米オラクル幹部に聞く、生成AIが描くビジネスの未来 経営者はどう生かす?

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2024年09月14日 12:11  ITmedia ビジネスオンライン

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ITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じたエバン・ゴールドバーグ氏

 2024年に入り、多くのエンタープライズ向けのソフトにも生成AIが導入され始めている。米オラクルでは2023年夏ごろから自社製品に生成AIを導入。中小・成長企業向けERP(企業資源計画)パッケージ「Oracle NetSuite」では、企業のデータを元に生成AIが経営に関わる業務を効率化したり、文脈に即した事務的な文章を自動で作成したり生産性の向上を支援している。


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 この機能は「NetSuite Text Enhance」と呼ばれ、7月17日に日本語にも対応することを発表した。この機能の日本語対応は、英語に次ぐ2言語目であり、それだけ同社が日本市場を重視している姿勢がうかがえる。


 オラクルは、NVIDIAやカナダの生成AIスタートアップ「コヒア(Cohere)」との連携を強めながら、ビジネス向けに強力でセキュアな生成AIサービスの開発を進めている。今回、NetSuite向けに生成AI機能が導入されたことも、その一環だ。


 オラクルは生成AIが描くビジネスの未来をどう見ているのか。生成AIは、われわれのビジネスはどう変えるのか。前編に続き、NetSuite創業者で、オラクルでエグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるエバン・ゴールドバーグ氏に聞いた。


●AIのないビジネスシステムは「車輪のない車」


――ゴールドバーグさんは「世界初」とも言われるクラウドアプリケーション「NetSuite」を開発するなど、二十数年テクノロジーの進展を最前線で見てきました。AIが今後もたらす社会的なインパクトを、どう見ていますか。


 AIはビジネスをしていく上で有用なアドバイスをユーザーに与えたり、またその支援をしたりすることができます。まず始めにAIが作り出すインサイト(分析)というものがあります。機械学習やAIは、パターンを見つけることを最も得意としています。ですから、販売データを見ながら、そのパターンの分析をとても高いクオリティーで実行できます。


 そのためERPに生成AI機能を搭載することによって、非常に立派な統計分析機能を持っていない中小企業でも「この製品はどういった特性を持っているか」「どういった顧客に売れているか」など非常に細かいインサイトを得られます。


 AIとは対話形式で直接やり取りできます。経営者は、その結果から今までに思い付かなかったような質問や疑問点を思い付き、それをAIにぶつけることで、さらに精度の高い回答を出してくれます。これは経営者にとって非常に大きなインパクトになると思います。これが当たり前になってくると、もはやAIのないビジネスシステムは「車輪のない車」と言っても過言ではないと思います。


――NetSuiteにおける生成AIの日本語対応が始まります。英語に次ぐ2言語目であり、日本市場への期待もうかがえます。日本市場への今後の投資についてどのようにお考えでしょうか。


 今、AIのテクノロジーは世界中に普及し始めています。その中で全ての言語でこれが使えるようになったらすごいことだと、私も興奮しています。そのためには大規模言語モデル(LLM)が必要になってきますので、LLMへの投資も進めていきます。これが可能だったからこそ、日本語対応がいち早く実装できました。


 これから先、私たちもAIへの投資を進めながらAIツールを日本の皆さんが使っていけるように頑張っていきたいと思います。同時に、汎用ではなく日本に特化したAIの専門家にも投資をしていきます。やはり、各国の市場によって求められているものは異なります。日本独自の商流など、日本にとって最も適切な技術を育成していくために専門家への投資が必要になります。


――日本に限らず、世界にさまざまな業種がある中で、DX投資によって変革の余地が大きい業種はあると思いますか。もし、特に注目している業界があれば理由とあわせて教えてください。


