバットにド派手な乱闘劇と確かにあらゆる設定がユルく古い。だが、その古さが、令和の今遊ぶと妙に斬新で自由に感じられるのが『ベースボールスターズ2』の魅力なのである。

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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