 あまり限定はしたくないのですが、今まであまりITに投資をしてこなかった業種が一番恩恵を受けると思います。例えばいわゆる従来のメーカーであるとか、物流会社であるとか、これまでITへの投資とDXを進めてこなかった業種を挙げることはできます。こういった企業ほどERPパッケージを導入することで、DXを推進できると思います。当社の製品であれば分野ごとにそれぞれ別のシステムを導入し、企業側で連携する必要性もありません。


 あと申し上げたいのは、今「○○業界」というような線引きがすごく難しくなってきている点です。製造業だけど実はサブスクリプションモデルで自社の製品を販売するような企業も続々と登場しています。業界間の境界線があいまいになっている意味でも、業界別に特化した製品を企業が導入するのではなく、汎用でオールインワンパッケージになっている製品を導入したほうが、DXという観点でも優れていると考えています。


――ゴールドバーグさんはオラクルを退職後、1998年に「NetSuite」を起業しました。起業した理由を教えてもらえますか。


 オラクルを辞めて、まずソフトウェア会社を立ち上げたのですが、これは失敗しました。シリコンバレーではお約束とされている“Mandatory Silicon Valley Failure”(シリコンバレーの義務的失敗)を経験したのです。これはつまり「絶対に失敗しないと学ばないから、まずは失敗しないといけない」という、シリコンバレーの通過儀礼です。


 私がオラクルを退社してからも、オラクル創業者のラリー・エリソンは私のビジネスを気にかけてくれました。私が最初に事業にしようとしていたのは、Webサイトのデザイナー向けのソフトだったのですが、ある日ラリーから「最近どう?」と電話がかかってきたんです。そこで私が全然うまくいっていないことを伝えると、ラリーは「何か別のことを考えないと。次は中小企業向けソフトのビジネスモデルはどう?」という話を5分だけして、それがNetSuiteの誕生につながりました。まさにラリーなくして、今のビジネスは生まれませんでした。


――NetSuiteはその後、世界初のクラウドERPとして、米国を中心に多くの企業が導入することになりました。ビジネスが好転していく際のターニングポイントは、どんなところにあったと思いますか。


 ビジネスが好転する前は、NetSuiteを企業に営業する際、CFOに向けて話をしていました。なぜならソフトへの出資を決めるのはCFOだからです。ところがCFOは立場上、会社の中で一番保守的な考えを持つ役職でもあります。当時のCFOは、情報をクラウドに置くことに対して、どうしても懐疑的になる場合が多かったのです。


 こうした中で、私がターニングポイントだと思ったのは、CFOの認識が変化したことです。こうしたCFOたちが当社の競合他社、つまり(自社で保有し運用するシステムである)「オンプレミス」によって展開しているソフト会社に対し、「オンプレミスだと自分たちでデータベースやハード、OSを管理しなければならない」と考えて、コスト面を意識した時だと思います。


 その点、NetSuiteでは、クラウド上でブラウザを動作させます。こうした導入コストが少ない当社の優位性を、多くのCFOが知るようになったとき「潮目が変わった」と感じました。


――なぜCFOの意識が変わったのでしょうか。


 当社のクラウドという考え方が、時代より早かったのだと思います。2000年代に入り、みんながインターネットに慣れてきて、2010年代以降は個人の生活でもクラウドを使うことが当たり前になってきました。もしかしたら、CFOも家庭の子どもたちを見ていてそう思ったのかもしれません。ただ、CFOですから、一番大きな理由はコストを節約できることだったのだと思います。


――経営者にとって必要な資質は何だと思いますか。


 どの国でも、どの会社でも、共通して3つの点を挙げられると思います。それは「ビジョン」「素晴らしい人材がいるかどうか」「きちんとした財務管理」の3つです。この3つができれば、素晴らしいビジネスができると思います。


 このうち、経営者のビジョンを元に財務管理を適切に円滑に進める上でも、ERPは導入すべきだと考えます。企業に優秀な人材がいれば、その人がERPの導入を勧めてくるかもしれません(笑)。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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